08


独歩side

今日もグチグチ上司から言われて最悪な一日だった。

いや、毎日が最悪すぎて最悪なんて言葉もう使えないんじゃないか…。沈み切ったテンションで家の鍵を開けて入った。

「…ただいま…。」

口から漏れたのは生気のない声。
ああ、疲れてるなぁ…。

いつもならここでなまえくんがおかえり〜と出迎えてくれるのに今日はない。

どこか行ってるんだろうかとリビングに入るとソファの上で重なっている二人。

「……。」

ソファの上で仰向けに寝ている一二三の上に重なるようにアザラシみたいになまえくんがうつ伏せになって一二三の上ですやすやと寝ている。


親子かよ!!!

という盛大なツッコミが俺の心で響いた。

小さな手にはリモコンが握られていて、今にも落ちそうだった。

「………。」

さっきまで疲れていたテンションがこのゆるい光景に絆されて馬鹿らしくなってきた。

そういえば、一二三今日は休みだって言ってたな…。

「……可愛すぎかよ。」

ぼそりと漏れた声は今度こそ生気を保ったものだった。

カバンを自分の部屋に置いてスーツを脱いだあと、ラフな格好に着替えてリビングに戻る。

まだ寝ている2人の傍に立って見下ろした。

規則正しい寝息で目を閉じている二人。

上下する一二三の胸の上でなまえくんもそれにつられて微かに上下している。

「…っ」

頬が緩んでくすりと漏れそうになった。

こいつら、多分テレビ見たまま寝たんだろうなぁ…。

俺が必死になって仕事してるのに帰ってきたらこれか…。

はぁ、とため息をつくのに頬は緩んだまま。

料理はあんまり得意じゃないけど作ろうかな。

冷蔵庫を開けて材料を確認する。

作ってれば起きてくるかなぁと思って俺は簡単な手作り料理に取り掛かった。





「……起きないのかよ!!」


俺がテーブルの上に料理を並べても起きてこなくて、まだ2人はぐうぐう寝ている。

仕方ない、フライパンとフライ返しを手に2人のそばにたった。

それから思いっきりフライパンの底を叩いて音を鳴らした。

「起きろ〜、ご飯だぞ…!」

大きな音にびっくりしたのかなまえくんが「ひぇっ!」と変な声を出して顔を上げた。それから一二三も閉じていた目をぱちり、と開けた。

「んー、独歩、おけぇりー。いや〜寝てた。」

へらと笑いながら一二三は俺を見て、それから自分の体の上にアザラシみたいに乗っているなまえくんを見て少しびっくりしていた。

なまえくんはというと寝ぼけ眼で俺を見てから、数秒して、またとろりと目を閉じ始めた。一二三の胸にまた顔を埋めている。

「こらこらこら、なまえくん、起きなさい」

また鳴らすとやっと覚醒したみたいだ。

「うぅ…どっぽぉ…おかえり…」

おかえりといいつつまた目が閉じかけている。

これじゃ夜が眠れなくなるだろう、となまえくんの体を一二三の上からひょいと持ち上げて床に立つように下ろした。

「ご飯、出来てるから。」

一二三となまえくんにそう言うと驚いた顔でテーブルに向かった。

「えー!独歩すげぇ!頑張ったじゃん!」

「美味しそうー」

寝癖をつけたなまえくんは髪の毛を爆発させながら椅子に座った。



****


なまえside


「独歩ぉ、ビールは?」

「あるわけないだろ。」

「独歩の作ってくれた美味いご飯にビールは必須だろ!」

「ありません。お子様は飲酒禁止です。」

独歩に目を細められて頬を膨らませていただきますをした。

「一二三はお酒飲めるしいいよなぁ。ホストクラブって男も行っちゃだめなの?」

「んー、俺っちのとこの店は別にOKだけど、なまえはだめだぞ?だってがきんちょだもん。」

「えー。まじかぁ。」

「ほんと、見た目でいうとがきんちょなのになぁ〜。中身は確かに25歳だぞ。むしろ独歩よりおっさんぽい。」

「おい、俺よりってどういうことだよ。」

「なまえ、俺っちたちが昔ハマってたヒーローとかアニメの、話が通じてさぁ、不思議だよなー。こんなにちっさいのに中身が25…」

「どうせ、小さくなるなら美少年にでもなりなかったな。鏡みたら昔の俺まんまだったから残念だ。人生イージーモード経験してみたかった。」

「…人生イージーモードなんてあってたまるか…。俺みたいに底辺で生きてる人間のそばでそんな易々と生きてる人々がいると思うと…やっぱりこの人生は俺のせいなのかって…」

「どーどー、独歩〜落ち着け〜ほら、なまえもスイッチ押すんじゃありません〜」

こつり、と一二三に頭を小突かれた。

「独歩…。安心しろ、俺がいる。」

安心させるために言ってみたけど何か違う気がする。

「独歩〜俺もいるぞ〜」

軽快に笑う一二三と俺たちがいるぞ〜と言っていると独歩はやっと戻ってきた。

独歩が沈んでいる時は一二三がフォローして引っ張る。そんなところを見ていると、二人で歩んできたんだというのが垣間見えて少し羨ましくなった。

「いいな、お互いで支えあって。」

ぽつりと言った言葉に独歩が反応した。

「…なまえくんは家族とか恋人とか…その、小さくなる前は一緒に暮らしてたのか…?」

「いないいない。俺孤児だし。ずっと一人。恋人とかそんなん出来たことねぇー!」

ケラケラと笑って独歩の作ってくれた料理を頬張った。
しがないただの一人のサラリーマンしてたよ、と言うと一二三が俺の頭をわしわしと撫でてきた。

「なんだよぉ〜。今は俺っちたちがいるじゃん?」

「一二三、優しい〜」

白ご飯に口いっぱいに詰めてもぐもぐと食べる。

「俺さぁ考えてみたんだよな。なんで小さくなったんだろう、って。よく考えたら一人だし、俺がいなくなっても誰も困らないから都合いいからかなぁ、とかおもったり。」

炊きたて白ご飯うんめぇ、ともぐもぐ食べていると今度は独歩が俺の頭を撫でた。

「…独りじゃないよ。ここにいる。」

もぐもぐしていた口が少し止まった。

「ふへへ、あひがと」

もご、と喋ってまたもぐもぐするのを始めた。

おかしいな、鼻の奥がつーんとするのは何でだろう。

2人が包む空気があたたかくて俺はご飯を飲み込んだ。


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