瀬名と出会う前の過去のお話
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「うちは働き手なんていくらでもいるんだよ!やる気がないなら来ないでくれるか!」
小さな作業場から外に押し出された俺は道端に突っ立っていた。
一緒に投げ出された荷物を拾ってずりずりと道を歩く。
これで何回目だろう。
俺は高校の時に親が死んでから人生が変わった。全てがどうでもよくなって、色が抜けて息をするだけの俺にまともな生活は出来なかった。
高校を卒業して働いたけど、生きる気のない俺には人間関係も仕事も上手くいかなかった。話せない、笑えない俺を人は白い目で見た。
すぐに就職したところはくびになった。
何のために生きてるのか分からなかった。親が残してくれたお金を全部使ってみたけど、何も変わらなかった。
親が残してくれたものが減っていくだけだった。
まるで空っぽの器みたいな俺は底がつくまでお金を使った。
そしたら生活が出来なくなって住むところがなくなった。
点々としながら、その日その日を食べていくためだけに働いていた。
でもやる気がない俺は仕事を見つけてもすぐにくびになる。
それでも生きる意味も何もない俺は特に何も思わない。
ああ、またくびになったのか。ぐらいだった。
その頃には誰からも必要とされないのは慣れっこだった。
だって親が死んだ時からそうだったんだから。
独りでいることにはもう慣れていた。
ゆっくりと歩いて近くの公園のベンチに座った。何もすることのない俺は昼がすぎて夜がくるまでひたすら座っていた。
日が沈んで辺りに音がなくなってきた頃に、立ち上がってスーパーに向かった。
惣菜や白飯が何十円かになるこの時間帯に200円以内で買って店を出る。
白飯と天ぷらの惣菜を一つ。
適当に外に座って腹に入れ込んだ。野菜は食べない。高いから。安い惣菜だけを買う。こんな生活をしているといつも頭がぼーっとして、動くとふらふらした。それももう、いつものことだから慣れた。
ふらふらするから歩くのもゆっくりになる。動作も遅くなって、それをまた仕事場で怒られる。早く動け、と。
でもぼーっとしている頭だと怒られても、上手く理解できなくて俺は無表情で相手の顔を見ていた。
だからいつも追い出される。
今日はどこで寝ようと寝床を考えた。1番安いネカフェまで歩いていけばどうにか今日の有り金で泊まれるかもしれない。
ずりずりと歩いて離れたネカフェに向かった。
そうして長くて何もしない1日を終えた。
翌日、また俺は仕事を探した。
日雇いでもいいから探して歩いた。
単調作業の仕事を見つけて、雇われることになった。
若いから体力に期待してるよ、なんて言われたけど俺は出来るかどうか分からなかった。
同じ作業場の人にはおばさんやおじさんが多かった。
そこで働きだして数日たった時、仕事終わりに他の作業員の人から話しかけられた。
「ねぇ…君…それ…昨日も着てなかった?」
「………はい。」
指をさされたのは俺の着ているシャツだった。
「…お風呂とか…」
言いにくそうに俺を見ている。多分、俺の着ている服が汚くて、俺の髪も汚いからだと分かった。
「……入って…ます…」
嘘じゃない、3日に1回は風呂に入れてるんだ。それならギリギリ生活できるから。
「そう……。それなら…いいんだけど…」
俺を見る目が今まで俺をくびにしてきた人と一緒で蔑むような色が入っていた。
俺はそっと席を外して作業するための資材を取りに行った。帰ってくる時に作業場から聞こえてきた声が耳に入った。
「ねぇ、あの子なんか汚くない?」
「わかる。同じ仕事したくないって思っちゃったわよ」
「貧乏なのかな?若いのに可哀想だよなぁ」
俺のことを話していた。人からそういう風に見られているのは分かっている。
でも、俺はずっと部屋の外に立ち続けて中に入ることは出来なかった。
それからそこも程なくしてくびになった。
ずりずりと歩いて今日の仕事を探していた。
前から若い男女のグループが歩いて来ていた。
俺はずり、ずり、とゆっくり歩いた。
「この後カラオケいく人ー?」
「はいはーい♪皆行くってことで!」
「ねぇユリ、あたし今度あそこのカフェ行きたい!あのシャレオツなとこ〜!」
「あっ!ネットでめっちゃ可愛い写真上がってたとこ?!行きたい!」
「ドリンクとかトッピングも凄いらしいよ!いこいこっ」
「おいおい、お前ら今から俺らとカラオケっしょ?カフェはまた今度〜。」
わいわいと賑やかなグループは俺と年が近そうだった。多分、大学生くらいだろう。
女子は化粧をして色付いた唇をしていた。男子は髪色を染めて笑いながら歩いていた。
俺はただただ地面を見つめてずり、ずり、と歩いた。
すれ違う時、一人の女子が俺をちらりと見た。
「…ねぇ、やばくない?」
小さな声だったけど聞こえた。
「同い年くらい?やばい…、ホームレスとか?」
「やっぱ世の中金かぁ…普通の家に生まれてよかった…」
「うわっ、こいつ金持ちのくせに普通とか言ってる!」
小さかった声がだんだん大きくなってわはは、と笑い声が後ろから聞こえてきた。
俺は足を止めて地面を見た。
「………。」
それから、またずり、ずりと一歩ずつ歩いた。
何も思わない。同じ世代が綺麗な服を着て、オシャレをして楽しんでいようと、俺は、何も思わない。
怒られて、必要ないと言われて、汚いと言われても俺は何も思わない。
どうだっていい。別に。
この世の中は不平等で、不公平で、幸せなことなんて何一つない。
独りで息をするのはもう疲れた。
明日なんて別に来なくてもいい。
俺はそう思った。
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