待ちに待った瀬名と2人で出かける日。

楽しみで浮かれてしまい正直あまり眠れなかった。

天気は快晴で絶好のお出かけ日和だ。

出かける準備をした瀬名を見て息が止まりそうになった。何かいつも以上に服が似合っていて、アイドルしてる時みたいにキラキラしている。

瀬名の雰囲気を隠しきれなくて人目に付くとすぐ瀬名だとわかってしまうかもしれない。

大丈夫なんだろうかと心配していると瀬名が俺に聞いてきた。

「車とバイクどっちがいい?」

「…バイクは怖そうだから…車。」

瀬名はよくバイクも乗っている。俺はバイクというものにすら乗ったことがない。イメージでは怖そうなので車を選んだ。

「ん、じゃあバイクはまた今度ね」

え、また今度って。瀬名は俺といつかまた出かけてくれるつもりでいるらしい。

今日が最後だと知っている俺はすこし胸が締め付けられるけど今は忘れて今日という日を楽しみたい。

ばっちり決まっている瀬名とは違い、普通に服を身にまとった俺は鏡で見ると平凡そのものだった。

こんな俺が今日は瀬名と2人で出かける…。

鏡の中の俺は嬉しそうだった。

瀬名と2人で車に乗り込んで出発した。

助手席に座った俺は運転する瀬名をちらりと横目で見た。瀬名の横顔が綺麗でなぜかドキドキした。

「今日…どこ行くの。」

「海。なまえは人混みよりも開けたところの方がいいかなぁと思って。」

「…海!」

海という単語に胸が踊った。何年ぶりだろう、海なんて。小さい頃家族と行って以来、行ってない。

驚きと嬉しさで少し大きな声が出た。

「ふふ、海選んでよかったぁ」

そんな俺を見て瀬名は微笑んだ。

楽しみだ。瀬名と行くところ全てが楽しみ。



車を走らせて着いた海は真上に上がった太陽に照らされてキラキラしていた。

水平線から吹く穏やかな風が顔をぶつかり、髪を撫でた。

潮風を大きく吸い込んだ。
海だ。

久しぶりの海。海ってこんなだったっけ。
街から離れたこの自然に、すごく穏やかな気持ちになる。

「来てよかった?」

「うん。気持ちいい。」

青い海。瀬名を見ると青い瞳。同じ青だ。

それだけで海が好きになった。瀬名が連れてきてくれた海。うん、好きだ。

「なまえ、お昼食べようか」

「うん。」

瀬名と歩いて、テラスがある海辺のカフェに入った。

オシャレな雰囲気で、ゆったりとしたジャズがBGMとして流れていてお店の中もゆっくりと時間が過ぎているように感じた。

海が一望できる席に案内されて、瀬名と向かい合わせに座った。

「何食べる?」

「んん…。パスタ。…あ、パンケーキある。」

デザートのところへパンケーキが何種類かあった。
どれも美味しそうなものばかりで目を惹かれた。

「デザートで頼んだら?」

「え…や、いい。」

お金を貯めてるから、とは言えなかった。これからの生活のためにあまり出費はしたくない。

「今日は…あんまり持ってきてないから…」

財布に入ってるお金はあまり多くないという言い訳を苦し紛れに答えてパンケーキは諦めた。そんな俺を瀬名はきょとんとした顔で見た。

「…まさか自分で払おうって思ってるんじゃないよねぇ?」

「え…?払うよ。」

「バカ。なまえは気にしないで好きな物選びなよねぇ。俺が払うから」

「いや、今日は俺がお願いして来てもらったから…」

「そんな遠慮はいらない。はい、どれ?」

有無を言わさない瀬名はパンケーキを選ぶように俺に言った。

結局瀬名に負けて、俺は木苺のソースがかかったパンケーキを選んだ。

瀬名と海を眺めながら食べるランチとパンケーキは美味しくて幸せな気分になった。

お会計をする瀬名を待っている時に、窓ガラスに貼られた紙がふと目に入った。

アルバイト募集中…。

このカフェのアルバイトの募集で給料も良かった。内容は調理、ホール、その他諸々。資格は問わないと書いてあり、かなりいい条件だと思った。

お店の雰囲気も良くて、店員さんも対応がよかった。ここで働いてみたい…。

帰って調べるために頭の中に店の名前を叩き込んでいると、瀬名が来た。

「どうしたの?」

「ううん。なんでもない。」

「どこか見ていく?」

「うん」

お腹を満たしたあとは今どきのオシャレなショップに入り色々なグッズを見た。

貝殻を使ったストラップが目について、じっと見ていると瀬名がそれを手に取った。

「欲しいの?」

「…見てただけ。」

「それにしてはさっきからずっとこれしか見てないけどぉ」

「青のそれが…綺麗、だから。」

透き通った青色のストーンと貝殻でできた小さなストラップ。ストラップなんて一つも持ってないけれど、欲しくなった。

「じゃあ俺はこっちにしようかな。」

瀬名は色違いのストラップを手に取った。

「…瀬名、そういうのつけないでしょ…」

「なまえと一緒だからこれはつける。」

「…なにそれ。」

そんな理由つける意味にならない。それなのに俺は耳が赤くなるのがわかった。

瀬名はストラップを俺に買ってくれた。
瀬名と一緒だということが嬉しくて絶対に大切にしようと思った。

太陽が沈みかける頃、瀬名と海辺のベンチに座った。瀬名との思い出。楽しくてすごくいい思い出になった。

「瀬名、ありがとう。」

「なぁに、急に。」

「…連れてきてくれて。このストラップも大切にする。辛いことがあってもこれ見て頑張れる。」

「…辛いことがあった時はそれじゃなくて真っ先に俺に言えばいいの。そばにいるでしょ?」

「…瀬名は優しいね。お人好しすぎるくらい。…こんな俺を拾っちゃうぐらい。」

「…なまえだから拾ったの。」

「…ありがとう瀬名。瀬名が拾ってくれなかったら俺死んでたと思う。…瀬名と出会っていろんなこと、感じて思った。」

「…なまえが前に、生きる意味がないって言ってたよねぇ。その意味を一緒に見つけたい。だから俺を頼って。甘えて。」

瀬名はどこまでも優しくてあったかい。

「…もう見つかったよ。大丈夫。」

瀬名と一緒の世界で生きること。
それが俺の願いだから。

遠く離れていても同じ空の下で生きている。同じ世界で生きることができれば、それが俺の生きる意味。

「…寒くなってきたね。瀬名、帰ろう。」

立ち上がって瀬名を見る。今日は瀬名とたくさん話せた。一生分話したんじゃないかってくらい。

瀬名と過ごしていて、自分の気持ちに気づいてしまった。瀬名を想うこの気持ち。

瀬名が好きだ。

「なまえ、生きる意味って」

「…瀬名を心配させないように生きること」

上手く笑えただろうか。冗談のように笑い飛ばしてくれたらいい。

「世話がやける猫だからねぇ、俺の心配がいくつあっても足りない」

「…猫じゃない。」

「はいはい、ほら家に帰るよぉ。」

瀬名に手を取られて、温かいその手に引かれながら歩く。


ありがとう、瀬名。

もう少しでいなくなるけど、どうかそれまで瀬名のことを好きでいさせてください。

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