静かな朝。
一人でソファに座って誰もいないリビングを見つめた。

瀬名は忙しくて今日もいない。それでもスマホにはいってきますのメッセージが入っていた。

それに返信して俺はテレビのリモコンを取った。

どのチャンネルでも同じような内容をやっている中で女子アナウンサーがVTRを見て何か感想を言っているところが目に入った。

『やっぱり優しい人とか惚れちゃいますよね〜…。優しくされると弱いです。あはは、』

「………。」

人は優しくされると惚れてしまう、らしい。



……瀬名は優しい。
ボロボロの俺を拾って世話するくらいには優しい人だ。

瀬名の優しさは一緒にいればいるほど伝わってくる。

なら、瀬名の周りにいる人達は……?

瀬名の優しさを知ってる人ってどれくらいいるんだろう。瀬名に優しくされたら皆この女子アナウンサーみたいに惚れてしまうんだろうか。

瞬間、瀬名がどこかの女の人と一緒にいるところを想像してしまって嫌な気持ちになった。

それでも瀬名が優しいのは本当のことで、そんな瀬名を好きになる人はきっといるはずだ…。俺みたいに。

瀬名の優しさに救われた俺みたいに好きになってしまう人間なんていくらでもいるかもしれない。


……もし瀬名が俺じゃなくて他の人を好きになったら……?

俺みたいな奴より良い人はたくさんいる。そんな人たちに俺が適うわけがない。

容姿も、性格も、お金も何もない全部良くない俺に瀬名を引き止める術なんて…ない。

その先を想像して急に不安になって、膝を抱いた。

丸まって顔を埋めて必死で考えないようにしたけどダメだった。


…また、一人になる。


高校の時に親が死んだことを思い出していた。

あの時から俺は世界が色を失ったものに見えて仕方なかった。

教室の中でクラスメイトが笑っているところ、談笑しているところを見て、何で笑ってるのか分からなかった。

俺はこんなに辛いのに、何で皆笑ってるの?何で皆楽しそうなの?

そう思えば思うほど、友達とか対人関係とかどうでもよくなって1人になった。

俺は口角一つ動かすことさえ出来なくなった。

楽しくない、笑えない、生きてる意味がない。

そう思っていたのに、救い出してくれたのは瀬名だった。

優しく手を伸ばして俺を汚いところから救い出してくれたのは瀬名。

だから瀬名を好きになって、瀬名も好きだと言ってくれて今がすごく幸せなはずなのに。

片隅にある満たされてないこの気持ちは何なんだろう。

よく分からない。

人は優しくされると惚れてしまうらしい。

ミルクティー店員に言われた『…助けられてそのまま惚れちゃったって感じ?よくあるような雛鳥が初めてみたものを母親と間違えるような……。』という言葉を思い出してしまった。

あの言葉の続きを想像して首を振った。

優しいからってだけで瀬名を好きになったんじゃない…。もちろんそれもあるけど…気づいたら瀬名を好きになってたんだ。

それでも、お前は優しくされて惚れてしまううちの1人の人間に過ぎないんだ、と言われているようで胸が痛かった。



テレビをぷつん、と切って財布を手に取る。

気分転換に外に出よう。
もやもやする気持ちをどうにかしたい。

行くあてもなく、街に出た。

ぶらりぶらりと歩いては少し興味を持ったものをちらりと見て、またぶらりぶらりと歩いた。

本屋、雑貨屋、花屋、色々見ていると数時間過ぎていて特に欲しいものがあるわけでもない俺はそろそろ帰ろうかと思った。

「ねえっ、あれ瀬名くんじゃない…?!」
「嘘っ?!あっ…ほんとだ!隣は…」

瀬名? 名前に反応して近くの女性が指さしている方向を見た。

「……瀬名…」

瀬名がいた。隣は、ゆうくんだった。あと、前に一度だけ見たことがある人、凛月や瀬名からあんずと呼ばれている人が一緒にいた。

3人で楽しそうにカフェで話している。

瀬名の笑う顔を見ただけで心臓がぎゅうぎゅうと掴まれたように痛かった。

遠くから瀬名を見つめて、手を握りしめた。俺は久しくあの笑顔を近くで見ていないのに。
ゆうくんたちは見れるんだ…。

心のもやもやがさらに大きくなって、瀬名たちをずっと見つめていたけど見れば見るほど辛くて、俺は逃げるようにその場から立ち去った。

足早に家に帰っても、もやもやした感情は消えなかった。

ずるい、羨ましい、悲しい、寂しい。

…寂しい。

瀬名は…寂しくないんだろうか。

一緒に住んでるけど、忙しくてろくに会えなくても寂しくないんだろうか。

「……。」

玄関の床に座り込んだ。
壁にもたれるように膝を抱え込む。

ここで待ってれば絶対瀬名に会える。
俺がベッドで寝ているからいつも会えないんだ。

瀬名が帰ってくるまで絶対起きておこう…。

抱え込んだ膝に顔をうずめて、帰ってきた瀬名におかえり。と言うところを想像した。

きっと、ただいま、ってさっき見たあの笑顔を見せてくれるはず。

期待しながら俺は玄関で座り込んで待つことにしたけど、いつの間にか俺の意識は落ちていた。



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