夢の世界は幸せ。

何をしたって許されるし、不思議な世界の中で過ごすのは嫌いじゃない。楽しい。

横暴なお兄ちゃんはいないし、1人で色んなところを旅する夢は楽しい。たまに怖い夢を見ることもあるけど、それでも夢の中は自由で幸せだ。

今見ている夢はよく分からないところで人がたくさんいて、俺はその大勢のうちの一人だった。

うじゃうじゃいる人達の中で高いところに人がいて目立っていた。

ぼーっとその上に立つ人達を見ていると、よく見たらお兄ちゃんたちだった。

ああ、お兄ちゃん遠いなあ、ぐらいにしか思わなくて俺はもっと別のところに行きたくて大勢の人たちを掻い潜るように歩いた。

突然、後ろから聞こえる声。

「なまえ〜、なまえ〜、」

後ろを見るとお兄ちゃんが来ていた。何だか逃げたくなって急ぐように人混みをかき分けるのにぎゅうぎゅうに押されて苦しい。

「うぅ…くる…し…」

そんなに押さないでほしい。息がしにくい…。

やめてよ…と思ったところでぼんやりとした意識になった。

「……。」

視界は薄暗い部屋。

ああ、夢か。でも夢から醒めてもこの体を締め付けられる感じはなんだろう。

「うう…」

体を見ると手と足が巻きついていた。
ああ…。一瞬で察した。

「んん…なまえ…まて…」

むにゃむにゃと寝言を漏らすお兄ちゃん…。目が覚めるとこうやって抱き枕みたいに扱われているのは少なくない。

睡眠妨害だ…お兄ちゃんはいつも俺の安眠の邪魔をするなって言うけどお兄ちゃんこそ人の邪魔をしてるじゃないか…と言いたくても言ったら面倒臭いから言わない。

そっとお兄ちゃんの腕から抜け出してため息を吐いた

まだ早朝。今日は俺は予定があるんだ。
静かに着替えて部屋を出た。



***


凛月side



「ふぁぁ……ねむ……。」

ふかふかベッドに包まれながら手探りをすると、そこにいるはずのなまえの体がない。

鈍い頭であれ?と思って目を開けるとそこになまえの姿はなかった。

「……はぁ?」

今日は休みだし、遅くまで寝てようと思ったのに一体どこにいったのか。

むくりと起き上がって、気だるい体を引きずりながら部屋を出てみた。

廊下を見てもいない。
そこから、家の中を探してもなまえはいなかった。

仕方ないからくそ兄貴の部屋を開けて入り込む。

ベッドの上で安らかに眠ってる兄者に蹴りを入れた。

最初の1発じゃ起きないから何発か入れていると呻きながら目を開けた。

「…ひどいのう…。お兄ちゃんに向かって暴力はんたーい…」

「なまえはぁ?」

「はて?我輩は見てないぞえ」

「……隠してる。本当のこと吐け。」

「そんな頬を膨らませた可愛い顔をされても我輩も困るのう…」

イラッとしたからもう一蹴りお見舞いしてやった。

「うっ…痛い…、…転校生の嬢ちゃんがこの間なまえにライブの手伝いをしてほしいと言っておったのはちらと聞いたが…。はて、確か今日の昼から始まる衣更くんたちのライブだったような…」

「はぁ?なまえが手伝い?俺たちのライブだって手伝ったことないし、鈍臭いのに手伝いなんて出来るわけないじゃん。」

「張り切っておったぞい?頼まれたから頑張るんだと昨日の夜言っておったのう、くくく…」

昨日のなまえを思い出しているのか微笑ましいのうと笑う兄者にやっぱり知ってたんだと、とぼけた真似をしたことに許せなくて目を細めて睨んだ。

「俺には何にも言ってなかったし。…1人で出来るわけないじゃんあのなまえが。」

あいつは、なまえは、お兄ちゃんが、俺がいないと何も出来ないんだから…。

「もういい。俺も行ってくる。あー…こんなクソ暑い中外出るとか自殺行為なのにさぁ…。どうしてやろうかな…この罪は重いよねぇ…」

兄者の部屋に置いてあった大きな日傘をひったくった。

「あっ、凛月〜それは我輩の日傘なんじゃけど…。」

グダグダ言ってる兄者なんか無視して、外に出る前から完全遮光の日傘を開いた。

「最悪。暑いしまさに生き地獄…。…帰ったらたらふくあいつの血飲んでやる…。」

唇を噛みながら外に出た。

むわっとする空気とさんさんと照り注ぐ日差し。

傘に守られて俺はなまえのところへ向かった。



▼ back ▼