目が覚めたらベッドの中だった。
一瞬、ここはどこだっけとわからなくなったけど見覚えのあるいつもの景色にここが瀬名の部屋だと分かった。
のそりと起き上がった。
頭が…痛い。
昨日は…夜に凛月とご飯食べてたら瀬名の言う王さまとかさくんが来て…4人で食べてて…
凛月が瀬名も来るって言うから嬉しくてソワソワして目の前にある飲み物を飲みすぎて…
そこから記憶がない。どうやっても思い出せない。
誰かが送ってくれたのかなと思いとりあえずリビングへ向かった。
カバンの中にあるスマホを見て誰が送ってくれたのか確かめないといけない。
リビングに来たら美味しそうな匂いとジュウウという何かを焼く音が聞こえる。
まさか、そんな。
だっていつも一人で迎える朝は静かで…。
そっとキッチンに近づいて見た。
「っ……。」
瀬名がいた。
「おはよぉ、水飲む?」
キッチンに立つ瀬名は俺に気づいてコップを取り出した。
これは俺の妄想とかじゃなくて…本当に瀬名はここにいるんだと思い近づいた。
「ふふ、寝癖がすごいことになってる」
瀬名から渡された水を飲んだら鈍かった頭の中が少しすっきりした。
「……昨日…」
瀬名はいつ帰ってきたんだろう。もうその頃には俺はいたんだろうか。
「あぁ、昨日くまくんたちと食べてたでしょ?俺が行った時にはなまえはもう寝てたから連れて帰ってきたの。」
なるほど…。お店からここまで瀬名が運んでくれたんだ。重かっただろうな。
「ほらシャワー浴びてくる?昨日そのまま寝たから気持ち悪くない?朝ごはん作ってるからその間に入っておいで」
こくりと頷いて浴室に向かう。
まだ…信じられない。夢を見てるみたいだった。
起きたら瀬名がいて、朝ごはん作ってて、おはようって迎えてくれるなんて…。
もうずっと一人が続くんじゃないかって思い込むほどだったのに。
シャワーを浴びてすっきりした俺はタオルドライのままリビングに戻った。
机の上には美味しそうなご飯。
「あぁ、もうほら貸して。もっとちゃんと拭かないとぉ」
瀬名が俺の手からタオルを取って頭を優しい力で拭き始めた。小刻みの揺れるその手にうとうとしそうになる。
「はい、これでいいでしょ」
パッと手が離れて、気持ちよかったなあもっとしてほしかったあという思いで少し残念な気持ちになった。
「朝ごはん出来たから座って。」
瀬名に言われるがままに座り向かい合っていただきます、と手を合わせた。
何日ぶりだろう。こうやって2人で食べるのって…。
じわりと涙が出そうになった。泣かないけど。
でも、弱くて今にもちぎれてしまいそうな糸みたいに細く細くきれぎれな何かが決壊しそうだった。
「どう?やっぱり頭痛い?」
「……ん。」
瀬名の作ってくれたご飯を口にした。
美味しかった。俺がつくる味とは違ってほっとする味。
「なまえ…。」
名前を呼ばれてちらりと瀬名を見た。少し悲しそうな顔をしてる。
「何か借りてきた猫みたい…。よそよそしいっていうか…ごめん、俺のせいだね…。」
普段見ない瀬名の落ち込んだような顔に胸がざわめいた。
「ごめんね。仕事ばっかりで。ろくに家に帰れずに…なまえに寂しい思いさせてた」
箸をおいて瀬名はごめんと謝った。
瀬名は謝る必要ないのに。仕事だし、皆から求められてるし俺を養ってくれてるわけで俺がそんな瀬名を責める資格なんてない。
ただ少しだけ少しだけ一緒にいたいなってわがままなことを思っただけ。
「……別に…。大丈夫。」
大丈夫、大丈夫っていつも言い聞かせてたから。大丈夫。
瀬名がお仕事頑張って俺一人でも大丈夫って。
「…大丈夫じゃない。溜めないで俺に言って。大丈夫じゃないって。一人で、抱え込まないで俺に話して?気づかなかった俺が馬鹿だけど、なまえの声もちゃんと聞きたいから。」
「……頑張ってる瀬名の邪魔したくない。」
「その気持ちは嬉しいけど、俺はなまえに寂しい思いはさせたくないの。」
「……。」
「一人ぼっちにさせてごめんね。」
瀬名は俺の手をぎゅっと握って申し訳なさそうに俺を見る。
「…瀬名、楽しい?」
「え…?」
「モデルとか…アイドルとか…楽しい…?」
「まあ…しんどい時もあるけど、楽しいよ」
目を伏せながら笑う瀬名を見て、たくさんの人が瀬名を好きになる理由がまた1つわかった。
瀬名はその場所が好きなんだな、ってわかった。
その立場を俺がわがままを言って縛るわけにはいかない。
「…ステージの上で歌って踊って笑顔の瀬名が…好き。」
それはほんと。
「…ありがとう。」
「だから…俺のことは気にしないで、頑張ってほしい…」
これはうそ。
ずっと前から1人は慣れてた。でも瀬名と暮らし始めてからすごいあたたかくてしあわせだったから。俺は最近それがなくなったかと思って、あたたかいのがどっかいっちゃってもう一人かな、って有効期限付きの幸せだったかなって。
そう思って酷く寂しくなったんだ、なんてことは言わない。
「だから…たまには早く帰って…一緒にご飯食べよ…」
それでまったりしてテレビでも見ながら他愛のない話をして、うとうとして、できることなら朝もずっと遅くまでごろごろして…でもそれも言わない。
「…当たり前でしょぉ?もちろん早く帰る。なまえが待ってるんだから」
「うん…。」
ステージよりも俺を優先してよ、一人にしないでよ、なんて言わない。
冷めちゃうから早く食べようよ、と瀬名に言って箸を取った。
美味しい、と言う俺はうまく笑えてるかな。
瀬名は優しいのに、もっと、それ以上、もっともっと、と求めるわがままで欲しがりな俺を心の奥底に埋め込んで土をかぶせて息が出来なくなるようにしないといけない。
それは全部、瀬名と暮らすため。
俺は少し大人になった気がした。
← →
back