「だから俺言ったよねぇ?!服ちゃんと着てって!じゃないと風邪引くって言ったのにお風呂から出たら着てないし!そのまま寝てるし!俺が言ったこと全部後回しで寝るからそうなるんでしょ?!」

ドラマに出てくるような小姑、いや、母親か?と言いたくなるほど責め立てる瀬名にそうそうに嫌気がさして俺は仏頂面だ。

「なまえより俺が拗ねたいんだけどぉ!全く…!」

瀬名がこんなにぷりぷりと怒ってるのは俺が瀬名の言うことを聞かずにそのまま寝ていて案の定風邪をひいてしまったからだ。

朝起きたら服を着ていたから俺が寝落ちした後、瀬名が着せてくれたのはわかったけどそれでも湯冷めしていたらしく、喉が痛くて咳が出ておまけに体がだるおもで瀬名にそれを言ったら風邪だと怒られた。

「…瀬名がひいたんじゃなくて俺がひいたんだからいいじゃん…」

「そういう問題じゃないの!」

「別に大丈夫だし……ごほっ」

「咳してる時点で全然大丈夫じゃないんだけどぉ!」

「しんどくないもん…。仕事行けるし。」

「そんな状態で仕事できるわけないでしょぉ?!むしろ仕事場に来るなって言われるよ!」

「もぅ……うるさい」

我慢できなくてボソリと小声で言った言葉は届いていたみたいで瀬名は眉をつり上げた。

「…なんか言ったぁ??」

「……」

休む連絡して。マスクして、薬飲んで。と瀬名から次々とあれをしろこれをしろと言われて結局瀬名の言われるがままベッドに逆戻りすることになった。

仕事先のお弁当屋は風邪が完治するまでしっかり休むんだよ、と長い休暇をくれた。

俺はお手伝いみたいなものだから、俺がいなくてもお店は回るけど自分の不注意のせいでおばあちゃんに負担をかけるのは心苦しかった。

そんなにひどい風邪じゃないのに…。

でも瀬名は絶対安静!と釘をさして仕事に行った。

俺はすることもなくダラダラとテレビやネットを見るしかない。

「ごほっ…、」

咳は出るけど、熱が出ているという感じはないし軽い風邪だと思うのに…。

「パンケーキ食べたいな…」

弱っている時こそ好きなものが食べたいという欲求が強くなるのか、今ものすごくパンケーキが食べたい。

近くにあるパンケーキ専門店に行こうかな…、でも出かけたら瀬名に怒られるかな…。

瀬名とパンケーキを天秤にかけたら、ぐらついていたのについにパンケーキが重くなり瀬名に買った。

よし、パンケーキだけ食べに行こう。

マスクをして、パーカーを羽織り財布だけ持って部屋を出た。

俺が最近足繁く通っているパンケーキ専門店は徒歩範囲なのですぐに行ける。

種類が豊富で俺はそこのパンケーキを全制覇するまでは通い続けようと密かに目標にしていた。

半分くらいは食べているから全制覇するのもそう遠くはないとは思っている。

今日ぐらい自分を甘やかそう、なんて毎日甘やかしているのに(瀬名に甘やかされているのに)意味の無いことを考えながらお店のドアを開けた。

お昼前で人はそんなに賑わっていなかった。
これなら落ち着いて食べられそうだ。

席についてすぐにメニューを開く。テーブルのそばに来たのは明るい髪の若い男性だった。

ミルクティー色でゆるくうねった髪がふわふわ感を増している。大きな瞳にすっきりした鼻筋で顔の堀が深くて、俗に言うイケメンだった。

このお店こんな人いたっけ、なんて考えたが今まで興味を持って見てなかったから分からなかった。疑問もすぐに消えてメニューに意識が向く。

「……これを。」

喉も痛いし小さな声で食べたいパンケーキを指さした。

「キャラメルナッツソースのバニラアイス添えですね、かしこまりました」

さらさらと注文したものを書いて奥に引っ込んでいったふわふわミルクティー店員。

あと何個かな…なんてメニュー表のパンケーキを1つ、2つ、と数えていると俺の注文したパンケーキがふわふわミルクティー店員の手に乗せられてやってきた。

美味しそう、美味しそう。

早く食べたい。

目の前に置かれたパンケーキにどんな味だろうかと思いを馳せる。

ナッツの芳ばしい香りとナッツの噛みごたえ、パンケーキのふわふわに染み渡ったキャラメルソース。早くフォークを握りたい。

ワクワクする気持ちで店員が去ったのを確認して、スマホで1枚写真を撮ってから口に放り込んだ。

想像通り、甘くて香りのいい味わいに一気に脳内麻薬が分泌される。

あつあつふわふわのパンケーキは美味しくて、あっという間にぺろりと食べてしまった。

風邪なんて吹っ飛ぶくらい美味しくて、店を出る頃には俺は元気になった。

美味しいもの食べたし、回復だ。
これで仕事も行けるし、瀬名にもおばあちゃんにも迷惑かけないし大丈夫、大丈夫「っごほ、」


…気持ち的には回復しても体はまだまだなようだった。


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