俺は部屋の中で迷っていた。
目の前にあるレンタルしたDVDの山。
映画なんてネットの動画配信サービスでいくらでも見れるのに、真緒が外に出るためにも一緒にDVD借りに行こうといっていきなり連れ出してDVDをたくさんレンタル屋で借りたものだから返しにいかないといけない。
「……はぁ。」
外に出たくないけど返しにいかないといけない。
期限が近づいているのはわかっていたけど真緒が返してくれるものと思っていたから…。
【なまえー!ごめん、今日DVD返そうと思ってたんだけど忘れて出てしまってさ…(TT)今日が期限だったよな?代わりに返しておいてほしい!】
なんていうメールがさっき入ってきて俺は唸った。
延期がきてお金を取られるのはもったいないから外に出て返しに行くしかない。
服を着替えてDVDの入った袋を掴んで家の鍵と財布をポケットにいれた。
玄関までやってきて、少し深呼吸した。
それからドアノブに手をかけて、そっと押す。
10cmほどの隙間ができて外が少しだけ見えた。
「………。」
手をかけたまま、じっとして耳をすませた。
物音はない。誰もいないということだ。
真緒の家から、俺みたいないかにも社会のゴミって感じの奴が出てきたら真緒の評判が悪いだろうから一応人がいないか確認する。
周りに人がいないことを確認して初めて玄関のドアを開けて外に出た。
ちらりと目だけで横を見て廊下にもう一度誰もいないことを確認して歩き始める。
静かに歩いてマンションを出た。
夕方というよりは夜に近づいてる時間帯。
借りたレンタル屋がなぜか微妙に遠いところで俺の気分は萎えきっていた。
外に出るとなんだか肩身が狭くて息がしにくい。1人だと尚更。
真緒と一緒に出る時はそこまでではないけど。
レンタルって店員に渡せばいいだけなのか、なにかする必要があるのか…外に出なさすぎてよく分からない。
通りに出て、人の邪魔にならないように道の隅っこを歩いた。夕方のこの時間は人が多くてあんまりいい気分じゃない。
下を向いて俯き加減に足を進めているとふと聞き覚えのある声が耳に入った。
「うわあ明星くん、それ不味そう!」
「うぇっ…。サリ〜、これ不味い!食べて!」
「は?!俺?!無理!」
「そんなに騒ぐと落とすぞ。」
前から歩いてくる4人組。
真緒がいた。
何か、明らかにリア充って感じの4人。若くて明るくて青春してます、って感じがガンガンに出ていてすごく目に眩しい。というよりも、目に毒。
ちらりと見上げた視線をすぐに逸らして俯いた。
一旦立ち止まってUターンして別の道を通ろうか考える。だって真緒とはいえあんな人たちに見られたら真緒も俺も良くないと思う。
でももう真緒たちはわいわい話しながら歩いてきていていきなりUターンするのも怪しまれるかと思いそのまま歩くことにした。道の隅っこを通って。
だんだんと近づいてくる距離にさらに俯く。
「…なまえ?」
真緒の声が前方から聞こえた。
「なまえ!あ、DVDかえ、え…?」
なまえを呼ぶ真緒にどきりとしながらも、俯いてそのまま横を通り過ぎた俺に真緒は驚いたような声を出した。
「ちょ、ちょ、なまえ?!」
パタパタと後ろから足音が聞こえて腕を掴まれた。そこで初めてちらと真緒を見た。不思議そうな顔で俺を見ている。
真緒の後ろでは3人が俺のことを真緒の知り合い?とか誰?とか話している。
掴まれた腕を見ながら俺はぼそりと呟いた。
「人違いです…」
「えっ?!いや、えっ?!」
驚く真緒を置いて俺は歩を進めた。
また俯いて今度は少し早足で歩こうとしていたら、ドンと何かにぶつかった。
俺の手からレンタル屋の袋が落ちて、地面にDVDが広がる。
ぶつかったのはスーツを着た背の高い男性だった。スーツを見ただけで働く社会人と自分の底辺さを見せつけられてその人の顔まで見れなかった。
「ぁ、す、すみません…。」
謝ってとりあえず拾わないと、としゃがんだら俺の上から「ごめんね、大丈夫?」という声が降ってきた。
しゃがみこんで散らばったDVDを一緒に拾おうとしてくれて、俺が伸ばした手とぶつかった。
「っ…」
「あっ、ふふ、ごめん」
男性が他のDVDを手にかけようとした時、それは別の手によって取られた。
「なまえ。ほら。」
その手は真緒のだった。表情はない。怒ってるような無表情。
「すみませんでした、ありがとうございます。」
真緒があっという間に全部拾った。
男性に感情のないような声でそう言って俺の手を引いて立たせる。
俺が前を見ずに歩いていたのが悪いのに男性はごめんねと言って去っていった。
「…返してください…」
後ろで待ってる3人に真緒の知り合いと思われないよう敬語でまだDVDを手にしている真緒に声をかけた。
3人からは真緒の顔は見れないだろうけど、俺は目の前にいるから見える。
「………。」
DVDを握ったままその整った顔を無にしてじっと俺を見た。それから、ふいに後ろを振り向いて立ち止まって待っている三人に声をかけた。
「わりっ!俺、今から用事あるから抜けるな!」
「??サリ〜のお友達?わ〜!初めまして!俺、あけ、」「スバルー、ごめん、急いでるからまたな!」
俺と真緒の方へ歩み寄ってきた明星スバルは自己紹介をし始めたけど、俺の前に真緒がずいと出てきてそれを止めてしまった。
やっぱり真緒は俺のことを友達に言いたくないんだとわかった。
早く離れようとその場から動こうとしたら俺の手を真緒が掴んだ。
「…っ。」
真緒は急いで三人に別れを告げて俺の腕を引っ張った。
強い力に引かれて足は動く。
黙ってずんずんと歩く真緒に俺はまた俯きながら連れて歩かれた。
「……。」
「……。」
「何で無視するんだ?何で敬語なんだよ。」
「………。」
「なまえ?」
「真緒と知り合いって思われたらいけないから。」
「は…?」
「俺が知り合いとか…真緒が変な目で見られる…」
「見られるわけないだろ。」
「…さっきの…三人に俺のこと言いたくなかったでしょ。」
分かってる。俺が真緒だったら俺みたいな何もしてないぼさぼさのいかにもニートってやつを友達に紹介なんかしたくない。
真緒がふいに立ち止まって俺を見た。
「…違うよ。俺が言いたくないのは…、あいつらがなまえを好きになったら困るから。」
真緒は少し言い難いように目を逸らした。
「…俺のこと好きになる人なんていないよ。」
「いるじゃん。ここに。」
今度は俺が目を逸らす番だった。しっかりと俺を見据えているその目から逃れるように下を向いた。
「なまえ。ごめんな俺、ひどい人間なんだよ。さっきぶつかった人がなまえの手に触れただけでカッとするし、スバルたちにも紹介したくないぐらいなまえを独り占めしたい。」
男性の手と触れた俺の手をぎゅっと握られた。
「なまえを離したくないんだよ…。こんな俺、嫌いになった?」
いつもの困ったように笑う顔。お人好し、世話好きの真緒のこの顔を何度見たことか。
「…なってない。」
むしろこんな俺のことを好きといってくれる真緒を俺が嫌いになるはずがない。
「よかった…。早くDVD返して帰ろうぜ。あ、どっか寄って食べてく?」
聞かれて俺は考えた。食べて帰ると家に帰るのが遅くなる。オンラインゲームの時間もあるし、何より人混みから離れたい。家に帰りたいが6割と真緒の手料理が食べたいが4割で俺は答えを出した。
「俺は…真緒の料理が食べたい気分」
「っ、もうほんと…っ」
顔を赤くして嬉しそうに微笑む真緒に心の中でごめんと謝ったけど本当に嬉しそうだったからいいやと開き直った。
「早く帰ろう。」
真緒の袖をくいと引っ張り早く行こうと促すと真緒は俺の腕をもう1度握りしめた。
「なまえ、帰ってもご飯食べたらゲームする時間ないからな。」
「え…?」
「俺となまえの2人の時間だろ?」
「………。」
ギラギラとした目で俺を見る真緒。
どうやら俺の考えは読まれていたみたいだった。
← →
back