「なまえ、今日から4日間大丈夫か?」

「大丈夫。」

「おかずとかは冷凍しといたから、食べる時はレンジで温めて食べること、それからお風呂もボタン押すだけで湯はりするからちゃんと入ること、あーっと、それから洗濯は」

「真緒…!大丈夫だってば…」

「悪い悪い、ほんと心配でさ。」

頭をかきながらいつもの困ったような顔で笑った。

真緒は今日から仕事で4日ほど遠くに行く。
家を空けるから、と俺の事を心配して母親以上にご飯や身の回りの事に気にしているけど俺だって子供じゃない。

やれば出来るんだ。

「わかったから、俺の事はいいから仕事行きなよ…」

実質養ってもらってる人間が言える言葉じゃないのはわかってる。いつも俺の口からはこんな言葉しか出ない。

別に早く出ていけって言ってるわけじゃなくて、俺のことは心配しなくていいよって言いたいだけなのに。

上手く伝わらない言い回しがまた俺が引きこもる原因の1つかもしれない。

罪悪感に包まれてあんまり真緒の目を見れず横ばかり見ていると真緒が俺の頭を撫でてきた。

「メール、送るから見てくれよ。返ってこないと心配するから」

「わかった…」

「うしっ!じゃあ、いってきます!」

真緒は長い前髪をピンで止めあげていつものヘアスタイルでカジュアルなリュックを背負った。

玄関まで見送りにくると靴を履いた真緒は振り向いて俺の頬に手を添えた。近づいてくる顔にいつものだ、と目を閉じる。ちゅ、と触れたあと真緒は嬉しそうに行ってくる、と言った。

「…いってらっしゃい。」

送り出した後は早速パソコンの前に座ってネトゲにログインした。

ゲームしてれば4日なんてすぐだ。ヘッドホンをして椅子に胡座をかいて座る。

真緒がいなくてもいつも通り部屋の中で過ごすだけ…。部屋の主が帰ってくるまでせいぜい綺麗にしておこうと決意して俺はいつもの仲間たちと狩りに出た。


***

<今日も大物げっつ、おつ>
<おつー>
≪おつ≫

<じゃ、おちるわー>
≪おれも。おやす≫
<おやすー、つって朝だけどw>
<俺らの生活は夜起きて深夜クエ参加して朝寝るスタイルだろw>
<それな。安定のそのスタイルな>

雑談が流れるチャットをそのままに俺はあくびをした。真緒が仕事に行って2日目。いつもなら真緒の生活リズムに合わせて寝ているけど1人ならその必要もない。ネトゲのために夜はずっと起きているから眠い。

真緒からメールはくるけど真緒も忙しそうで返信は遅い。

お風呂入ったか、とかご飯食べたかとかそんなメールだ。

そういえば真緒は今回ライブとは別にどこかの遊園地、テーマパークのイベントにも出ると行っていた。

少しだけ興味を持ってネットで検索してみた。

カタカタと打てば数秒で真緒のツイートが出てきた。

真緒のアカウントはかなりのフォロワーがいる。タイムラインをスクロールしてみた。

『4人でジェットコースター!まさかの真がw』
ジェットコースターに乗る前の4人の写真がアップされている。

『男4人がうさ耳、猫耳、犬耳、…北斗のはなんだ?w』
頭に被り物をつけた真緒と他のメンバーが肩組んでピースしている写真。

『このアイスちょーうまい!!やば!』
マンゴーソースがかけられた真っ白なソフトクリームと真緒の写真。


「……リア充じゃん…」

パソコンの画面にうつる真緒たちの写真を見てぼそりと声が漏れた。

イベント後に4人で遊園地の中を回ったらしい。たくさんのコメントが真緒のツイートに来ていた。

ご飯食べたかとかお風呂入ったかなんて聞いてきながら真緒は外でこんなに楽しそうにしてるわけだ。

アップされた写真を見て胸がもやっとした。

4人ではしゃぐ真緒の姿が俺が苦手なリア充と重なった。

明るくて人生に困難なことなんて感じたことがなさそうなリア充…。

ブラウザを閉じてパソコンを切った。

「………。」

あんな楽しそうな真緒は見たことない。だって俺は真緒と遊園地なんか行くわけないし。外に出られないし。

ベッドにぼふっと沈んで枕を抱きしめた。

めちゃめちゃ楽しいです、って感じの真緒に少し嫉妬した。同い年なのにこんなにも違う。

真緒みたいに外に出ることが出来ない俺は、いくら真緒に嫉妬したところで結局この部屋から出られない。

リア充にはなれないわけだ。

この部屋の中じゃないと生きていけない俺はとうの昔から底辺な引きこもりニートを極めている。

タイムライン見るんじゃなかったと後悔しながら寝落ちしようとした時、ピンポンと部屋のチャイムがなった。

今はまだ朝の4時だ。こんな時間にチャイムなんて非常識すぎると無視した。

そしたら何回もピンポンピンポンと押してきてうるさいから、そうっと静かに玄関に向かった。

誰だとドアスコープの中を覗いて俺は目を見開いた。



****


真緒side


「なまえ、ただいま〜」


やっとなまえに会えると両手にお土産を抱えて家の中に入る。

昨日から俺の送ったメールに返事がないからネトゲのしすぎで寝ているか、気づいていないか、かなぁ…と少し気になりながら急いで帰ってきた。

多分ベッドの上で丸まっているかな、と想像して笑った。

「なまえ〜帰ったぞー」

リビングに入ると案の定、ゴミが溜まっていた。綺麗に分別は出来るけどなまえはゴミ出しはしないからゴミ袋が溜まっていくんだよなぁ。あとでゴミ出しして、掃除して…と頭の中でやることをリストアップしていく。

「なまえ〜」

寝室の部屋を開けてベッドを見る。

「……なまえ…?」

ベッドに近寄るも、丸まった姿はどこにもない。

「………。」

急いで他の部屋をみた。トイレ、お風呂、キッチン、各部屋全部見てもなまえがいない。

「…は?」

どこにいった?

頭がすぅ、と冷めていくような感覚。

携帯を取り出してすぐに発信する。

なり続けるコールになまえが出る気配はない。

コールはそのままにして部屋を見渡した。

なまえどこにいった…?

なまえがどこにいるか分からない、自分が把握できてないということに静かな苛立ちと怒りが込み上げてくる。

落ち着け、冷静になれ。

自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、頭が冷めていく。

探さないと。どこにいった。
俺から逃げて、どこにいった。

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