毛布の外に顔を出していると寒くて思わず頭まで毛布を被った。

まだ眠りから醒めない浅い意識の中で手探りに毛布を握りしめて丸まる。すると背中にもぞもぞ動くものが当たってきた。

なに…?眠たいのに…。

重たい瞼をうっすらと開いて毛布から顔を出した。背中に当たってくるものを見ようと毛布を剥ぎとって背中の方を振り向くと俺と同じく丸まったお兄ちゃんがいた。すうすう気持ちよさそうに寝ている。

ええ…。なんでお兄ちゃんここにいるわけ…?昨日自分の部屋で寝てたじゃん…もぉ…眠いのに…。

はぁとため息を吐いて狭くなったベッドの中で体を起こして、しばらく目の閉じたまま、うとうとしていた。

もういいや、いつもより早いけど起きようかなあ…。

薄い目のままベッドから出ようと動いたらパジャマがぐい、と引っ張られた。

「ぅ、…」

ボスンとベッドに倒れてしまい、お兄ちゃんを見ると、俺のパジャマを握りながら目を閉じて寝ている。

離してよ…。

お兄ちゃんの手を退けようとパジャマを引っ張ってみたのにお兄ちゃんの手はぜんぜん離れない。寝てるのに離さないってどんだけなんだ。

はぁ…ねむい…。

あと30分は眠れるし、窓の外はまだ暗い。…諦めて寝るか…。

仕方なく半分取られている毛布の中にくるまってもう一度目を閉じた。





「おーーい、凛月ー、なまえー、起きろー」

んん…。ま〜くん…?
目をゆっくりと開けてみると、ま〜くんがベッドの横に立っていた。

「…おはよう…」

「うし、なまえは大丈夫だな。あとは凛月かー。おーい、凛月ー」

あれ…ま〜くんがお兄ちゃんを起こしに来ているということは今何時…?

ぱっと時計を見るといつも自分が起きるより遅い時間で一気に目が覚めた。

「えっ、やば、」

起き上がろうとすると体が言うことを聞かない。お兄ちゃんに抱き枕の如く抱きつかれているからだ。

「もう…離してよ…!お兄ちゃん!」

早くしないと準備がのろまな俺は遅れてしまう。

「あはは、俺が来た時にはもうなまえ、抱き枕にされてたぞ」

苦笑いするま〜くんに見られて恥ずかしいという気持ちと早く離れてほしいという気持ちからお兄ちゃんをグイグイ押すのに全然離れてくれない。

「むにゃ…」

起きるかと思えばお兄ちゃんがいきなり首筋に鼻をすりつけてきた。

「ちょっ、と…!」

やばいやばいこれお兄ちゃんの血を吸う前の仕草だ。口を開いて尖った歯がちらりと見えた。ま〜くんの目の前で吸われるわけにはいかない。

必死でお兄ちゃんから逃れるようにしているとま〜くんが助けてくれた。

「ほーら、凛月!朝だって!起きるぞー」

「んん…ま〜くん…?」

俺はやっとの思いでベッドから這い出した。

「ま、ま〜くん起こしてくれてありがとう…」

「おお、なまえがこの時間まで寝てるって珍しいよな!早く行こうぜ!準備してこいよー」

「うん」

まだ寝ているお兄ちゃんは放っておいて俺は顔を洗いに部屋を出た。

顔を洗って着替えて、朝ごはんを軽く食べて準備ができた頃には、もうお兄ちゃんはま〜くんに制服を着せられていた。

「よし!この時間ならまだ間に合う!行こうぜ!」

ま〜くんに毎日お世話してもらっているお兄ちゃん。今日くらいは自分で登校させないと、と動かないお兄ちゃんの腕を引っ張った。

「お兄ちゃん…早く…」

「んん…ねむ…」

「お兄ちゃん…!」

「…うるさいなぁ…、血吸われたいのぉ…?」

「…っ、いいから、早くしないとま〜くん待たせてるから…!」

「いいんだぁ…じゃあ後でたっぷり飲んであげる〜」

にやりと笑ったお兄ちゃんは「あ〜、だるい」なんて言いながら体を起こして歩き始めた。

「…動けるなら最初から動けばいいのに…」

「何か言ったぁ?」

「別に…」

お兄ちゃんの口車に乗せられたような気がしなくもない俺はま〜くんの後を追いかけた。


「さむっ!やっべー!」

「寒い…。家帰りたい…」

冷たい風に3人でマフラーに顔を埋めながら通学路を歩いていく。ま〜くんとお兄ちゃんの会話をぼんやりと聴きながら俺は手袋を家に忘れてきたことを後悔していた。

お兄ちゃんを動かすことばかり考えていて俺は自分の手袋を持ってでるのを忘れて素手。お兄ちゃんはしっかりマフラーも手袋もしている。指先の別れていない親指だけが別れているふわふわのニット手袋。

俺は冷たい手を丸めて袖の中に隠した。少しでも冷えた風に当たらないように。それでも寒いなあと思っているとお兄ちゃんが俺を見た。

「手袋は〜?」

「……忘れた。」

「はぁ?なまえってほんとノロマだよね〜。」

「………。」

お兄ちゃんのせいだし。お兄ちゃんがカタツムリみたいに動かないから、動かすのに必死で忘れちゃったんだよ。

心の中で言い訳したけど、それを言葉には出さなかった。どうせ言ってもまた何か言われるだけだもん。

黙ったままマフラーに顔を埋めていると目の前に赤色の手袋が1つ差し出された。左手側の手袋。

「…なに?」

「片っぽ、貸してあげる。」

「…いいよ、別に…」

断ったら、お兄ちゃんは俺の左腕を急に掴んだ。手袋を外したお兄ちゃんの手は温かい。俺の左手を赤色の手袋に乱雑にズボッと入れた。

それからお兄ちゃんは右手にしている手袋はそのままにして、素手になったお兄ちゃんの左手が俺の右手を取った。

ぎゅ、と握られたその手を、お兄ちゃんは自分の制服のポケットに入れたため俺の手もポケットに入る。

なにこれ。一つの手袋を二人でつけて、空いた手を繋いでポケットの中で温めるとか…。

「…ぷっ、お前ら仲良いなぁ〜!!」

「違うよ、ま〜くん。自分の用意もできないのろまな弟のために俺が仕方なくこうやってお世話してあげてるの。」

よく言うよ。自分はいつもま〜くんにお世話されてるくせに。
お兄ちゃんのポケットから手を引き抜こうとしたらぎゅ、と強く握られた。
…こういう時だけお兄ちゃん面するのほんと昔から変わらない。

まあ…でも寒かったから手袋は正直嬉しかった…。

「お兄ちゃんありがとう…」

ぽつりと言うとお兄ちゃんは俺を見て、くすくす堪えきれないように笑っていた。何故か上機嫌で俺もま〜くんも顔を見合わせて呆れた。

それからま〜くんと一緒に学校についてもずっと手を繋いだままポケットに突っ込まれていた。

「…学校着いたからもういいよ…」

「だめ。」

「…あ、零兄ちゃん。」

校内でちょうど零兄ちゃんと会った。近づいてきた零兄ちゃんは俺とお兄ちゃんを見て首を傾げた。

「凛月〜なまえ〜、…なんじゃ? 2人仲良く手繋ぎ登校かえ?えっ、なぜ我輩は仲間はずれなんじゃ…?寂しいのう……しくしく…、じゃあなまえと凛月の間に入って三人で手繋ぎを…」

「くそ兄者、滅べ。」

「えっ、凛月ひどい!」

「いくよ、なまえ」

「わっ、ちょ、引っ張らないでよ…零兄ちゃんまた後で…」

「愛しい弟たちよ、可愛らしいのう…」

腕組みをしてうんうんと頷いている零兄ちゃんを置き去りにお兄ちゃんは俺の手をまたぎゅ、と握った。

「いい?手繋いでいいのは俺だけだから。」

……何で?とは聞かない。多分お兄ちゃんだからだー、とか無茶なこと言ってくるっていうのがもう想像できるから。

「返事は?」

「……わかった。」

どうせ、はい か YESしか受け付けないんだろう。

お兄ちゃんは今日もお兄ちゃんだ。


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