窓の外はしとしと雨が降っていた。

それはお昼前からのことで、ずっとパソコンの前から動かない俺のBGM。

遅く起きて、パソコンして、雨が降ってきて、昼寝して、また起きてパソコンして、気づいたら夕方。

ブブブと携帯の振動で机が震えた。
メッセージが1件。

【今、終わった!今日傘持ってくるの忘れてさ…悪いけど、駅まで迎えに来てくれないか?!(>人<;)】

真緒からのメールだった。

俺が寝てる間に真緒は家を出ていたし、朝起きたらラップがかけられた朝食が机の上に綺麗に並べられてあった。

そうか、真緒は傘を持たずに出たのか。

ぺたぺたと玄関まで歩いて、傘立てにある傘を眺めた。

確かに、真緒の傘がある。

雨、か…。

外から聞こえてくる雨音に駅で困っている真緒を想像してみると簡単に浮かんできた。

駅まで…傘を持って迎えに行く…。

まず…服着替えて…靴履いて…傘もって…鍵閉めて…人混みの中歩いて…人混みの中真緒探して……

そこまで想像して、無理だと思った。

歩きたくない、何よりも外に出たくない。

駅とか…あんまり行きたくない…人多いし…。

真緒には悪いけど、傘なんてビニール傘ならどこでも売ってるだろうと思い、行かないことにした。

【ごめん、無理。】

打った文字をそのまま送信しようとして、指が止まった。
こんな内容で送ったら真緒怒るかも…。返信するより返信しない方が真緒も寝てたのかな、とかメールに気づいてなかったのかな、とかそんな風に納得してくれるだろうか。
迷って、打った文字を消して作成中のメールは破棄した。

そのまま無視、という形でまたパソコンの前に戻った。



それから1時間くらい後になってガチャガチャと玄関から聞こえてきた音に真緒が帰ってきたのが分かった。

あのメールを無視してるだけあってちょっとドキドキしながら家に入ってくる真緒を待ち構えた。

「ただいまー」

部屋のドアを開けた真緒を見てびっくりした。

「…びしょ濡れじゃん…。」

「ははっ、走ったらいけるかなーと思ったけど結構濡れちった」

髪から水を滴らせながらへらりと笑う真緒に一気に罪悪感が押し寄せてきた。

ふかふかのタオルを取り出して、真緒に渡した。

「おー、サンキュ!」

「……ごめん。」

やっぱり無視したことをそのまま隠せなくて謝った。

「あ、メール?」

こくりと頷いて真緒から目を逸らした。

「ははっ、いやいいよ。傘持ってなまえが迎えに来てくれたら嬉しいな〜って思って、俺が勝手にお願いしただけだから。何か憧れててそういうの。」


そういうの。傘もって迎えにいく、そういうの。

頭の中で想像してすぐに諦めた駅に傘もって真緒を迎えに行くこと。

真緒がしてほしいこともしてあげられない。

「………。」

ごめんって謝りたいけど上手く言葉が出ない。悪いと思う気持ちと、でも外に出たくないんだという反抗する気持ちが渦巻いてぐちゃぐちゃだ。

「ごめんごめん、なまえを困らせたかったわけじゃないんだよ。なまえが外出るのが苦手なのもわかってるからさ。な?」

俺の頬を両手で包み込んでのぞき込む真緒にぎゅうと胸が苦しくなった。

触れた手は冷たい。

お風呂だ、お風呂に入って温めないと。

「…お風呂。準備する。」

真緒の手を離して風呂場に向かおうとしたのに引き止められて真緒の腕の中に閉じ込められた。

「なまえ、あっためて。」

ひんやりとした真緒に体温の熱が奪われる。しっとりと濡れた肌、水を吸い込んだ服。

「俺が濡れるじゃん…」

「じゃあ一緒に風呂入るか!」

笑う真緒はびしょ濡れで最悪なはずなのに楽しそうだ。

「なまえ〜〜!…気にするな?俺は家に帰ってきてこうやってなまえが居てくれるだけで嬉しいからさ」

頬をぐりぐりとされて俺の顔はひどいことになってるだろう。

「ほら、ただいまのつぎは?」

「……おかえり。」

「ん♪じゃ風呂準備しよっか」

俺の行きたくないという自分勝手な気持ちで真緒の頼みを無視したのに、真緒は怒らずに笑ってくれた。

「真緒…怒ってないの」

「ん?怒ってないぜ。」

怒ってないと言われてしまったら、俺のこの罪悪感の行き場がなくなる。むしろ怒ってくれた方が楽になったのかもしれない。

「次は……頑張る…」

なんて嘘か本当か分からない言葉を出してみたけど、次は頑張ってみようかなって少し思ったから。

「ん〜でもなまえ、誘拐されちゃいけないから、やっぱ家から出ないほうがいいかもな」

ぷはっ、と笑う真緒にそんなことないと反対したけど真緒は俺の頭を撫でるだけだった。

「ずっとここにいて。なまえが居ないと俺…壊れるから」

少し真緒の声が低く聞こえた。もし、俺がもし、ここが嫌になって(そんなことないと思うけど)この部屋を出たら…真緒はどうなってしまうんだろう。

想像できなくて少し怖くなった。

「…どこにも行かないよ」

「うん、約束」

大丈夫。俺はここからどこへも行かない。
真緒の隣しか居られない。生きていけないんだ。

満足そうに微笑んだ真緒を早く入れと風呂場に押し込んだら俺も一緒に入ることになった。

湯船に浸かりながら、次は頑張ろうと自分に言い聞かせた。


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