風邪は薬と瀬名のお世話のおかげで良くなって俺はいつも通りの生活に戻った。

仕事が終わる時間はいつも早いから、帰りにパンケーキを食べて帰るのが1週間に1回の楽しみ。

今日もそのお楽しみのためにいつものパンケーキ専門店に来ていた。

夕方と言うにはまだ早いこの時間帯は人も少ない。お店に入り席について今日は何を食べようかと迷った。

注文を取りにテーブルにきた店員はこの間のミルクティー店員だった。

今日は抹茶のパンケーキにした。たまに基本に戻って、いや初心に戻ってプレーンを食べたくなる時もあるけどメニュー制覇のために食べたことのないものを選ぶ。

少し前に瀬名に色んなメニューを食べてるとたまにプレーンを食べたくなる時がある、と話したら瀬名は笑って、ちょっとわかるかもって言っていた。

こうやって通いつめてるけど、俺はやっぱり瀬名の作るパンケーキが1番好き。

それで、瀬名も好き。

朝起きて風邪治った?もう大丈夫?って心配してくれる瀬名が好き。俺のこと考えてくれるんだって思うとそれだけで嬉しくて照れくさいような気持ちになる。

面と向かって瀬名に直接言葉で好きとは言えないけど、瀬名がそうやって心配してくれるだけで嬉しくて安心する。

だけど最近瀬名が好き、って思えば思うほど、その隅っこに遊木真…瀬名が呼ぶゆうくんが出てくる。

それから少し不安になる。何で不安になるのか分からないし、一度だけしか会ったことないのに鮮明にゆうくんを思い出してしまって胸が苦しい時がある。

仲の良い友達、なんだから俺がもやもやする必要ないはずなのにって言い聞かせるのに俺の頭と心臓は理解できないのかぐらぐらと揺れる。


口の中に入ったパンケーキの味がよく分からなくて咀嚼を繰り返していたら、テーブルの上にコトリと音がしてトッピングメニューのアイスが置かれた。

頼んでいないのに、と不思議に思って持ってきた店員を見上げたらミルクティー店員だった。

「お口に合いませんでした?」

心配そうに俺を見るイケメンなミルクティー店員は俺の顔が深刻そうだったから不味かったのかと不安になったと言う。

「や…、そんなことは…。…美味しい…です…」

不味くない。パンケーキは美味しいし、味も良い。ただ俺が色々考えていたせいで味がわからなかっただけ。

「これ、俺からのサービスです。」

コソッと手を口元で隠しながらくすりと笑った店員に何でサービスなんかしてくれるんだろうと思った。

「毎週来てくれてるでしょ?だから、ね。」

「……いいんですか。」

「もちろん♪」

「…ありがとうございます」

正直嬉しかった。何かこういうサプライズじゃないけど、思いもよらない嬉しいことがあるとそわそわしそうなくらい胸の中がむず痒い感じがする。

嬉しくて今すぐ瀬名に話したい気分。

それから、俺はメニュー制覇のためにここに来てることや、ミルクティー店員は一人で男の子がよく来てるなあと思ってずっと前から俺のことを知っていたという話をお互いに話した。

店内は人が少ないからか、忙しくなさそうなそのミルクティー店員はトレーを持ちながら俺のところで話をしていた。

話を聞くとその店員は俺と同い年らしい。それが分かるとさらに気さくに話しかけてきて、俺はというと瀬名たち以外に同年代の人と話すことがあまりないから少しドキドキしながら話した。

さっきまで知らない人だったのに、話しやすくてそれもミルクティー店員の明るさなんだろうって思った。

パンケーキを食べ終わって店を出る時、また来てねと手を振られたから、俺は少し俯きながらふらりと手を降った。何か、恥ずかしい。伸びた前髪の中で視線をさ迷わせながらちらりと見返して店を出た。

まだ胸のあたりがそわそわする。

俺の身近な人というと瀬名しかいなくて、瀬名と出会ってから同年代の繋がりが増えた。…凛月やKnightsのメンバー。

それだけだったのに、今こうして瀬名も知らない人と俺は話をして、顔見知りになった。

何だか自分がレベルアップした気になって少し嬉しくなった。

こんな自分でも話ができる人が出来たんだって思うと嬉しくて瀬名に話したくなった。

家に帰って、瀬名が帰ってくるまでに掃除したりご飯の準備をする。

「ただいまぁ。」

玄関の鍵が開く音がして瀬名がリビングに入ってきた。

「おかえり。」

家の鍵をカチャリと定位置のところへ置いて、瀬名は上着を脱いでいた。

なんて事ない動きなのに、瀬名の横顔をちらりと見て、かっこいいなと思った。

やっぱり今日のミルクティー店員より瀬名はかっこいい。それは綺麗でもあり、かっこよくもある。
ミルクティー店員も整った顔してるけど、瀬名はもっとかっこいい…と俺は思う。

一人でそんなことを考えていると瀬名が不思議そうな顔をした。

「どしたのぉ?」

「…何でもない。」

瀬名が帰ってくるだけで家にいる安心感が増す。早くご飯食べてゴロゴロしたいと思ってすぐにお皿を並べ始める。

「嬉しそうだねぇ?何かあった?」

今日は嬉しいことがあったから…。顔に出てたのかな。でも瀬名にも話したかったし、と思って俺は今日の話をした。

「……いつものお店で…、店員さんがアイス、サービスしてくれた。」

「へぇ?なんで?」

「何か…いつも来てくれるからって…」

「ふふ、確かになまえは常連客だろうねぇ」

片眉を上げて笑いながら俺を見るから、俺は得意げに「…まあね。」と返した。

「その優しい店員さんは男?」

「うん…。同い年。」

「………ふぅん。」

ぽつりぽつりと漏らすように今日思ったことを話した。

「…色々話して、何か楽しかった。初めてああいうサービスというか…良くしてもらって…嬉しかった…。」

「……そっか、嬉しかったんだねぇ。」

「うん…。また行くの楽しみ…。次はメープルシロップのやつ頼むってもう決めてる…。」

瀬名は少し難しいような何か考えるような顔をしていたけどすぐに、ふわと俺に笑い返してくれた。

「…ん、今度行く時は俺も連れてってねぇ」

「うん。」

「じゃ、ご飯食べよっか。」

俺の頭を柔らかく撫でて瀬名は椅子に座った。

俺は今日の出来事を瀬名に伝えれて満足だった。

次行った時、またパンケーキの写真を撮って瀬名に見せてあげよう。想像して来週が楽しみになった。



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