仕事を探して半月、ネカフェ生活を送っていた。

家賃なんて支払う余裕はないため毎日寝るところを探すのでいっぱいだった。

生活をするには田舎の方がいいけど、仕事がたくさんある街中から離れられなかった。

こんな俺でもできる仕事があるからだ。

まずはスマホを手に入れた。今は日雇いの仕事をしてかつがつ生きている。主に清掃の仕事をしている。ある日は公共施設だったり、ある日はショッピングモールだったり。黙って体を動かせばできる仕事。

今日も仕事場に行って、清掃着に着替える。

この仕事をしていると、集まるのは大体いつも同じ人だ。皆、色々理由があって毎日仕事を探しているらしい。

その中で1人、もう70を越えているおばあちゃんが声をかけてきた。

「みょうじくん、今日もおはようねぇ。」

「…おはようございます。」

「若いのに、こんな仕事しなくていいのにっていつも私は思うんだけどねぇ。仕事探さないのかね?」

「…とくにやりたいこととかない…ので…」

「そうなの…まあ今日もよろしくねぇ」

「はい…」

今日はショッピングモールだった。

清掃道具を持って営業時間前のモール内を歩く。
従業員が営業開始の準備している中でモップを持って掃除をしていると、家電製品を売っているエリアのテレビが目に入った。

朝のニュースが映っていた。

「あ…。」

画面の中にいたのは瀬名だった。テレビに映る瀬名は少し痩せた気がするけど、アイドルの顔をしていた。

元気そうでほっとする。
少しだけ、じくりと胸が痛んだ。
瀬名が遠くて、もう触れられるところにいないということ。

俺が瀬名の部屋を出ても、世界は普通に回る。瀬名はアイドルをしている。俺は清掃のバイトをしている。

それだけ。世界はいつも通り回る。
瀬名のそばに俺はいてもいなくても、なんてこと無い。

瀬名にも他人が部屋にいないといういつも通りが戻っただけ。それで、俺にも貧乏といういつも通りが戻っただけ。

それだけなんだ。あっけなく戻った日常とも言えるこの生活に笑ってしまいそうだった。
笑わないとまた戻りたいと思ってしまうから。

瀬名が頭から離れない。欲張りな自分を抑えて抑えて、現実を見ないといけない。もうあの幸せな時間は終わったんだから。

頭をふるふると降って、瀬名を追い出そうとしていると後から大きな声が聞こえた。

「ちょっと!君!手を動かしてくれないと!もう営業時間始まるから!…ったく」

これだから日雇いは…、とぶつぶつ言って俺を睨んだのはこのショッピングモール内を仕切っている人だった。

「…すみません…」

謝って掃除に戻る。もう一度テレビをちらりと見ると、もう瀬名はいなかった。


***


朝の掃除が終わったら、次は移動して今度はイベント会場の掃除を言い渡された。

近くだったので、歩いて行くとそこは音楽フェスの会場だった。

売店のゴミや地面に落ちているゴミを拾って清掃をする。

ライブが始まったのかかなりの賑やかさだった。

ステージが遠くに見えて、人が歌って踊っているのが見えた。

どこかで聞いたことがある曲だなと、どこで聞いたか思い出そうとした。

「やばい!トリスタの次Knightsじゃん!早く!」
「ちょっとぉ!待って!」

パタパタと走る女の子たちの会話でピンと来た。Tricksterだ。

大きい音楽フェスだとは聞いたけど、そこに出演するグループは知らなかった。

女の子たちの言うKnightsって、あのKnightsなんだろうか、とドキドキした。

もしかしたら、瀬名が見れるのかも。

ゴミを片付けるふりをして、ステージに近づいた。

観客が多くてステージとの距離はかなり遠い。

次のグループが出てくるのを待つ観客の熱気は更に高くなっている。音が一旦止んで、しーんとなった瞬間、曲の振り出しとともに5人の姿がステージに現れた。

一斉にわく歓声。

俺の鼓動も一緒に高鳴った。

瀬名が、見えたから。

久しぶりに見る瀬名にドキドキした。

ファンの皆に笑顔で手を振りながら、歌って踊っている。アイドルの瀬名を生で見るのは初めてだった。やっぱり瀬名はキラキラしてる。綺麗だった。

瀬名から見れば離れすぎていて俺は米粒にしか見えないだろう。でも瀬名の視界の片隅に自分が入ってるならばすごく幸せだと思った。

瀬名にしか目がいかなくて、ずっと眺めていた。

何度か瀬名がこちらを見る時もあったけど、もちろん遠すぎて視線が合うことさえない。

もし、ここで瀬名が俺に気づいたら家に連れて帰ってくれるだろうか。
もし、瀬名が俺に気づいたら駆け寄ってくれるだろうか。


…清掃着を来た俺なんてわかるわけないのに。…こんな何千人といる中でわかるわけないのに。

漫画みたいな想像をした自分を鼻で笑った。

Knightsのステージが終わって5人ともステージ裏へ消えた。

これは漫画じゃなくて現実。
今、瀬名と俺は半径500m以内にいるかもしれない。けど、どうやったって瀬名が俺に気づくことはないし、過去には戻れない。

俺もゴミ袋を持って会場から消えた。

仕事が終わって、ネカフェへ帰る。
もうネカフェの店員は俺を一瞥して何も言わずに対応している。

毎日来るから何か思われているかもしれない。

区切られた空間に入って財布と賞味期限ギリギリの半額弁当を置いた。

今日はいい日。瀬名が見れた。

椅子に座って、財布に取り付けたストラップを撫でた。これは唯一の瀬名との繋がり。

今日は、いい日…。
明日も頑張ろう…。

その日は瀬名と2人でピクニックに行く夢を見た。楽しかった。瀬名に芝生に寝転がるなと怒られた。それでも瀬名は寝転がる俺の頭を優しく撫でて微笑んだ。


夢だった。
起きたらネカフェの個室で、独りという現実を思い出して1人で笑った。

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