パンケーキを食べ終わってから瀬名と一緒にウインドウショッピングをしている。

特に買いたいものはないけど適当に見ていく感じ。

雑貨屋でふと目についたマグカップ。黒猫がちょこんと描かれてのんびりした雰囲気で目が離せなかった。

手にとって眺める。なんかかわいいなと思ってまた元の位置に戻そうとした。

「かわいいねぇ。買う?」

別のものを見ていたはずの瀬名が隣に立って俺の手の中にあるマグカップを見ている。

瀬名の家には最初から全部揃っていたから俺だけの食器とかコップはない。

綺麗に並べられたシンプルな食器棚の中にこの黒猫のマグカップが1つだけぽつんと置かれているところを想像してみた。いいなと思った。

俺が瀬名の家に住んでいるという証がある気がして。

「……これ俺専用にしようかな…」

「ふふ、じゃあ俺からのプレゼントにしよ。貸して。」

「…自分で買う。」

「だめ。俺があげたものをいつも使ってくれると俺も嬉しいからねぇ」

ひょいと俺からマグカップを持って瀬名はレジに行ってしまった。

俺は瀬名にもらってばっかりなのに。いつも使う服も、靴もカバンも財布も全部全部瀬名がくれたもの。
俺は1文無しのボロボロの状態で拾われたから全部瀬名からもらったものだ。

いつか瀬名に恩返し、したいなって思っていると瀬名が小さな紙袋を持ってきた。

「はい、なまえへ」

小さな紙袋の中は可愛くラッピングされていて開くのが勿体なさそうだった。

嬉しくて瀬名の目をちらりと見て、ありがとうとぼそりと呟いた。

瀬名の手がふわりと動いて俺に寄ってきた。
でもその手は俺に触れることなく空中に止まっていた。

「ぁー…家の中だったら…」

瀬名はその手をくしゃりと握りしめて苦笑いした。

「さて、と。次はどこ行きたい?」

「…特にみたいところとかは…ない…」

「じゃあ俺の行きたい店いっていい?」

「うん」

瀬名は服を見に行きたいらしい。
瀬名からプレゼントされた小さな紙袋をしっかりと持って瀬名についていく。

嬉しくて気が緩んだら一人で笑ってしまいそうになる。
早くこのマグカップにココアを入れて飲みたいな、とかスープもいいかも、とか色んなところで使う想像をして楽しんだ。


瀬名のお目当てのお店に着いたけど、俺はその店を見た瞬間、足が止まっていた。

「…瀬名。俺…外で待ってる…」

そこは明らかにハイブランドなお店で服とかブランドに疎い俺でも一般人が入れそうな雰囲気じゃない建物だ。

モデルやアイドルをやってる瀬名みたいなハイセンスな人なら行きつけなのかもしれないけど俺には無理そう。

お店の外で立ち止まった俺に瀬名は振り向いて首を傾げた。

「何で?ほら、一緒に入るよぉ」

「…無理。何か違う…」

「関係ないでしょ。ほら。」

瀬名に手を引かれて店の中に入ると瀬名の元にすぐに店員が来た。

瀬名と店員はあれこれ話しながら服を見始めいて、俺は手に持っているマグカップの紙袋だけを頼りに握りしめて値段の書かれていないメンズ服をちらりと見ながら瀬名と店員の後ろを距離を開けてついていく。

「あっ…!泉さん」

真剣に服を見ている瀬名を眺めていると、どこからか瀬名の名前を呼ぶ声がした。

瀬名も声の方へ向くと、驚いた顔をした。俺もそちらを見やる。

「ゆうくん!どしたの?!一人?!」

前に1回だけ会ったことがある。遊木真。ゆうくん。
瀬名の嬉しそうな声に少し胸がざわめいた。

「もしかして泉さんも新作ラインナップ見に来たとか…?」
「まさかゆうくんも?やっぱり気になるし実際に見たかったんだよねぇ」
「はは、わかるなぁ。僕もどんな感じなのか気になって…」

まるで2人だけの世界にいるかのように店員さんと俺をそっちのけで話し始めた二人に俺はさっきまでのふわふわした気持ちがどんどん冷めていくのがわかった。

「…あ、えっと…この間の…」

ゆうくんが俺を見て言い淀んだ。
緑色の目が俺を見下ろしている。綺麗で宝石みたいな目。瀬名と同じくキラキラしている。

俺はその目を一瞬だけ見て目を逸らした。

「ゆうくん、なまえだよ。なまえ、この間スタジオで会ったゆうくん。」

「……こんにちは…。」

紙袋を握りしめて精一杯声を絞り出したけど、あんまりはっきり出なかった。

「ごめんねぇ。人見知りだから。ゆうくんと同い年だよ♪」
「全然!僕も話すのとか苦手だから…、同い年なんだ…!なまえくん、よろしく!」

えへへ、と笑うゆうくんに俺は素直に話せなかった。

「………よろしく…お願いします…。」

顔を見ずに挨拶した俺を置いてまた瀬名とゆうくんは2人で話しながら服を見始めた。

素材がどうとか、長さとか、色とか、組み合わせとか、そんなの俺には分からないことばかり話して2人で盛り上がっている。

ゆうくんも、瀬名もモデルをしているし…、アイドルだし…同じ職業だと話もしやすいのかもしれない…。

今話している2人の目にはお互いしか映ってない。

そんな2人を見ていたら、何だか息苦しかった。

心がもやもや。色で表すと灰色だ。

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