「…そんなにがっつくと舌かむよぉ?」
「……。」
俺は瀬名の言葉に返す余裕なんてなく、目の前にある食べ物を口に含むので精一杯だ。
それよりも俺の頭の中は遊木真と瀬名の会話が繰り返されていてそれどころじゃない。
「美味しい?」
瀬名が連れてきてくれたのはイタリア料理のお店でテーブルの上にはカルパッチョやラザニア、カプレーゼなど彩り豊かな料理が並べられている。
「……美味しい。」
美味しいけど…、味わう余裕はなかった。
ただ機械的に口の中に食べ物を運んでいるにすぎない。
「なまえ…何か怒ってんの?」
「…なんで?」
「いつもなら美味しそうに食べるのに何か今日は違うよねぇ?」
「…別に。」
「…ふぅん」
本当は楽しいはずだったのに。美味しいねって言いながら楽しむはずだったのに。
瀬名との無言の空気が皮肉なことにさらに箸を進めた。
食べ終わったあとも会話は少なく、家に帰っても同じことだった。
「なまえ、お風呂先に入る?」
「…うん。」
いつもなら、瀬名の後に入って、お風呂から出たあとは瀬名が髪を乾かしてくれるけど今日は何だかその気分じゃなくて先に入った。
お風呂の中でもずっともやもや。
「…遊木…真…、ゆう…くん…」
華々しい姿はいくらでも見たことある。
でも、実際に瀬名と話しているところは見たことなかったから、凛月から聞く限りでは昔からの知り合いで仲がいいということしか知らなかった。
今日、その2人の会話を耳にして初めて仲が良いってこういうことなんだと知った。
仲が良いって、あんなに近くで話すの?瀬名は嬉しそうに名前を呼んでいたし、あれが普通なんだろうか?
仲が良いって…なに…?
息を止めて湯船に顔を突っ伏した。
ブクブクと鼻と口からこぼれでる空気が顔に当たって上がっていく。
仲が良い、なんて知らない。仲が良いってどういうことなんだ。仲が良い人なんて今までいたことがなくて俺には分からない。
俺の知らないこと、俺の分からないこと、瀬名はいっぱい持ってる。知ってる。
俺は何にも知らない。
あれが普通なら、このもやもやした思いは何なんだろうか。
友達って…何?
なんて、疑問に思ったことが天井を突き抜けて大きなはてなに変わってきた。
俺も友達作ったらわかるだろうか?仲が良いってどういうことかわかるだろうか?
延々とずっと考えているとだんだん頭がぼうっとしてきて考えられなくなってきた。
随分深いことを悩んだかもしれない、と自分が賢くなったような気がして笑えた。
そろそろ出ようと湯船から出ると、少しふらりとしてコケかけた。
お風呂の鏡を見ると、自分の顔がゆでダコみたいに真っ赤になっていてのぼせたようだ。
暑くて服を着る気にはなれなくて下だけ履いてタオルを頭にのせたまま部屋に戻る。
「なまえ?!真っ赤じゃん…!」
「…のぼせた。」
「もぅほら、とりあえず水飲んで」
真っ赤な俺に驚いた瀬名が水を持ってきてくれた。
ゴクゴクと冷たい水が喉を通る感覚が分かった。
瀬名が俺の頭をタオルで拭き始めた。
さっきまでもやもやしていたのに、結局瀬名がこうして俺を気にかけてくれると、もういっか、なんて悩むことを放棄してしまう自分がいた。
「……暑い。」
「暑いからってそのまま寝ないでよ。湯冷めして風邪引くからねぇ!」
瀬名に釘を刺されて、わかったと頷いた。
俺の頭を拭いてくれた瀬名は自分も入ってくるとお風呂に向かった。
まだ、暑い。
水を最後まで飲みきって、グラスを置いた。
「……暑い。」
考え事をしてのぼせるなんて馬鹿だ。
とにかく今は倒れこみたくて、ベッドに伏せた。
まだ上は着ていないため、肌に触れる布生地が気持ちいい。
少しだけ、少しだけ目を閉じて、あとでまたすぐ起きて服を着よう。
気持ちよさに目を閉じたら俺の意識はすぐに落ちた。
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