昔を思い出していた。

一人で起きて、一人で食べて、一人で寝て、一人で…

「……いってきます…。」

誰もいない家に向かって声をかけ、靴を履いて扉をパタンと閉めた。

マンションから出て仕事先のお弁当屋をめざす。

もう、瀬名が帰ってこなくて何日だろう。

メールも電話もくれるけど、それでも前ほどじゃなくて本当に忙しそうだ。

忙しいのは分かる。けど…、けど…。

そこまで考えて強制的に思考を止めた。
これ以上考えたら心臓が痛くて仕方ないから。

瀬名に 仕事に行ってくる。 とだけメールしてスマホを閉じた。



「おはようございます…」

着いたらすでに調理場で準備しているおばあちゃんに声をかけた。

「なまえくん、おはよう。どうしたの?この間から目の下がひどいと思ってたけど、今日はもっとひどいじゃないの」

「……寝すぎて…」

「寝すぎたらそんなクマは出来ないわよぉ。何かあったら言うのよ?一人で抱え込まないこと」

「……はい。」

鏡もちらりと見たくらいで自分の目の下なんてよく見なかった。

おばあちゃんの手伝いとして、惣菜を作ったりお弁当に詰めたりして出来た弁当の入ったコンテナを持ってレジに行く。

よし、今日も頑張ろう。

レジに座って朝の通勤時間を行き交う人達を眺めた。

毎日来る人や週一の人、たまにくる人や初めての人、たくさんおばあちゃんのお弁当を買っていってくれる。

おばあちゃんと俺の作ったものでその人の体が出来てるんだと思うと何だか嬉しいような気持ちになる。

「450円です、はい、ありがとうございました…」

ぺこりと頭を下げて弁当の袋を下げて仕事や学校に行く人たちを見送る。

朝のピークは過ぎたから、しばらく暇かなと思ってぼーっとしていると、パッと目の前に人が立った。

「いらっしゃいませ…。」

まるで日焼けを嫌う人みたいに黒い服を着た人。
この人もお弁当1つ買うんだろうかと思っていた。

「ふふ♪おい〜っす♪」

聞き覚えのある声にすぐにピンと来た。

「…凛月?」

「久しぶり。元気してたぁ?」

「……久しぶり…。うん。」

瀬名も忙しいということは凛月も忙しいわけで俺は凛月と会うのは久しぶりだった。

ここ最近一人で心細かったから凛月とこうして話せるだけで心が軽くなるのがわかった。大丈夫、一人じゃないって思える。

「なんか全然会ってないし〜、セッちゃんも忙しいからなまえ死んでるんじゃないかと思ってきてみたの。俺がこの時間に外出てるなんてほんと奇跡に近いからね〜」

「…ちゃんと生きてる。」

「…だねぇ。何かボロボロ感はあるけど。毛並みがひどいねぇ」

くつくつと笑う凛月はやっぱり凛月で会えて話せたことが嬉しかった。

「…凛月も忙しい?」

「まあね〜。でもセッちゃん程じゃないかも。だって俺今日オフだし。今日はセッちゃんはナッちゃんと一緒にモデルの方でしょ」

「…そうなんだ。」

瀬名が今日どこに行って何してるかなんて知らない。ただ、お仕事なんだろうなっていうのは分かるけど…。

凛月の手が俺の頬をなぞった。目の下に親指が添えられる。凛月の指は冷たい。

「ひどいねぇ。」

「…そんなに?」

「鏡みた?」

「……少しだけ。」

「…何時に終わんの〜?」

「まだずっと…。」

「終わったらメールして。」

「……、」

「ご飯食べようよ。ね♪んじゃまたあとで〜」

帰って寝る、と行ってふらりと去っていった凛月を見て、凛月は朝弱いのに何でわざわざこの時間に外に出たんだろうとふと気になった。

凛月とご飯か…久しぶりに一人じゃない夜に少し楽しみになった。

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