「あっ!なまえ先輩いらっしゃーい!」

「もう来てるんだ、早いね。零兄ちゃん見かけた?」

「いや?見てないですよ。」

軽音部に出向くと1年生のひなたくん、ゆうたくんがいた。探している零兄ちゃんの姿を聞くと、まだ2人は見かけていないらしい。

「どこ行ったんだろ…」

呼ばれたから来たのにいない…というのはよくあることなので深くは気にしない。

「ああっ!あそこ!ねねっ、なまえ先輩!ほら、外見てくださいっあそこに朔間先輩いますよ!」

ひなたくんの指さす方を窓から見ると外にいる零兄ちゃんが見えた。

「あ、ほんとだ。」

隣にはお兄ちゃんもいる。

「わ〜、 あの2人がいるのって珍しいですよね?何か話してるっぽい!」

「…あの2人も兄弟だからね、そんなに仲が悪いわけじゃないんだよ。」

窓ガラス越しに見る2人は互いに真っ赤な瞳を交差させている。

「ふうん…。疑問なんですけど、なまえ先輩も朔間なまえ先輩なわけで、三兄弟の末っ子じゃないですか。よく似てないって言われません??」

「ああ…」

それはもちろん、十人中が十人、初めて見る人は皆俺とお兄ちゃんたちが兄弟だなんて思いもしない。

「あの2人は俺たち双子みたいに似てるところ、割とあるけど、なまえ先輩は目も赤くないし…何か雰囲気が違うっていうか。」

「アニキ!俺たちだって似てないところあるだろっ」

全部が全部一緒だと言うのを否定したいのかゆうたくんがひなたくんの言葉に反応して頬を膨らませた。

「ていうか、なまえ先輩に失礼だろアニキ。髪は黒いし、色も白いし似てるじゃん。」

「あはは…。いや、ほんとでもひなたくんの言う通り。俺、兄ちゃんたちと全然似てないからね。よく言われる。似てないって。」

だって、本当の弟じゃないんだから。

心の中でそっと、正解を呟いた。

きっと、俺がお兄ちゃんたちと血が繋がってないのは真緒だけしか知らないと思う。

「…腐っても兄弟。血の繋がりは絶対だと思う。」

零兄ちゃんを鬱陶しそうに相手するお兄ちゃんを見て頬が緩む。双子たちが俺を見ているのが分かった。

「…なまえ先輩はやっぱり血が好きなんですか?」

「えっ…あはは、ううん。むしろ嫌いかも。」

「俺たちみたいに似すぎてるのもうんざりする時もあるけど、似てないってのもやっぱり何か思うところはあったりするんですか?」

2人から交互に質問が繰り出されて俺は窓から目を逸らして双子を見た。

「ううん…特に何にも。似てないって自分でも自覚あるから。」

「へぇ〜!でも似てなくても朔間先輩たちは仲良いですよね!なまえ先輩はいつも真ん中の凛月先輩と一緒にいるし。」

「ん〜仲良く見える?」

傍からは仲良く見えるかもしれないけど実際は違うんだ。

だってお兄ちゃんは俺のことを弟だとは思っていない。酷いし、血を吸う時は痛みなんて気にせず自分勝手。それでいつもお前は他人だと言ってくる。

反対に零兄ちゃんは優しいから本当の弟のように接してくれようとしている。

吸血鬼兄弟2人の弟なんてただの枠付けだけで俺には務まらない。一緒にいるだけでも違いすぎることが多くて俺は兄弟じゃないとまざまざと突きつけられるんだ。

お兄ちゃん曰くコウノトリが連れてきた弟はもういらないだろう。俺は夢ノ咲を卒業したらもう2人とは離れる予定だ。家を出て1人で生きていこうと考えている。

あと少し。その間だけ兄弟ごっこをするんだ。

「ほら、零兄ちゃんもういないからそろそろ帰ってくるよ。部活の準備しよっか。」

窓際から離れる時に、お兄ちゃんがこっちを見ていたことなど気付く由もなかった。



***


「なまえ、今日兄者のところに行ってたよね」

「え…?」

お風呂から上がってあとは寝るだけで自分の部屋に帰るとお兄ちゃんがベッドに寝転んでいた。

「…呼ばれてたから。」

「俺も来いって伝えてたはずだけど〜?」

「っ、お兄ちゃんより零兄ちゃんの方が先だったから」

「うるさい。お兄ちゃんって呼ぶな。なまえは弟なんかじゃない。」

何回も聞いたこの言葉。
いい加減聞き飽きて、俺はつい口走ってしまった。

「…っ、いいよっ。もう呼ばない。お兄ちゃんは俺の本当のお兄ちゃんじゃないもん。」

「………。」

呼ぶなと言ったから、もう呼ばない、と言うと人を殺せそうなほど鋭い視線で俺を見た。

「っ、」

「なまえなんか家族でも何でもないんだから。俺がいらないって言ったらなまえなんかっ」

「…いいよ、どうせ卒業したらここ出ていくし、そしたらもう会うことなんてないんだから。俺は家族なんていないし、一人で生きていくんだから関係ないよね!どう?嬉しいでしょっ」

誰にも言わない予定だった俺の将来のこと。
売り言葉に買い言葉でいつもは乗ることなんてないのに、ついカッときて秘密にしておくはずが漏らしてしまった。

「俺だってもう血を飲まれることもないし、離れられるのが待ち遠しくてたまらなっ…!!」

最後まで言い切る前にお兄ちゃんの手が俺の首を掴んでベッドに押し倒された。

「っ、いたいっ!」

俺に馬乗りになったお兄ちゃんは今までに見たことがないくらい怖い顔で俺を見下ろしている。

「離れる?もう一回言ってみてよ……。誰が離れるって……?」

怖い。薄笑いを浮かべるお兄ちゃんは目が据わっていて俺はごくりと唾を飲み込んだ。

「…俺が、…ここから出て、「うるさい!」っ…」

今まで小さな喧嘩から大きな喧嘩までしてきたけど、ここまで怒ったお兄ちゃんは見たことがない。

「許さない、絶対許さない。俺から離れる?絶対にそんなの認めない…。なまえをここに連れてきたのは俺なんだよ…?俺がいなきゃなまえ生きてないんだから…。俺がお母さんに頼まないとなまえなんかどこかで死んじゃってたかもしれないんだから…。お兄ちゃんから離れる?無理でしょ…無理無理…お兄ちゃん…、俺と一生そばに居ないと生きてけないんだよ…」

ぶつぶつと呟きながら俺の首を撫でた。薄く痕になっている噛み傷を触られて身震いした。

「ふふっ、これがある限り俺のなんだから…、絶対に認めない。なまえにそんな自由最初からないんだよ。」

真っ赤な目がこれでもかと俺の顔に近づいて覗き込んできた。

「…今度馬鹿なこといったら全部飲み切ってカラカラにしてやる…」

口元から見える尖った歯がこれからすることを物語っていた。

「…っ、お兄ちゃ、やめっ!」

止める声も聞かずに牙を皮膚に突き刺した。

「〜〜〜〜っ!」

痛い、いたい、あつくて、いたい。

涙がじわりと浮き出た。

「…謝ったら仲直りしてあげてもいいよ。謝らないならこのままずっと…」

「…っ、ごめっ、ごめんなさっ、い」

「もう離れるなんて馬鹿なことは言いません。ずっと凛月のそばにいます。って。ほら、」

「……っ」

「ほら、」

ぐにり、とまた深く刺さる。

「っ、も、う離れる…なんて、ばかなっこと言いませ、んっ、ず、ずっと…り、つの…そばにっ…い、ます……」

情けなくて痛みじゃない涙が出てきた。ポロポロと零れる涙をお兄ちゃんは舌で舐めとった。

「いいよ、仲直りしてあげる…。」

ゆらりと笑ってお兄ちゃんの唇は綺麗に弧を描いた。




結局、俺はお兄ちゃんとの喧嘩で一回も勝てた試しがない。

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