ふわ、ふわ、と揺られる感覚と、柔らかいものに包まれた記憶が微かに残っていた。

頬にふにりと一瞬あたたかいものがあたって、それは離れていった。

この感覚は夢…?

ぼんやりと意識の中、目を開けた。

「……。っ」

俺は暗い部屋でベッドに横たわっていた。
可笑しい。玄関で瀬名の帰りを待っていたはずなのに。

自分がどうやってここまで来たのか覚えてない。

可笑しいな…と寝返りをうった瞬間、息が止まったかと思った。

隣に瀬名がいたから。

何で?いつ帰ってきたの?俺、寝てた…?

むくりと起き上がって部屋の時計に目を凝らして見てみたら3:50だった。

「…せな……」

こそり、と囁くように呼びかけてみた。
でも瀬名は起きない。疲れてるのかぐっすり寝てる。

じっ、と瀬名を見た。

ちゃんと…帰ってきてくれてる。隣に。

俺はまたベッドに横になって瀬名に向き合った。

瀬名は目を瞑って規則正しく肩を上下させている。
ブランケットから手を少しだけ出して、瀬名の手に触れた。

人差し指で、瀬名の手をつい、と押してみる。それでも瀬名は起きなかった。

瀬名がいることが嬉しくて、もぞもぞと動いて瀬名の胸に頭を擦り付けた。

瀬名が少し動いたけど、気にしなかった。

ゆうくんとあんずという人と一緒にいた瀬名を思い出したけど、今瀬名は俺の前にいるんだから…とぐりぐりと瀬名に寄り添うように俺も目を閉じた。



***



「どうしたのぉ?ニヤニヤしてる。」

「……久しぶりだから…。」


久しぶりの瀬名の休日に、俺は満たされた気持ちでいっぱいだった。

朝から2人で瀬名はソファに座って、俺は寝転んで微睡んでいた。

「引っ張りだこなのも嬉しいけど休む時間も欲しいよねぇ。やっと休みに入れたって感じ」

「…もうしばらくは休める?」

「んん…ほんの少しだけど…。なまえとちゃんと顔見て暮らせてなかったから…心配だった。独りで丸まってないか、って。」

瀬名の膝枕で俺は下から瀬名を見上げる。

瀬名は俺の顔を覗き込みながら、ふわふわと頭を撫でてきた。

「…ていうか、昨日玄関で寝てるから本当びっくりした。何であんなとこで寝てたわけぇ?」

「…瀬名を待ってた。いつの間にか寝てた…。」

「気持ちは嬉しいけど、寝るならちゃんとベッドで寝ないと。体痛いでしょぉ?」

「大丈夫。」

そんなことより瀬名が家にいるということが嬉しいからどうだっていい。

雑誌を読み始めた瀬名に一つ聞いてみようと声をかけた。

「昨日…」

「昨日?」

「…何時に帰ってきたの」

「3時くらいかなぁ。」

「…そっか。遅かったね。」

俺は昨日のゆうくんとあんずという人のことを聞いてみたかった。

「……昨日さ、…」

「ん…?」

聞いて俺はどうするんだろう。
あれが仕事だったのか、そうじゃなかったのかなんて…。

仕事なら何も思わないけど、プライベートで瀬名がゆうくんたちと会っていたなら…もやもやする。

でも瀬名はプライベートで出かけるなら、いつも連絡してくれてるし…。それに、しつこく聞いたら嫌かもしれない。

瀬名に嫌われたくはない。

「…やっぱりなんでもない。…今日パンケーキ作ってくれる?」

「ふふ、いいよぉ。3時のおやつね。」

「やった…。楽しみ。」

「しばらく作ってなかったもんねぇ」

くすりと笑う瀬名の腰に顔を隠すように抱きついた。

「甘えただねぇ。」

また頭を撫でながら、ペラリと雑誌の1ページをめくる音が聞こえる。

その音もまた子守唄のように聞こえていつの間にか瀬名の膝枕の上で寝ていた。


***



心地よい夢の中から、ハッとして目が覚めた。

パチリと目を開けると寝る前と同じ瀬名の膝枕のまま。

どれくらい時間が経ってるんだろう、と時計をちらりと見ると1時間も経っていた。

瀬名を見上げると瀬名も目を閉じて寝ていた。

雑誌はそばに置かれている。

瀬名がうたた寝するなんて珍しくて、疲れてるんだな、と思ってそっと身を起こした。

何か飲み物取りに行こうとソファから立ち上がったところで玄関のチャイムが鳴った。

何だろう。ぺたぺた歩いて玄関に行く。

ドアスコープから外を見た。

「……っ、」

びっくりして、息を殺した。
出たくない。

でも玄関の前にいる人は、もう一度チャイムを鳴らそうと手を伸ばしていた。

瀬名が起きてしまう、と焦ってすぐに鍵を開けた。ドアを少しだけ開ける。

「………。」

隙間からちらりと外を見る。

「あ、泉さ、…なまえくん?」

ゆうくんだった。


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