「それで、なまえは飛び出してきたの〜?」
「…うん。」
「なるほどねぇ」
凛月のベッドの上に2人で寝転んで天井を見上げていた。
凛月んちでお風呂に入って、パジャマも借りて、寝る支度をすると凛月はふかふかなベッドの上に俺を呼んだ。
照明を決して月明かりだけの薄暗い部屋の中で天井を見上げながら飛び出してきたことを凛月に話した。
「…俺、悪いことしたのかな……何で瀬名が怒ったのか…わからない…」
「……なまえってセッちゃんが初めて?」
「……何が…?」
「恋人。」
「……うん。」
心を閉じた俺は付き合っていた人なんていなかったし、そもそも壊れた俺に話しかける人なんていなかった。皆目を逸らして見ないようにしてた。
だから、誰かと付き合うなんてこと初めてだった。
好きだという気持ちだけで幸せなのは初めて知った。おはようと一緒に朝を迎えるのが幸せなのも初めて知った。いただきます、と一緒にご飯を食べるのがあたたかいことなのも初めて知った。
瀬名と暮らしてから、恋人…になってからたくさんの初めてを知った。
だから、尚更こんな辛くて痛くて悲しい気持ちは知らなくて、戸惑った。
こんな気持ちは初めてだ。
「……捨てられるのかな…」
ぽつりと漏れた声は部屋の静けさに飲み込まれた。
凛月は何も答えなかった。
その代わり、凛月の手が俺の手をぎゅ、と握った。
「…セッちゃんは幸せものだね〜…」
横にいる凛月の顔をそっと見たら凛月も俺を見ていた。真っ赤な目が綺麗だった。
「…捨てられないよ。皆なまえが好きだから。ほら、弁当屋のあのおばあちゃんもなまえが好きでしょ〜?俺もなまえが好きだし、王さまもナッちゃんも、ス〜ちゃんも…セッちゃんもなまえのことが好きだから。なまえは愛されてるんだよ。」
愛、されてる…。その言葉が優しくてまたじわりと目に膜が出来た。
「……でも、瀬名おこってた…俺、出る時…瀬名に…いずみなんか…きらいって言ったから…」
「あー……。きらい、ねぇ。ほんとに嫌いなわけじゃないでしょ?」
「うん…。でも、頭の中真っ白で言っちゃって…自分で言ったのにまた嫌になって…」
「いっぱいいっぱいだったんだねぇ。まぁ、セッちゃんも帰ってこなくて、それなのにゆうくんやあんずといるとなまえも嫌になるよねぇ」
「……ゆうくんが悪いわけじゃないのはわかってる…。でも………こんな自分がやだ…。汚いのに…もっと汚くなる…」
ゆうくんやあんずという女性に対して思うどろどろとした心がさらに自分を汚くしてるようで顔が歪んだ。
「汚くない。なまえは綺麗。なまえ、その気持ちはねぇ、普通だよ。皆そう思う。好きな人が自分より他の人と仲良かったら嫌になる。」
「皆…俺みたいにこんな気持ちになる…?」
「うん、だから汚くない。なまえは綺麗で大切にされてるんだから。セッちゃんもねぇ、なまえが嫌いで怒ってるわけじゃないと思うよ〜。例えばの話。なまえがセッちゃんを迎えに行ったら、ゆうくんの家で2人でいたらどう思う?」
凛月に言われて想像してみた。ゆうくんの家にいる瀬名を想像して、嫌だという気持ちがどろどろ出てきた。
「…いやだ」
「…セッちゃんがなまえを迎えに行った時、なまえは他の人の部屋で2人でいて、寝てるしそれを見てセッちゃんも嫌だな、って思ったんじゃないかなぁ」
「……だから怒ってたの…」
「だって、恋人が他の人の家で無防備に寝てたら嫌でしょ?」
「………うん。」
「で、もう一つ。セッちゃんからなまえ嫌い、って言われたらどう思う?」
「……生きる意味がなくなる…。」
「……ふふっ、ほんと…」
凛月はくすくすと笑っている。本当に、俺は瀬名から嫌いと言われたら生きる意味がない。何のために生きるのか分からなくなる。そんなこと言われたらショックで俺はどうなってしまうか分からない。
「なまえに嫌いって言われたセッちゃんも…同じくらいショックだったんじゃない?」
「……っ…俺、悪いことした…。」
「まあ、セッちゃんも悪いんだけどねぇ?だから、お互いにちゃんと話して仲直りしたらいいと思うけどねぇ」
「……瀬名…まだ怒ってるかも」
凛月のおかげで自分が瀬名に何を言ったのか、瀬名がどう思ったのか分かった気がした。それでも、じゃあ今すぐに瀬名のところへ戻って話ができるかというと、まだ心がモヤモヤする。
「なまえが帰りたくなるまでここにいていいよ〜。なんなら、ずっとここにいてもいいけどねぇ〜?無理に帰らなくていいんじゃない?」
むしろ、逃げちゃおう。
凛月は楽しそうに笑った。
俺のベッドで寝たらいい夢見れるよ〜、ほらおやすみぃ。
そう言って寝てしまった凛月の横で俺は天井をじっと見つめた。
凛月は捨てられない、と言っていたけど少し不安だった。鳴らない携帯。
謝ったら、瀬名は許してくれるだろうか…。
嫌いと言った時の瀬名はどんな顔をしていたんだろうと思いながら俺は目を閉じた。
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