番外SS短編�A



『瀬名泉、触れたくなる肉体美』
と称された雑誌の特集。

リビングのソファに寝っ転がりぺらりとページをめくった。

瀬名は自分がした仕事は全部綺麗にまとめている。ブックシェルフに増えた新しい雑誌を見ていたら見つけたのがこの特集。

上半身を露にした瀬名が色んなポーズを撮っている。

紙面に写っている瀬名の体は均等、バランスがとれた綺麗な体型。
締まった体、筋肉の浮き、きめ細かな肌までそれはあらわされていた。

指でそっと、なぞってみた。

確かに…、瀬名はトレーナーがついてると言っていたからその努力があってこそ、この綺麗な体躯が作られているんだろう。

目についたのは特集の中の記事だった。
瀬名と記者との対談。

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〇今回は瀬名さんの肉体美を追求するという企画です。ご自身では自分の肉体についてどう感じていますか?

整った体型はモデルとして、アイドルとして求められるものだと思ってます。やっぱり自分としても常に完璧なバランス良い体にするために努力しないといけないと感じますねぇ。

〇多くの女性たちから美しすぎるとか、筋肉がたまらない、なんて声を聞きますがどう思いますか?

あはは、素直に嬉しいですね。努力してるかいがあります(笑)

〇その肉体美を保つためにしている努力はずばり?!

そうですね、食事制限は当たり前ですし、運動ももちろんしています。小さなことの積み重ねです。

〇すごいですね〜、瀬名さんのストイックさが滲み出ています。 時にサボりたくなることとかないんですか?(笑)

もちろんありますよ(笑)猫を飼ってるんですけど、とくに家に帰ってまったりしてるとこを見ると、俺も気が抜けちゃいます(笑)

〇ああ〜癒しタイムですね(笑)それはなかなか忍耐力がいりそうですね…(笑)

はい、でもおかげで毎日癒されるし楽しいです。
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だから、猫は飼ってないんだって…。

と一人で静かにツッコミを入れてみた。

世間では 瀬名は猫を飼っているということになってるらしい…

それにしてもやっぱり瀬名の写真は綺麗だった。

でも一緒に暮らしていて瀬名が努力してるのは分かる。

ご飯もヘルシーだし、スキンケアやボディケアも欠かさずやっている。プロ意識がある瀬名はかっこいいなって思う。


ぺらぺらとページをめくって見ていると玄関から音が聞こえてきて瀬名が帰ってきたのがわかった。

慌てて雑誌を元の位置に戻した。

「…?ただいまぁ」

「お、おかえり」

「どうしたの?」

「ううん…」

別に雑誌を見ているのを隠しているわけじゃないけど瀬名には言ってないことだから何となく分からないようにした。

瀬名が帰ってきたから2人でご飯の準備をして、食べて少しだらっとしてお風呂に入る。

広すぎるほどのバスルーム。
足を伸ばしても全然狭くないしむしろ広い浴槽に幸せを感じた。

体を洗うために鏡の前に座ってスポンジをとろうとした。

ふと、鏡にうつった自分を見た。

白というよりは黄色人種特有の色。筋肉も何もついていない腕、胸、腹。皮と少しの脂肪で覆われていて、触ってみても瀬名みたいな筋肉はない。

瀬名って…、こんな怠けた体は良くないと思ってるのかな…。

瀬名が完璧を目指して常に向上心を持っているのを知っているから、俺は自分の体を見て瀬名にどう思われるのか気になった。

瀬名にこの体を見られたら……

動きも停止してぼーっと考えていたと思ったら、ガラッとドアが開いた。

驚いて振り返ったら瀬名がこっちをのぞき込んでいて慌てて前かがみになるように体を隠した。

「っ!」

「呼んでも返事ないからさぁ…。どうしたの?」

「な、んでもない」

「…お腹痛いの?」

「違う…。」

早く戻ってくれればいいのにと思った。
あの雑誌で瀬名の整った体を見た後だから、自分の体に劣等感を感じる。

「……。」

ドアのところで覗き込んできたのに瀬名は服を着たまま裸足で中に入ってきた。

「…っ?!」

え、と思っていたら瀬名は俺の濡れた背中に手を当てた。
ぴくりと体が震えた。

「どうしたのぉ?」

ああ、こんな近いとますます体を見せられない。早く早く戻ってよと願った。

俺が体を隠すように前かがみになっているのを見て瀬名が無理やり脇腹をなぞってきた。

「ん、や、め…て…」

「なに?何か隠してるのぉ?」

「…隠、してない。」

「じゃあ立ってよ。」

「無理…」

瀬名の手がぐにと脇腹を揉んだ。

「ぅ、んぅ、」

ふいに力の抜けた俺は身を捩った。
その隙に瀬名が俺の両手をパシリと掴んだ。

「……恥ずかしい…」

鏡越しに俺の手を掴んでいる瀬名と目が合う。
恥ずかしいから離してと訴えるのに離してくれない。

「何もないじゃん。隠す必要なくない?」

「……瀬名に見られたくないから…」

「はぁ?」

何か瀬名の頭からニョキと角が生えたように感じたから慌てて理由をつけた。

「…雑誌で…瀬名のやつ見たから…、俺、筋肉とかないし…あんまり…見てほしくない…」

「なに?俺の写真見たからって何で見せたくないってなるわけぇ?」

「だって…瀬名…ちゃんと鍛えてる人の方が…好きかな、って…」

「はぁぁ?」

片眉を上げて理解できないと言いたげに瀬名の角がもっと生えた気がした。

「……ったく、分かってないなぁ。」

俺を掴む瀬名の手が離れたと思ったら、俺の肩、腕、手のひら、指先までを瀬名がゆっくりと撫でた。

「ぅっ、」

こそばゆくてぞわりとする。でも決して不快なものじゃなかった。むしろ触れられて心臓の鼓動が早くなった。

「…この腕、手、指、背中、お腹から足先まで全部全部好きだよ。俺が鍛えてるのは仕事のためであって、それをなまえにまで求めたりしないよ。」

「むしろなまえにはありのままで…いてほしいから…。そんなこと気にする必要ないし、俺はそのありのままのなまえが好きだからねぇ」

俺の手を握って、瀬名は軽く手の甲へ唇を寄せた。

その柔らかさがまたどきりとさせた。

「だから気にしないこと。隠さないことぉ!俺には全部見せて。」

鏡越しの瀬名と目が合う。濡れた髪からぽたりと水滴が落ちて肩から胸に伝った。

「……わかった。」

「ん、じゃあ早く洗って出てよぉ?」

瀬名はお風呂の外に出ていった。
まだ手の甲が熱い。

自分の手の甲を見つめ瀬名の唇と触れたところをなぞった。
また鏡の中の自分を見る。

こんなどこにでもいるような貧相な奴に、瀬名は好きといってくれる。

それがどうしようもなく嬉しくて別の意味でのぼせる寸前だった。



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