「ぅう…」
体がだるくて、そういえばお酒を飲んでたんだっけ…と夢の中に入るまでの記憶を辿った。
ミルクティー店員の家に言ってご飯食べて…何か甘い飲み物飲んで…そのまま気持ちよく横になったのだけは覚えている。
起きて帰らないと…と、体を動かして目を開けた。
「………。」
いつもの風景が目に飛び込んできて一瞬はてなが浮かんだ。
体を起こしてみると自分の部屋でいつ帰ってきたのか分からない。
まさか、寝てたと思ったら自分の足で帰ってきたのか。
どうやって帰ってきたんだろう。
自分の行動に身に覚えがなくて不安になりながら部屋を出た。水でも飲んですっきりしたかった。
部屋を出る時に時計を見ると深夜の時刻で瀬名はもう寝ているんだろうなと思った。
廊下に出るとリビングから明かりが漏れている。
まさか瀬名が起きてる…?
ゆっくりとリビングの扉を開けて入ると腕を組んだ瀬名が椅子に座っていた。
「……まだ起きてるの…。」
「………そんなことより、ちょっと話すことあるんだけどぉ。」
いつもよりワントーン低い瀬名の声。何かに怒ってるのか瀬名の顔は険しい。
俺が帰ってきた時何か言ってしまったんだろうか…。記憶にないからよくわからない。とにかく水を飲みたいと思ってキッチンに行こうとしたけどそれは許されなかった。
「座って。」
「…何で…」
「話したいことがあるから。」
「……何か瀬名怒ってる…。」
「…当たり前でしょ…分からないの?」
「……俺が悪いの…」
ここまでピリピリしたような瀬名はあんまり見たことがない。なぜか俺が悪いような言いぶりに俺は理解できなかった。だって俺は何にも悪いことはしてない。
「自分がしたことわからないの?」
「……何もしてない。」
「はぁ…?じゃあ飲んで寝ちゃうまで何してたわけ?」
「……別に…。」
瀬名とゆうくんがいる部屋から逃げたくて外に出たら、ミルクティー店員と出会って家に行ったんだ、ということはなぜか瀬名には言いたくなかった。
俺の答えに瀬名はピクリと眉を動かした。
「別に…?別に、って何?あの店員の家に行って2人で飲んで寝てたことが別に、って言えることなわけぇ?」
「……何で…」
「何で知ってるかって?俺が迎えに行ったから。部屋の中に入ったら、横になって寝てるわけ。俺がどんな思いで電話してたかわかるのぉ?心配してずっと電話してたのに、他の男の部屋で寝てるってさぁ。どういうこと?」
「………。」
「…どういうことか言えないの?」
俺を責めるような口ぶりに唇を噛んだ。何で瀬名に言われないといけないんだ…。俺はミルクティー店員に誘われただけだし、そもそも瀬名がゆうくんと…ゆうくんといるから…。
「……瀬名だって」
「…何?」
「……瀬名だって俺のこと言えないじゃん…。ゆうくんとあんずって人と一緒に街でいるの、俺見たことあるし、ゆうくんと話す時だって俺と違う…。パンケーキだって…、」
「ゆうくんは関係ないでしょぉ?あの店員となまえの関係を聞いてるわけ。」
「…関係なくないっ!」
カッとして張ったような声が出た。ゆうくんが関係ないなんて、そんなわけない。だって、ゆうくんが関係なかったら俺はこんなどろどろと重たい真っ黒な気持ちにならなかったはずなんだ。ゆうくんが関係ないなんて、そんなのない…。そんなのあるわけない…。
今まで人に向かってこんなに大きな気持ちになることがなくて、頭がパンクしそうだった。
俺を責める瀬名に対する、苛立ちと反抗、ゆうくんに対する嫉妬、全部混ざってぐちゃぐちゃだ。
何で、俺が言われないといけないんだ。
俺は瀬名を待ってただけなのに。
瀬名が帰ってくるのを待ってただけなのに…。
瀬名のパンケーキ食べるのを楽しみにしてただけなのに…。
瀬名はゆうくんとあんずと、仲良くしてたじゃん…。俺が他の人と仲良くしたらいけないわけ…?
俺はだめなの?俺はずっと家の中で待ってたのに瀬名は帰って来なかったじゃん…。
それなのに瀬名は俺を責めるの…?
「……俺は悪くない…っ」
「他の男のとこで寝てたのが悪くないって言いたいわけ?」
ちく、ちく、と刺される。心臓が痛い。
もうやめてよ、これ以上刺さないでよ。
唇が痛くなるほど噛んだ。
「……もういい…」
もう話したくなくて、会話を終わりにしたかった。
「もういいって何が?全然良くないんだけどぉ?説明してよ。」
「……もういい!そんなの知らない…っ!いずみなんか、きらい!!」
初めて、こんな気持ちを人にぶつけた。
咄嗟に出た言葉はもう口の中には戻らない。
言ってしまった言葉に不意に泣きそうになった。
惨めだ。すごく。
こんな時に限って、いつも呼びたくて呼べなかった瀬名の名前が出てきてしまうなんて…。
瀬名の顔も見れずに俺は部屋を飛び出した。
感情が高ぶってドクドクと心臓は動いている。携帯と財布だけもって靴をひっかけた。
玄関を乱暴に開けて外に出た。
後ろから呼び止める声も、名前を呼ぶ声も、ない。
静寂な中、俺は走り出した。
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