例えばの話。
もし薫くんと俺が付き合ったら……。
と考えなかったこともない。
もし、そうなったらまず俺は薫くんに釣り合う人間ではないからそれ相応の努力をしないといけないと考えた。
痩せないといけない、ファッションセンスも磨かないといけない、薫くんに相応しい人間にならないと…。
今日あったことを現実逃避するためにいつものネットサーフィンをしていたら、「脱ダサ!ぽっちゃりで悩んでる人必見!大人のメンズファッション」なんていう特集を見つけて覗いて見た。別に悩んでない。もはや諦めてる。
【かっこよくオシャレに見せるポイント!】
・選ぶ色は黒!
・Vネックでスッキリみせよう!
・ボーダーは細身を選ぼう!
・ダボダボパンツはNG!
・ぽっちゃりも個性としておしゃれしよう!
「……。」
だから、これ全部モデルがいいからかっこよく見えるだけで、こんなの俺が来たら見るに堪えないものになるんだって。ていうか、このモデル普通に細いじゃん…。全然参考にならないし…。と心の中でつっこんだ。
そう考えた時点で薫くんと俺が…なんて選択肢はなかった。そもそも薫くんに対する俺の気持ちだって…。
とにかく、薫くんとどうこうなるとか、そういうのはない。
薫くんはどこかに頭をぶつけて目がおかしくなったんだと思うしかない。
そうじゃないと俺を好きだなんて言わないはずなんだ。
薫くんに言おう。薫くんと俺が付き合うなんてことは出来ない、って。
薫くんのことは嫌いじゃない、でも恋愛的な意味で好きかと言われるとそんな思いを俺が持っていいものじゃないと思う。
薫くんはアイドルで、俺とは違う人。そう、俺はぼちゃダサ人間、薫くんはイケメン。
どうやったって世界が反転したって有り得ない。二人がくっつくなんて有り得ない。
うんうんと心の中で納得しながら頷いた。
自分の意見が固まれば安心した。後は寝るだけ。
明日、目が覚めたら全部夢でした、ってなってればいいのにな…。
そんなことはないとは分かってる。けど、そんな淡い期待を胸に、瞼を閉じた。
***
【この間の話の続きしたいから、うちにきてよ。】
あれから数日何も連絡を取らずにいたら、ついに来た薫くんからの召喚メール。
あまり行きたい気分にはならないけど、俺の思うところを伝えるためにも行かないといけないな、と思った。
それで、もしかしたらこれが薫くんと最後の会話になるかもしれない。薫くんの望む答えを言わない俺は薫くんと縁を切られるかもしれない。
日にちを調整して、金曜日の夜に薫くんの家にお邪魔することになった。
金曜日まではあっという間で、すぐに来てしまった。
会社から出る足取りは思い。世間ははなの金曜日。皆意気揚々と飲み街に繰り出す。
俺は一旦部屋に戻って着替えた。
ああ…薫くんちに行くの…気が重いな。
鍵と財布と携帯だけを持って家を出た。
俺の近くに引っ越してきた薫くんちは確かに近い。徒歩で行ける範囲ではある。
待ち合わせの場所に突っ立っていると、少しして薫くんがやってきた。
「おつかれ〜。ごめん、待たせた?」
何だか上機嫌の薫くんに少し驚きながら、言葉を返す。いつも通り、いつも通りにと意識するのにうまく薫くんを見ることができない。
「お、おつかれ…。待ってない…、よ。」
「そ?じゃ、行こっか♪」
薫くんの斜め後ろを歩くように着いていく。
俺は薫くんにどういう風に話を切り出そうかと頭の中でシミュレーションしていた。
歩きながら無言の空気の中で薫くんが口を開いた。
「今日のご飯何にする?」
「…え?ご、ご飯…?」
「なまえは何が食べたい気分?」
正直、薫くんとご飯食べるとは考えてなかった。
だって気まずいし、言わなきゃいけないことだけ言って帰ろうかと思っていた。
「…きょ、今日は」
「え?ご飯食べてかないの?てか泊まってけば?」
「いや、それは…」
「ちゃんとなまえ用の着替えもあるよ?♪」
楽しそうに言う薫くんを見て、俺がこれから話すことを聞いたら薫くんはどんなふうになるんだろうと少し不安になった。
そうこうしていると薫くんのマンションについて、綺麗なエントランスを抜けてエレベーターに乗り、薫くんの部屋にたどり着いた。
以前来たことがあるけど、いつ来てもおしゃれだな、と思うデザインの部屋。超高級ってわけじゃないけど広いリビングがメインでシンプルな印象をうけていた。
以前来た時に薫くんは、節約のためにここにしたと言っていた。充分いい部屋だと思うけど、薫くんは将来一緒に暮らすために貯金するんだと言っていたのを思い出した。
誰と暮らすのかなんて知らないけど、多分綺麗なお姉さんとか女性なんだろうと俺は思う。
だからこそ、今日は薫くんに目を覚ましてもらわないといけない。
「適当に座ってよ」
「お、お邪魔します…。」
使い古されたボロいスニーカーを脱いで玄関から上がる。
薫くんちの綺麗な玄関に汚いスニーカーは浮いている。
「飲み物何がいい?なまえが好きそうなココアとかもあるよ?」
「あ…。」
実は俺はコーヒーとかはあまり好きじゃない。やっぱり甘いもので飲みやすいココアとか紅茶なら砂糖を入れて、コーヒーならミルクと砂糖はふんだんに。これがマイルール。
粉ココアをちらりと見せてくれた薫くんに、じゃあそれで…とお願いをした。
薫くんは自分でコーヒーを入れている。
綺麗な黒色のふかふかしたソファに浅く腰掛けた。どっかり座ってしまうと俺の体重じゃ沈みそうだと思ったから。
コトリ、と置かれたココアに ありがとうと小声で答えた。
てっきり薫くんは俺と向かい側に座るのかと思ったけど、なんと俺の隣に座ってきた。俺が端っこに座っているために右側に座る薫くん。
距離が、俺の体の右側と薫くんの左側の距離が、近い…。
肩が触れるんじゃないかと言うほどの近さに戸惑った。
「か、薫くん…」
「なに?」
「も、もうちょっと右に…」
右に寄ってほしいと言いたいのに、こっちを見る薫くんが近すぎて口が止まってしまった。
「ごにょごにょ言ってて何言ってるかわかんない。」
だから、聞こえませんとでも言うように足を組んだ。
俺の足の長さと薫くんの足の長さが違いすぎてすごい、とその差を視界で捉えながら俺は早く切り出そうとやきもきした。
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