先程からひっきりなしに鳴るなまえの携帯についに痺れを切らして手にとった。
本人が寝ているのに勝手に電話に出るのは良くない、と思ったけど何度もかけてくる諦めが悪い着信に、もしかして大事だったら…と少し心配になった。
「瀬名」と表示された画面を押して電話に出る。
「なまえ?!どこにいるの?!」
「……あ、の…もしもし…」
想定外の声に電話の向こうは一瞬静かになった。
「…誰?なまえは?」
「…あー…なまえくんは寝てます…」
「はぁ??」
それはすごく苛立ったような声だった。電話越しにピリピリしたものが伝わってきた。
「どこ?」
「…あの、そちらこそ何方ですか…?なまえくんとどんな関係なんですか。」
素のしれない人になまえの詳細を伝えるわけにも行かず聞いてみる。
「一緒に住んでる同居人だけどぉ?なまえは何で寝てるの?どこで?なにしてるわけ?」
矢継ぎ早に繰り出される質問に、困惑しながら口を開いた。
「俺の家で宅飲みしてて…」
「はぁ?!」
言い終わらないうちに、電話の向こうの声が大きくなった。
「どこ?すぐ迎えに行くから。」
有無を言わさないような言葉に仕方なしに住所を教えて電話を切った。
それから暫くして、玄関のチャイムがなった。
ああ、もう来ちゃったんだな。住所教えなきゃよかった、と少し後悔したような気持ちでドアを開けた。
「あ……、」
「あんた……」
1度だけ、なまえが店に連れてきたことがある人だった。マスク越しだけど意思の強そうな青い目は印象に残っている。
なまえと一緒に住んでいる、ということはなまえが好きな人か。
「…なまえと何してたの?」
目を細めてこちらを見るその姿は威圧感がすごくて押されそうだった。
「何って…普通に飲んで食べて話してただけです…」
「ふうん。…なまえが迷惑かけたねぇ。ほんと…飲むなって言ってるのに…。」
迷惑かけたと言っているけど、その言葉は早くなまえを返せと言っているようで俺はしぶしぶ家の中にあげた。
「あの…なまえくんと喧嘩でもしたんですか…?」
「…してないけど?関係ないでしょ。」
なまえを横抱きにして軽々と持ち上げたことに少し驚いた。
「じゃあ、お邪魔しました。」
「あ…。」
さっさと玄関を出ていったなまえくんと瀬名という人。がらんとした部屋を見て、少しやるせない気持ちになった。
「なまえくん…大丈夫かな…。」
怒ってるようなオーラを纏って出ていったなまえの同居人を思い出し、少し心配になった。
***
瀬名side
「なまえ?!」
飛び出ていったなまえに、咄嗟に声をかけたけどなまえは後ろを振り返ることもなく行ってしまった。
「はぁっ…?!」
行先を言わず、出ていくなんて…。
思わず追いかけそうになったけどゆうくんがいるためそのままため息を吐いてリビングに戻った。
「泉さん、このパンケーキすごく美味しい!!…あれ…?なまえくんは?」
「ゆうくん、ありがと。…なまえは用があるって出ていっちゃった…。せっかく
作ったのに…。」
テーブルの上に置かれているなまえ用のパンケーキ。
なまえがいつも使うお皿に入れて綺麗に盛りつけまでしたのに、食べる人がいないんじゃパンケーキも救われない。
「どうしようかねぇ…。」
「…捨てちゃうの?」
「んん…いや、多分すぐ帰ってくると思うから…。パンケーキ大好きだからねぇなまえは。ちゃんと残してあげないと怒るかもしれないし」
なまえが、俺のパンケーキがない、とそっぽ向いて拗ねるところを想像して笑いが漏れた。
特に俺の作ったパンケーキが大好きなんだよねぇ、と後片付けをしながら言うと、ゆうくんがきょとんとした顔でこちらを見ていた。
「ゆうくん…?」
「あ、いや、泉さんって…そんな顔するんだなって」
「え?今、俺どんな顔してたの?」
「何か…幸せそうな…」
「ええ…?そんな顔してた…?はぁ…自分の表情が分かってないなんてモデルとして失格だね…」
「いやいや!多分、僕にはその表情は出来ないから…羨ましいなぁ」
ぽつりと言ったゆうくんに自分の顔を鏡で見たくなった。ポーカーフェイスでいるのは得意なはずなのに今だけは自分がどんな顔してるのか分からなかった。
「泉さん、ご馳走さまでした!美味しかった〜!」
「いいえ〜、またいつでも来てねぇ。ゆうくんならほんといつでも大歓迎だから」
「あはは…、次来る時は…ちゃんと伝えてからにするよ、なまえくんもびっくりしてたし」
「ごめんねぇ、あの子人見知りだから…」
「またなまえくんとも話してみたいしっ。えへへっ、じゃあ僕はこれで…っ!」
ゆうくんを見送って部屋に戻る。
すぐに携帯を掴んでなまえに発信した。
何度コールしてもなまえは出ない。
「…どこに行ったのぉ?」
俺が作ったパンケーキを食べないなんてこと、一度もなかったのに…。
いらない、食べない、と言われてびっくりした。
電話に出ないなら、とメールをした。
【どこに行ったの?何時に帰るの?】
送って携帯をそばに置いて、後片付けをした。
終わって携帯を確認してもなまえからの返信はなし。
しばらくしたら帰ってくるだろうと思いリビングで久しぶりの休日を寛ぐ。
夕方になっても、夜になっても帰ってこないなまえにおかしいと思い何度目かの発信をした。
ずっと架けてれば出るだろうと諦めずコールがなる限り待っていると、ふとコール音が終わった。
「なまえ?!どこにいるの?!」
応答の代わりに聞こえてきたのは聞いたことのない男の声。
一瞬理解出来ず戸惑ったけど、なまえが知らない男といるというのだけは理解できた。
不快感と苛立ち。
抑えようとしても漏れてしまっていたのかもしれない。すぐに場所を聞いてなまえを迎えにいくために車のキーを取った。
迎えにいくと、男の部屋で寝そべっているなまえ。
男は見たことのあるなまえが良く行くパンケーキ店の店員だった。あの時は、なまえが話す人ができて嬉しそうだったから何も言わなかったけど今は違った。
テーブルの上にはアルコールの缶。
頭がいたくなった。
何で?出かけるってこのことだったの?
聞き出したいことが山ほどある。
なまえを横抱きにして車に載せる。
「………はぁ。」
頭の中ではさっきの男となまえの2人の姿を想像して、舌打ちを打ちたくなった。
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