家を出て早々に地面から照り返す熱にやられながら、なまえが手伝っているというイベント会場に向かった。
兄者の日傘をさしながら目的地まで歩く。
俺に何も言わず行くなんて言語道断。どこに行くにもお兄ちゃんに言ってから行けって教えたはずなんだけどな、と言うことを聞かないなまえに不満を覚えながらイベント会場に着いた。
「さぁて…どこにいるかな〜うちの鈍臭い末っ子はー」
会場の裏に回ってみればすぐに見つかった。
日傘をさしながら物陰に潜んでなまえを見た。
暑い中、髪の毛から汗を垂らしながら動き回っているなまえ。
ま〜くんたちの出番の直前なのか忙しそうに動いている。
ほんと、大丈夫なんだろうかと暫く見ていると近くに置いてある機材を運ぼうとしたのか1人でその大きな真っ黒いものを持って持ち上げようとした。
いや、無理でしょ。なまえの体であんな重いの持てるわけないじゃん。
案の定、持ち上げたはいいけどなまえは左にふらりとフラついた。
「っ!」
体が反射的に物陰から出そうになった時、ま〜くんが気づいて一緒に運んでくれたようだ。直前なのに手伝わせてしまったことに悪いと思ったらしいなまえはごめんとひたすら謝っている。
「はぁ…あっぶなぁ〜」
冷や冷やさせないでよねぇ。
ほっ、と息を吐いた。
「凛月もお兄ちゃんじゃのう〜」
「っ!」
上から聞こえた声に急いで振り向くと兄者が俺の日傘をさして立っていた。
「何でついてくんの。てかそれ俺の傘じゃん。」
「我輩も可愛い弟が頑張ってるところ、見守りたいんじゃもん。あと凛月が我輩の日傘持っていくから仕方なく借りたんじゃ。」
「もん、とかキモイ。」
暑い中顔を真っ赤にして頑張るなまえは偉いのう。あとで褒めてあげよう♪なんていう兄者に、イラッときてとりあえず足を踏んづけといた。
傍から見れば物陰に日傘さした2人が隠れて見ているわけだ。不審がられるから帰ってほしいのにこの兄者は多分絶対帰らない。
「あっち行ってよ。俺の半径500m以内に入らないで」
「ひどいのう。それなら家にも入れんぞい」
「入らなくていい。俺となまえだけでいい。ていうか、今からトリスタのライブ始まるんだから兄者はステージ側にでも行って見ればいいじゃん。」
「うーん、それなら凛月も行くかや?」
「俺は裏方にいるなまえを見てるからいい。」
「くくくっ、そうじゃろう。我輩も同じ気持ちじゃよ。頑張る弟を見たいんじゃ。」
「兄者は見なくていい。」
結局、言い合ってるといつの間にかま〜くんたちのライブは終わっていてなまえもほっとした顔で皆を迎えていた。
もちろんそこには転校生もいるわけだけど。
転校生がなまえに近づいて肩をトントンと叩いた。
何をする気なんだ、と目を細めると転校生が俺たちの方を指さした。
それからなまえの視線がその指さした方向を辿って俺たちと目が合った。
なまえは「げっ、」というような顔をしている。
兄者は横でなまえ〜、と手を降っているけど俺はそんな優しくない。勝手に出て行って怒っているんだぞ、と目を細めて見てやるとなまえはあからさまに目を逸らした。
転校生がずるずるとなまえを引き連れて俺たちのところまでやってきた。
「今日も仕事かや、嬢ちゃん。偉いのう。なまえも暑い中頑張ってお兄ちゃん今すぐ抱きしめて褒めてあげた、ヴっ…「どうも、俺の弟をこき使ってくれたようでぇ〜」
兄者の腹に肘鉄を食らわして転校生に話しかけた。
「凛月、なまえが進んで手伝ったんじゃから転校生の嬢ちゃんをそう言うのは悪いじゃろう」
「そ、そうだよ、むしろ俺は手伝えて嬉しいし…っ全然力になれてなかったかもしれないけど…」
そんなことないよ!なまえくん本当にありがとう。私だけじゃ成功できなかったから本当に感謝してる、と言う転校生になまえも顔を赤くするから今すぐ家に連れて部屋に投げ込みたくなった。
「それより凛月…何でここにいるの…零兄ちゃんには言ってたけど…」
その言葉に目を細めてなまえを見た。
「お兄ちゃん、でしょ〜??ていうか兄者には言って、何で俺に言ってないわけぇ?」
我ながらいつもはお兄ちゃんって呼ぶなと言ってるくせに、こんなところではお兄ちゃんと呼べというのも身勝手だと分かってはいるけど止められない。
お兄ちゃんを強調して言うとなまえは困ったように兄者を見た。
「べ、別に…言う必要ないじゃん…」
「はぁ…??」
ちらりと俺を見てまた目を逸らすなまえに今すぐこの場で首に噛み付いてやろうかと思ったけどそれは兄者によって止められた。
「ほれほれ、兄弟喧嘩はやめじゃ。兄弟仲良くお家に帰ろうぞ♪」
なまえももう手伝うことはないのか転校生から帰っていいと言われてそのまま3人で帰ることになった。
日傘をさした俺と兄者。何もさしていない太陽の光を浴びているなまえ。
俺と兄者の間に入れて、三人で並んで歩いた。
「俺に言わなかった理由聞くまで部屋から出さないから。」
「……こうなるから言わなかったんだよ…。」
「はぁ?」
「零兄ちゃん、お兄ちゃんに教えたの?」
「…許しておくれなまえ。じゃないと我輩土に埋められるところだったんじゃ。」
おいおい、と泣く兄者を睨みつけてなまえを見た。
「一人じゃ何も出来ないのに、手伝ったりなんかしてさぁ。」
「…一人でできるもん。」
「なまえには無理だね。お兄ちゃんがいないと何も出来ないもんねぇ。」
ふふん、と笑ってやるとなまえは黙り込んで地面を見つめていた。
「………。」
何も返さないなまえに、少しだけ不安になった。お兄ちゃん嫌いとか言われたら、なんて頭を過ぎってなまえを見るのに何も言わない。
地面を見つめながら歩く横顔は何か考えているようで、一日中外にいたせいか肌は赤くなっている。陽射しを吸収した肌は熱そうで火照った頬や首は汗が垂れていた。
「………。」
俺は黙って自分の日傘の中になまえを入れた。遮光は完璧だから、少しは涼しいかもしれない。
雨なんかじゃないけど、相合傘。
「…っ、」
なまえが驚いた顔で俺を見た。
「お、お兄ちゃん、肩出てるよ…」
確かに俺の肩には太陽の熱い陽射しが痛いくらい当たっている。
「…うるさい。」
兄者が笑う声が聞こえた。
うるさいうるさい。なまえは黙って俺の日傘の中に入ってればいいんだ。兄者は黙って俺となまえの視界から消えればいいんだ。
弟のために少しでも涼しいかと思って、相合傘をする俺はちゃんとお兄ちゃんでしょ?
だから、お兄ちゃん嫌い、なんて言わないでよね。
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