瀬名が俺の通ういつものパンケーキ専門店に行きたいって言うから、俺は少しうずうずしていた。

2人で家を出て、同じ道を並んで歩く。
瀬名は周りにバレないようにマスクをしていた。俺だけが隣で歩く人が瀬名だと知っている。

隣に瀬名がいることが嬉しいしパンケーキも食べられるしで俺はいつになくわくわくしているんだ。

瀬名と2人で出かけることはあんまりない。
俺が家でゴロゴロするのが好きだからだけど、それでも瀬名は色んなところに連れてってくれる。

水族館とか、動物園とか、プラネタリウムとか…ゆっくりできる所に連れてってくれて、2人で他愛のない話をしながら過ごすのが好き。

全部俺にとっては初めてのことばかりで瀬名と一緒に過ごすはじめてが嬉しいのはいつものことだった。

それで今日はパンケーキ専門店。

お店に着いてドアを開けた。

ミルクティー店員と話し始めてもう一ヶ月は経つ。

店内にいたミルクティー店員が俺の顔を見て あ、と笑った。それから隣に居る瀬名を見て少し眉を上げた。

「いらっしゃいませ♪今日は一人じゃないんだ?」

「…うん。」

「お席ご案内します、どうぞ♪」

すぐに俺のところに来て笑いかけながら声をかけた。ミルクティー店員は瀬名をちらりと見てまた微笑んだ。

店員は普通のお客さんとは違うフレンドリーな態度だ。それはやっぱり俺と店員がこれまで話してきて仲良くなったからだと思う。

お店の中でも良い席に案内されて2人で席についた。

「あの人が…この間話した人。」

この間瀬名に話した同い年の店員さんだというのを伝えた。
瀬名はレモン水を取りにいった店員を見つめる。

俺は少し得意げになっていた。
小学校の頃、はじめて出来た友達の話を親にする時のような気持ちになっていた。
聞いてほしくて、話したくて、友達できたんだよって伝えたい思いが大きかった。

瀬名に俺も友達…というか色々話ができる人ができたんだよ、って知ってもらいたくて。
今まで一人だったけど、人と話すのはあんまり得意じゃないけど、こういう繋がりができたんだって褒めてほしい気持ちも少しあった。

「仲良いんだねぇ…」

仲が良い…瀬名の目から見て俺とミルクティー店員は仲良さそうに見えるんだろうか。

目指すところはそこだけど、まだ全然仲が良いってレベルにはなってないし…でもそう見えるのなら少し照れくさい。

「…そこまでじゃないけど…。」

ちょっぴり嬉しい。瀬名にいっぱい友達がいるように、俺も少しずつ自分の友達というものを作っていけたらなって思うから…。

照れくさいせいで今自分がどんな顔しているか分からない。あんまり表情に出さないからいつも無表情に近いけど、今だけは変な顔になってるかもしれない…。

視線を落としてこの浮かびそうなふわふわした気持ちを抑えようと机を見ていると机の上にレモン水が入ったコップが置かれた。

ミルクティー店員が注文を取りに来ていた。

「今日は何にする?昨日から期間限定のやつ始まってるよ」

「…じゃあ、それにする。」

「ふふっ、了解。お連れの方はお決まりですか?」

ミルクティー店員は微笑んで瀬名に聞いた。

「プレーンで。」

「かしこまりました。」

瀬名は短く言い切った。それ以上は話すことはない、というようにメニューを閉じて俺に話しかけてくる。

「なまえ、もう全部食べたの?」
「まだ…。でもあとちょっと。」

「あ、あと残ってるのは4種類くらいですよ。ほんと、なまえくんは常連さんです」
「……そう。」

瀬名の青くて綺麗な目が細められた。何だか少し目が冷たい気がする。
そんな瀬名を気にせずミルクティー店員は戻って言った。

「ここ、全部食べたらもう来ないんだよねぇ?」

「え…、いや…美味しいし…あの人もいるし…」

「……ふぅん。」

瀬名の眉間が少し寄った気がした。

何か瀬名は機嫌が悪いんだろうか…。ピリピリした雰囲気を少し感じた。
瀬名が忙しすぎて家に帰ってきた時や、俺が自分の部屋で服を脱ぎ散らかしているのを瀬名にバレた時とか瀬名が静かに怒ってイライラしている時は少し空気がピリピリする。多分瀬名怒ってるなあって俺はいつも思っていた。

でも今この場所でそんなピリピリするところあったかなって思い返したけど何もないから俺はそのまま気にしないことにした。


そうこうしているとミルクティー店員がパンケーキを持ってきた。
手にしている期間限定のパンケーキを目にして、わくわくが大きくなった。
デコレーションやトッピングが期間限定だけあってすごい。

「あはは、目が輝いてる。」

くすりと笑ってミルクティー店員は俺の目の前にパンケーキを置いてくれた。瀬名にはプレーンのパンケーキ。

「美味しそう…」

「知ってます?なまえくんってあんまり笑わないけど、パンケーキ来た時はいつも嬉しそうな顔するんですよね〜」

ミルクティー店員がトレーを片手に瀬名に話しかけた。俺の顔見てたのかとか、そんな顔してたんだって恥ずかしくなった俺は瀬名を見れなかった。

「では、ごゆっくり♪」

店員がテーブルから去って初めて顔を上げることが出来た。

瀬名の目はさっきよりもっと冷たくて静かに怒ってるかのように表情も固い。

「瀬名…?」

「…なぁに?」

いつもより低い声に、俺は不安になった。
何かあったのかなって、思って。

「…どうかした?」

「別に。さっさと食べて早く出ようよ。」

俺と全然目を合わさずに食べ始めた瀬名は明らかに不機嫌そうで俺は期間限定のパンケーキと瀬名を見比べて、必死で瀬名が不機嫌になった理由を探そうとした。

俺の期間限定のパンケーキを見てプレーンがやっぱり嫌になったとかかもしれない。

「…瀬名。…これ食べる?1口だけ。」

「………」

「……それか俺のパンケーキと…そのプレーン交換する…?」

「……ふふっ、一口だけしかくれないんだ」

怖い顔してだんまりだった瀬名がくすりと笑った。

くすくすと笑う瀬名はもうさっきみたいに怖い顔をしてなかった。

「違う。俺はプレーンでいいの。1番カロリーが少ないものにしないとねぇ。」

はちみつがついてる、と俺の口元を瀬名が拭った。

教えてくれたら舐めたのに。ぺろりと口の端を舐めたけどもうはちみつの味はしなかった。残念。

「美味しい?」

「うん。でも瀬名のパンケーキが1番好き。」

「…はぁ、無自覚かぁ…」

「…何が?」

「何でもない。これ食べたら買い物行こっか。」

「うん、楽しみ。」

俺は瀬名の機嫌が元に戻ってくれて良かったと思った。

それから一口だけ俺のパンケーキを瀬名にあげた。
俺は瀬名のプレーンを三口もらった。

瀬名と二人で食べるものは何だって美味しく感じるんだ。


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