イライラする。
俺にバレてないとでも思っているんだろうか。
チラチラと俺を見てくる目がウザったい。
『おい、ジロジロ見てんじゃねーよ。』
俺がイラついて声を出すと真は大げさなくらいビクついてずれたメガネを直した。
「ご、ごめん!あの、なまえくん今日問題当たる日だから、準備、してる…?あ、してないなら僕事前に解いてるから、これ、」
バタバタと忙しそうに自分の机から出したノートを俺に見せてきた。
そういうとこが俺をイラつかせるのをこいつは知らないんだろうか。
『いらねーし。』
「あ、そ、そっか…。うん、わかった…」
俺が冷たくあしらえば大人しくノートを閉まった。
何でこいつと隣の席なんだろう。思えば小さい頃から腐れ縁で、一緒にいることが多かった。
やんちゃだった俺は小さい時はいつも真を守ってやってた。真はいつも泣きそうな顔で俺の名前を読んで、俺が手を差し出してやれば嬉しそうな顔で笑ってたのに。
それから真はモデルを始めて俺とは以前程一緒にいることもなくなった。
会えばなまえくんなまえくんと近寄ってきていたが、俺はいつも一緒にいたのにいきなり離れていったからその反動で素直になれず突っ放していた。
それが続いて俺は真にイラつきやすい。
それでも真が一緒の高校に行きたいってしつこいから同じ学科を仕方なしに選んでやったし、俺はダンスさえ出来ればどの学科でもよかったから真の願いを聞いてやった。どうせ俺がいないとダメなんだろうと思ったから。
それなのに前は1人でビービー泣いてたのに、いつの間にか真の周りは賑やかになってて、キラキラ輝いていてそれがすごくウザイ。視界に入れたくない。
ほら、今も明星が「ウッキー!」なんて言って真の周りでギャーギャー騒いでる。
はぁ、ウザい。ウザイウザイ。真のせいだ。ウザイんだよ。
イライラしてしょうがないから席を立った。
「えっ、なまえくん、どこ行くの」
『お前に関係ねーだろ。』
「そ、そうだけど、授業始まるよ?」
『…ほっとけよ。』
真の言うことは無視して教室を出た。ああ、あいつから離れるとイライラも少し落ち着く。
ぶらぶらと歩いていると後から声をかけられた。
「ねぇ、ちょっと。あんたさ、ゆうくんに対してあの態度なんなの?」
出た。あいつのことゆうくんって呼ぶのは一人しかいない。心底めんどくさくて顔に出しながら振り返った。
『なんすか?関係ないじゃないですか。俺はほっといて欲しいのにあいつが絡んでくるだけなんで。』
「ゆうくんの親切をなんだと思って…。」
この人は学年も違うってのに、なんでさっきのやり取りを知ってるのか…。まあ気にしたら負けだし別に興味ないからどうでもいい。
この目の前にいる先輩の瀬名泉が真のストーカーだろうと俺には関係ない。
『別に俺は頼んでないですから。』
「あんたのためを思ってゆうくんは昨日準備してたのに…」
『何でそんなこと知ってるんですか、気持ちわる。』
ああなんでうちの学校はこうも変人ばっかなんだろうか。頭が痛くなりながら絡んできた瀬名先輩をあしらってサボり場に向かった。
すでに先客がいて、3年の先輩だった。話していても気が合うし、こんな無愛想な俺でも可愛がってくれて話しやすい先輩だ。
『先輩もサボりっすか?』
「お、なまえくんも?ここどーぞ。」
ぽんぽんと先輩が隣を手で叩いたからそこに座った。
「ねーねーなまえくん。いい話があるんだけどさ。」
『なんですか?』
「来週のイベントのダンス要員が、1人空きが出たんだって。入りたい?」
『え、あのイベントですか?』
「うん、悪い話じゃないでしょ?」
先輩の言うイベントとは、外部でも大きなイベントでそこのダンスに入れるというのは良い経験になるしアドバンテージにもなる。そんな良い話、悪いわけがない。むしろ食いつきたい話だ。
『入れるんですか…?』
「入りたい?」
『…っ!もちろん!』
「じゃあ…、キスして。」
『…は?』
先輩の言った言葉が一瞬理解できなかった。俺の聞いた言葉が間違いなければ…
『き、す…?』
「そーそー。俺なまえくんのこと好きだからさ。」
サラッとそう言ってのけた先輩は爽やかに微笑んでいてこちらが困る。
『や、え、え?』
「ごめんね。卑怯だよね。でもさぁ、入りたくない?ダンス。」
『は、入りたいですけど …』
「じゃあ、キス。」
『え、ちょ、』
どんどん近づいてくる先輩の顔に動揺して引くことしかできないが、手を掴まれていてこれ以上離れることができない。
こうなるとどうしようもできなくて、力強く目を瞑った。次に来る感触を覚悟して。
(あれ…?)
息を飲んで待っていても何も来ない。恐る恐る目を開けたら、先輩の肩を掴んでいる真が目に入った。
なんでこいつがここにいるんだ?
「何か用かな?」
先輩があからさまに眉間に皺を寄せている。
真は俺の手を取って無理やり俺を立たせた。
「なまえくんを呼びにきただけですから…!」
『ちょ、おい!』
有無を言わせず力いっぱい痛い程に引かれて歩き出した。振り返ると先輩は苦笑いして手を振っていた。
まて、イベントのダンスの話はどうなったんだよ。俺はイベントの話があるから覚悟して先輩からの意味不明な条件も飲もうとしてたのに…。
こいつのせいで全部ダメになったのか?
廊下をある程度歩くと真は俺の手を離した。
「なまえくん…何してたの…。」
『はぁ?お前に関係ないだろ。』
「先輩と…キ、キスしようとしてたよね…」
『…だから何?』
お前とは関係ないじゃん。気持ち悪いか?男がキスしようとして。そりゃそうだよな。でもお前は俺のこと何にも知らないからそんなこと言えるんだよ。
お前らは望まなくても充分なほど活躍する場もたくさんあるだろうけど、俺は違う。
掴めるチャンスがあればそれにしがみつかないと先に進めねえんだよ。
たとえ…先輩とキスすることになっても。
「…っ!あの先輩のこと好きなの?」
『んなわけねーだろ。関係ないっつっただろ。』
「イベントのダンスに入りたいから…?」
『っ、何で知ってんだよ。』
何こいつ。何でその話をこいつが知ってるんだよ。
「それって、キスだとしても体売ってるのと同じことだよ…?!そんなこと…なまえくんがそんなこと…」
イライラする。まるで俺を汚い、みたいに言いやがって。本当にこいつはイライラする。
真が切羽詰まったような顔で俺の肩を掴んできて、反射で払いのけた。
その時、俺の手が真の眼鏡に当たって、カシャンと音をたて眼鏡は床に落ちた。
『っ、触るな。』
床に落ち眼鏡を見て少し罪悪感に苛まれながらも真を睨みつけた。いつの間にか俺より高くなった身長、見上げるようになった。
眼鏡をかけていない真を見るのは久しぶりで変な感覚だ。先程の先輩より何倍も整っているその顔はやはりモデルに最適だと思わされる。
「何で?さっきの先輩には触らせてたよね…」
『だから、あれは、』
「なまえくんは危ないよ…ああやって流されやすいし、あんなことしなくてもなまえくんには色んなチャンスがあるんだよ…毎晩練習してるのだって皆知らないところも僕はちゃんと見てるから…」
ブツブツと言うよう真の言葉に聞き捨てならないものが聞こえた。俺が家で毎晩練習してるなんてなんでこいつが知ってるんだよ。親しか知らないはずなのに。
ぐい、っと壁に押された。力が強くてふらつきながら壁に背中をつけた。
「僕ができることなら何でもするのに…なまえくんのためなら何だって…」
『お、い…、何言ってんだよ…』
「あんな先輩に触れられるなんて駄目だよ。消毒だ、消毒がいるよね。」
くいっと、顎を上に向かされて顔が近づけられる。伏せ目がちに見下ろされた緑色の目に吸い込まれそうになる。
俺が声を発する前に真の唇で塞がれた。吐き出そうとした息は飲み込まれて、息も絶え絶えになるほどに啄まれた。
『な、に、やめ、』
「なまえくん、なまえくん…」
いきなり名前を読んで縋るように抱きすくめられ、いきなりのこいつの挙動に驚きすぎて声が出ない。
とにかく離れようと胸板を押したが全然動かない。ヒョロい真がいつの間にこんなに頑丈になっていたんだろう。
押し返す俺を気にもせず、さらに力を込めて抱きしめてきた。
「こんなことならもっと精度の高いGPSつけるんだった…僕のなまえくんは誰にも…」
ボソリと聞こえた言葉に俺の体は固まった。
何を言ってるんだ、こいつは。
GPS?
この学校にストーカー人間は1人じゃないことを知った。
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