07


ウィーン…

反応して自動で開かれたドア。
普段ならなんでもないような両開きの自動ドアも今なら見上げるほど大きく見える。

「いらっしゃいませー!」

涼しいスーパーの店内は店員が野菜をダンボール箱から出しては陳列している。

その横を買い物カゴを持って歩きながら目当てのものを探していく。

「えーと…ピーマンと、豆腐と…しょうゆと… 」

しょうゆは背の高いところに置かれていて、指先が震えるくらいつま先を伸ばして背伸びした。

「うー、…っと。」

ギリギリ指が掠って取ることが出来た。

「あとは…」

冷蔵庫に足りないものは全部入れたしあとはレジに向かうだけ。
小さな子供の体型だとカゴをもって歩くにもなかなか大変だ。

レジに向かって一直線に行っているとふと目に入ったものがあった。

「うずら卵の燻製…とのり天…」

店員のオススメなのか、【これで夜の晩酌は何倍も美味しくなります!!】というチラシが貼ってあった。

隣には缶ビール。

「……美味そう。」

ごくりと喉がなった。

ビールと卵の燻製にのり天か…いいじゃないか。

今日の晩酌は何倍も…美味しく…。
ヨダレが垂れそうになりながらビールとツマミをカゴに入れてレジに向かった。

「いらっしゃいませ〜」

重たくなったカゴをレジの上において財布を取り出した。お金は事前に貰っているから余裕がある。

「ピーマンが1点、豆腐が2点、しょうゆが1点、ビールがいって……、…あの未成年の方はアルコールは買えませんが…」

財布からお金を出して買い物カゴがやってくるのを今か今かと待っていた俺は店員さんの言葉に目をぱちくりさせて顔を見上げた。

「………えっ?」

驚いた顔で見上げる俺に苦笑いする店員さん。

「あの、お父さんの?ごめんけど、僕じゃこれは買えないよ。」

「…っいや、25…」

言いかけてやめた。25歳と言ったところで信じないだろう…。まさかこんなところで制約があるとは…。

何も気にせずビールをカゴに入れてしまったけど、買う気満々だったから少しショックだ。

「…駄目ですか…?買わないとパパに怒られるんです…」

「ごめんね、お酒は20歳以上って決まってるからねぇ」

「…わかりました…」

しょぼんとした俺に容赦なく店員さんはビールを取り上げてしまった。





「…っていうことがあったんだよ。」

「いや、何してるんだよ…」

仕事から帰ってきた独歩と一緒に夜ご飯を食べながら今日の出来事を話した。

「ビールを取り上げられた俺の気持ちが分かる?おもちゃを取り上げられた子供みたいに悲痛な顔してたと思う。」

「そんな子供見たくありません。」

「…!ビール買えないなんて不便だ!独歩!買ってきてよ!ビール!飲みたい!今日だってツマミしか買ってないもん!このうずらの卵美味しいよね!でも足りないよ!何か足りないよ!」

頬を膨らませて独歩を見たら、片手で膨らんだ頬を潰された。

「ブッ」

唇から空気が漏れて独歩が真面目に聞いてないのが尚更俺に火をつけた。ビールビールと連呼する俺に独歩はため息をついた。

「はぁ…いいか?子供はビール飲んじゃ駄目なんだ」

「25歳だ。問題ない。」

「問題あるんだよ。なまえくんの体は子供だろ?成長に悪いからお父さんは認めません。」

疲れた目で俺を横目でみる独歩。

「…でもこのツマミ美味しいじゃん?飲みたいじゃん?」

「まぁな。美味しいけど。とにかくなまえくんは飲んじゃだめ。」

「…〜〜っ!一二三もそういった!飲んじゃだめって!2人は飲んでるのに!何で俺だけ駄目なんだ!」

「当たり前だろ?子供の心配をしてるんだぞ?我が子の健康が第1だろ…」

「絶対そんなこと思ってないくせに…」

「今度、なまえくんの目の前で美味しそうなツマミとビールでも嗜もうかな。」

「はっ?!性格悪い!独歩が性格悪い…うう…」

机に項垂れる俺に独歩が笑ったのが聞こえた。

「ほら、ちゃんと炭酸買ってきてそれで我慢してるなまえくんは偉いじゃないか」

俺の頭をぐりぐりと撫でた独歩を見上げた。

「……ノンアルでもだめって言われたから仕方ないだろ…。」

ノンアルが買えないことも割とショックだったため、俺はもはや萎えきって家に帰ったのだ。

それを一二三に説明すると爆笑しながら仕事に出ていった。

俺の気も知りもしないで…。

「いいなぁ…一二三は今頃飲んでるんだもんな…仕事と言えども羨ましい…」

ホストという仕事が大変なのは分かるけど、飲めるのは羨ましいとちょっと思ってしまう。

「そうだな…。まぁもし俺が一二三だったら…ホストなんてのは無理だろうな…。コミュニケーション能力はないし、あいつみたいに明るくないし、そう思うと色んな人を相手してるあいつはすごいなって思うよ…」

「……。」

独歩はおかずを見つめながら、俺にはできないことをあいつはいつもしてるんだ…と言った。

小学生の時からの付き合いだと聞いていた。

お互い、分かってないとここまで一緒にいれないよなぁと俺はそんな独歩を見て思った。

「…さっきのやっぱ撤回する。独歩は性格いい。」

「…どうも。」

「だから、これあげる。」

ピーマンを独歩のお皿に入れてあげた。

「……お父さん、お残しは許しません。」

俺を見る独歩の目が痛い。

結局独歩の箸が俺の口に近づいてきてピーマンを無理やり入れられたのは苦い味と苦い経験。



prev * 8 / 10 * next
| back |