肩で息をしながら走った。
止まってしまうと頭の中のどろどろしたものが押し寄せてきて飲み込まれてしまいそうで。
自分が怒ってるのか悲しいのかすら分からないけど、目に入るもの全てが自分の敵に思えた。
俺は悪くない、俺は悪くない…っ、心の中で叫べば叫ぶほど感情に飲み込まれて足の爪先から全身が熱くなる。
「はぁ…っ、はぁ…っ、」
酸素が足りなくて足が止まってしまった。止まれば押し寄せてくる感情の波に座り込みたくなった。
何でこんなに辛いんだろう…。顔を歪めて泣きたくなる理由がわからない。
何で…。悔しくて悲しくて辛くて…。
「…っ」
もうやだ、もう頭の中から全部忘れたい。
こんな時どうしたらいいんだろう。
どうしたら楽になれるんだろう。
瀬名なら…と考えて、やめた。いつも助けてくれる瀬名はいない。それに瀬名になんて助けてもらわなくたって、俺は…。俺は大丈夫…だ…。
手をぎゅっと、握ってみたけど気休め程度だった。
***
「こ〜んなところにいたんだ。」
「………ごめん。」
「言ってた場所にいないから探し回ったよねぇ。」
「……。」
深夜の街中は人も少ない。凛月は軽い足取りで座り込んでいる俺のところに来た。
自分から凛月に連絡したくせに、集合場所に行かなかったのは遠慮と迷いから。
衝動で電話したとはいえ、凛月が迎えに行くからと言った時に俺は本当にいいんだろうかと迷った。結局行けなくてその場に座り込んでいると凛月が現れた。
凛月が来るまでに高ぶっていた感情も落ち着いて、今度は深く沈んでいた。
「…なまえ。」
凛月の手が俺の頭に触れてわしゃわしゃと柔らかく撫でた。撫でられて見上げると真夜中なのに凛月の顔はくっきりと見えて赤い瞳と目が合った。
「ほら、行くよ。」
凛月に手を引かれてゆっくり立ち上がった。
何も言わなくても凛月は聞かない。歩き始めた凛月の後ろをとぼとぼと俯きながら付いていく。
たまに凛月が後ろを振り向いて、俺が来ているかちらりと見ていた。
ゆっくりと凛月の後をついていくと、たどり着いたのは凛月の家だった。
凛月が玄関のドアを開いて待っている。
俺はその前で立ち止まった。
「ほら、入って。」
「……やっぱり…」
やっぱりネカフェに行く、と言いたかったけど凛月は俺の腕を引っ張って中に連れ込んだ。
「ここならい〜っぱい眠れるからね〜」
ニヤリと笑って俺の腕を引いたまま中に進んでいく。
凛月は…何も聞かないんだろうか…。
俺が電話した理由も、何も話さないことも…。
どうしたらいいか分からなくて俺は凛月に電話した時、何を言えばいいかわからなかったからずっと無言だった。
『おい〜っす。なまえから電話なんて珍しいね〜』
『…………。』
『…なまえ…?なんかあった?』
『…………。』
『今どこ?』
『……そと。』
『…迎えに行く。』
『…………。』
そんなやり取りだけだったのに凛月は俺を探して来てくれた。
優しくて、ありがたくて、でも少し寂しい。
携帯を見ても着歴は何もなかった。
瀬名は出ていった俺なんてどうでもいいんだ。
そんなことを考えてまた胸のあたりが痛くなった。
黙って俯いていると凛月が俺の頬をむに、と掴んだ。
「…っ」
「…ふふっ、ひどい顔〜」
「り、つ」
「…泣きたそうな顔してるね。」
「…そんな、こと…ない…」
「……りっちゃんの腕の中で泣く?」
ふるふると首を横に降った。それなのに凛月の声があまりにも優しすぎて鼻がつん、とした。
「……ふ、泣いてるじゃん。ほら、よしよし」
凛月がくすと笑って俺の背中をぽんぽんと叩いた。
泣くわけない、と首を降っていたのに目尻から流れ落ちるのがわかった瞬間それは止まらなかった。
「…っ、」
拭っても拭っても出てくるのは何でだ。
「なまえ、泣いていいんだよ〜」
凛月の優しい声が、また更に涙を増やした。
← →
back