なまえside「昔の記憶」


昔からよく1人で遊ぶのが好きな子だと言われていた。

覚えてる一番昔の記憶は大きな大きなお屋敷に連れていかれ、新しいおかあさんとおとうさんとおにいちゃん2人が出来たということ。それより前の記憶は思い出せなかった。

なまえはお母さんの子供なのよ、と言われていたからそうなんだと信じていた。その時は。




自分の部屋の大きなおもちゃ箱の中から、車の形をしたおもちゃとよく分からない真っ黒な人の形をした人形を掴んでそっと部屋を出た。

人形は俺が来た時から部屋の中に置かれてあったものだった。

両脇に抱えて、螺旋状の階段を一段一段降りていく。
体が小さい俺はこけないようにゆっくり歩く。

とん、と下まで降りたところで目の前に頭2つ分高い影ができた。

「………ぁ」

1番上のおにいちゃんだった。

「なまえ?どこに行くんだよ?それで遊ぶのか?」

「……」

零兄ちゃんに声をかけられて俺は固まってしまった。

俺は一人で裏庭の日陰に行こうとしていた。一人で両脇に抱えている車と黒い人形で遊ぼうと思っていた。

何も言わず居心地悪そうにもじもじする俺に零兄ちゃんは屈んで俺の目を見た。真紅色のその目に、本当に俺はおかあさんの子供なんだろうかといつも不思議に思っていた。

俺は黒色の目なのに、お兄ちゃんたちは紅い。それがまた俺を一人で遊ばせる理由だった。


「…言いたくない?」

零兄ちゃんは優しい。優しく聞いて話してくれる。

「……おにいちゃんにいわないなら…いう…」

「…いいぞ。俺となまえの秘密な」

零兄ちゃんは黒くて綺麗な髪を揺らして笑った。

こくり、と頷いてそっと零兄ちゃんに耳打ちした。

「へぇ。なるほど。あそこで遊ぶのか。」

「…おにいちゃんにいわないでね…」

「わかった。内緒な。」

「うん…」

それから零兄ちゃんと別れて俺は何かから隠れるようにパタパタ走って裏庭まで向かった。


裏庭の大きな大木の後ろが日陰になっていてそこはお気に入りだった。

そこに、車のおもちゃと人形を置いて一人で動かして遊んだ。

芝生の上を黒い人形が車にのって走る。

心の中ではしゃぎながら楽しんでいると遠くから風に乗って声が聞こえてきて肩がびくりと揺れた。

「なまえ〜?どこにいるの〜おにいちゃんだよ〜」

「なまえ〜?」

お兄ちゃんの声だった。

零兄ちゃんに言わないで、って言ったのに…。

いや、多分本当に零兄ちゃんは言わないでいてくれたんだと思う。

多分、俺を探してここまで来たんだろう。

どんどん近づいてくる声に怖くなって、おもちゃを芝生の上に投げたまま近くの茂みに隠れた。


「なまえ〜?……かくれんぼかなぁ?♪」

近くにきたお兄ちゃんは芝生の上に転がったままのおもちゃを見て楽しそうに笑っていた。

「あははっ、おれ、鬼とくいだからね〜♪」

お兄ちゃんの足音が大きくなってきた。
このままじゃ見つかる、と思って逃げようと動いたら足元にあった枯れ木がカサッ、と音をたてた。

「っ…!」

「みーっけ!なまえみっけ!」

お兄ちゃんの嬉しそうな顔が目の前いっぱいに広がった。

「おにいちゃん…」

「ふふっ、かくれんぼ?♪おにいちゃんつよいよ?なまえがいる場所ならどこだってわかるからね〜。ほら、いこ?」

「…まだおもちゃであそびたい」

「だめ。なまえはおれとおひるねするの」

「……。」

お兄ちゃんに見つかったら、全部お兄ちゃんのしたいように俺は振り回される。

だから見つかりたくなかったんだ。だから一人でひっそり遊ぼうと思ったのに。

「…ここにいるのなんでわかったの…? 」

「いったでしょ〜なまえがいるところならどこでもわかる、って♪だってりっちゃん、おにいちゃんだからね〜♪」


手を握られてしまうともう振り解けない。

俺と同じ小さな手なのに、かなり力が強いんだ。

お兄ちゃんが弟としてすごく可愛がってくれるのはわかるんだけど、どこか怖くて俺はその時から遠ざけていた。それを許さないと言わんばかりに何をするにも俺は引きずり回されていた。

そう、小さな子供が抱ききれないぬいぐるみを地面に引きずりながら歩くみたいに。

幼い俺は抵抗する手段もなくそのままずるずると引きずられていくのだった。

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