真緒side


「ま〜くん、きょうね、ひみつきちにしゅうごうね?」

「…?りっちゃんちじゃないの?」

「ふふふ♪ま〜くんがびっくりするものみせてあげる。」

「えー!ほんと?!きになる!じゃあまたあとでね!」

数日前急に遊ばなくなった凛月が、いきなり上機嫌で訪ねてきたから俺はその時驚いていた。


秘密基地に何があるんだろう、と凛月の家の薔薇の庭園を抜けた先にある秘密基地に思いを馳せていた。

お昼ご飯を食べていて、約束の時間に少し遅れそうになりながら慌てて俺と凛月の秘密基地に行った。

「…りっちゃん…?いないの…?」

小さな小さなログハウスの前でキョロキョロと周りを見渡す。

可笑しいな、約束の時間を間違えたかな、と思ったところで凛月がどこからか出てきた。

「ま〜くん、」

「う、わっ!びっくりしたっ!」

「ふふふ、もっとびっくりするよぉ♪」

凛月が後ろに何か隠すように立っている。

「なになに?」

首を傾げていると、凛月の後ろから何かがこっちを見ていた。

「………?りっちゃん…だれ?」

きょとんとする俺がおかしいのかくすくすと笑いを堪えられないでいる凛月。

「ふふっ、ふふっ、じゃーん!おとーと!」

周りの大人が綻ぶような笑顔をしながら見せてきたのは小さな男の子だった。

「おとー…と…?」

「りっちゃんね。おとーとがほしくてね。おかーさんにおねがいしたんだぁ。」

くひひ、と笑う凛月に俺はポカーンとしていたと思う。

「おにいちゃんがね、あかちゃんはコウノトリがはこんでくるんだよっていうからね、おかーさんにもうひとりちょおだい、っておねがいしたの。そしたらね、コウノトリがはこんできてくれた!!りっちゃんのおとーと!」

おとーと、と呼ばれている男の子の手をぎゅう、と握りしめながら語る凛月に俺は何も言えなかった。

だって俺の妹は、その時お母さんが一生懸命唸りながら産んだ小さな小さな赤ん坊だった。

手なんて、小さくて動きはぽわぽわしてる。たまにぎゅっと、指を握ってくるんだ。

だから俺でも赤ちゃんはお母さんから生まれるんだって分かってた。

でも、凛月は自慢げにその男の子を見せてきて俺は違うよ、なんて言い出せなかった。

「…なまえはなんていうの?」

「なまえだよぉ♪」

「…なまえ…。」

「なまえ、おにいちゃんのともだちのま〜くん。」

「…ま〜くん…」

小さい口から出た俺を呼ぶ声。それがなまえとの初めての出会いだった。

その後同い年だということを知ってさらに衝撃を得たのは言うまでもない。








「なまえ?今から体育だろ?」

A,B組合同の体育のはずなのに体操服のまま体育館から逆戻りするなまえを見て呼び止めた。


「あ、ま〜くん…。いや…あの…呼び出されて…」

「あー…凛月?」

こくりと頷いたなまえは朔間三兄弟の中では一番色白かもしれない。

「いいよ、俺が迎えに行くわ。どうせ寝てんだろ?」

「…いいの?」

「おう、てかなまえじゃ凛月運べないだろー?俺に任せろ!」

いつもの世話焼きな面が出てしまいなまえの役目を引き受けて凛月の元へ向かうことにした。

なまえはま〜くんありがとうと体育館へ戻っていった。


凛月がいそうな空き部屋に向かった。
だいたいどこにいるかは把握できてる。

がらりとドアを開けたらやっぱり凛月が窓際で机に伏せていた。

「…遅い。何分待たせ……、ま〜くんじゃん。」

苛立ったような凛月の声からいきなり変わった。

「はいはい、俺ですよ〜」

「…なまえは?」

「なまえなら体育館。なまえの代わりに俺が迎えにきたわけ。」

「……あいつ…。」

「あー、なまえじゃなくて俺が無理やり行くって言ったんだからなまえが悪いんじゃないからな?」

「…ごめんけど今はま〜くんって気分じゃないの」

「はいはい、凛月は年中なまえって気分だよなー」

「違うよ、なまえは俺の人形だからね〜」

「えー?そりゃ勿体ないなーじゃあ俺がなまえを弟にもらおっかなー」

「あー、ま〜くんやめといた方がいいよ〜?なまえなんて使えないからね?夜脅かしたらすぐに怖がって震えてるし、しかもいじめたらすぐに泣くし、おまけにあいつ、いっつも俺の布団に潜り込んでくるんだよ〜?暑くて鬱陶しいしほんと出来損ないだからね〜?」

…俺の幼なじみは弟が好きすぎて困る。

脅かすのはなまえが好きだからだろうし、いじめるのも好きだからだろうし、布団に潜り込んでるじゃなくて凛月が無理やり布団の中に引きずり込んでるのを俺は知っている。

なまえがお兄ちゃんにやめてほしいこと8つのうちの1つに入っていた。


「はいはい、それならどうぞ、りっちゃんの弟は取らないであげるよ」

肩を竦めて手をあげた。

「別にいらないからね〜すぐにでも道端に放り投げたっていいもんね〜」

そう言いつつ誰よりもなまえの手を強く握って離れないようにしてるのを本人は気づいているんだろうかと気になった午後14時。

授業開始のチャイムが遠くで鳴っていた。

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