※R-15
「あ、あの…この間の話…なんだけど…」
「うん。前向きに考えてくれるって話ね。」
薫くんはコーヒーカップを机の上に置いた。
「え、や…いや、あの…」
「好きだよ。だから付き合ってほしい。俺と。」
「あの、か、薫くん。ちゃんと、ちゃんと考えたんだけど、やっぱり薫くんと俺が付き合うとかって、な「そういうの、いらない。」」
俺の言葉を遮るように放った言葉に、俺は薫くんを衝動的に見やった。
薫くんは俺の方は向かずに前を見ている。
「そういうの、いらない。無理とか、付き合わないとかさ、そういう答えはいらない。そんなの俺が無理。」
どこまでも綺麗な横顔でそんなことを言う薫くんに俺はどうしたものかと、押し黙ってしまった。
両手の中で湯気を立てるココア。
それをぼんやりと見て、言葉を発しようとしても、拒否をする薫くんにかける言葉が見つからなかった。
「……………。」
「何で黙ってるの?続きは?付き合うって言えばいいじゃん?」
「そ、れは……」
そんな簡単に言えることじゃないって薫くんは分かってくれてるんだろうか…。
「あの、俺はやっぱり薫くんとは「やだ。聞きたくない。」」
……どうしよう。話が続かない。嫌だ、聞きたくない、YESかはいじゃないと無理という一点張りの薫くんに俺は頭を悩ませた。
「あ、あのさ…。好き…って。言われたことないから…よくわかんないんだけど…」
「………。」
俺が言いたいこと、言わんとしてることがやんわりと伝わっているのか、薫くんは少し怖い顔で無言で聞いている。
「好きって…。考えてみたけど…、俺には今までそんな…経験ないから…よくわかんなくて、薫くんが俺に対して思う…好きがほんとか嘘なのかって「嘘なわけないじゃん。」うん…。ごめん。」
「薫くん…昔からかっこいいし、すごいモテてたし、今も…。そんな人が俺のこと…す、好きって…有り得なくね?…って。」
「有り得なくないし。現に俺はなまえのことが好きだし。」
「……、薫くんさ…。俺のこと、好きって言うけど。お、男同士だよ…?そういうの…生理的に…う、受け付けるの…?お、俺と…そういうこと…できるの…?」
俺だって伊達にネットサーフィンばっかしてるわけじゃない。ネット上で色んなことを知る。間違ってクリックした先で知りたくもないことを知るはめにあったこともある。
男同士の夜の営みが何をするかだって、腐向けの動画とかそういうのを見たこともあるし、ある程度の知識はある。大まかにだけど。
薫くんはそれができるかって話なんだよ。
好きって言ったって、生理的に受け付けないならそもそも無理なわけで…。
薫くんは…俺みたいなやつに欲情するのか、って話で…。
「…煽ってんの?はぁ、どこで覚えてきたのそんな手口。」
「…え、え…?」
「キス?セックス?できるか?って、出来るに決まってるでしょ。なに?ほんと俺のこと煽ってんの?今ここで犯すよ?」
苛立ったような声に、あ、やばいと思った。
薫くんに俺との情事を想像させて嫌悪感を抱かせようと思ったのに別のスイッチを入れてしまったみたいで、薫くんは俺の肩をぐいと押して、力なんてない俺はごろんとソファに倒れこんだ。
ふわふわのソファに沈むように俺の体は包まれた。
「か、かお、るく、」
「俺の言葉が本気じゃない、嘘だって言いたいんだ?」
「そ、そん、ぅう」
近づいてきた薫くんの顔を必死で遠ざけようと頭をぐいと後ろに押してもソファがあるため1ミリも動かない。ただ頭を後ろにやっただけで俺の首元に立派な分厚いぷにぷにの二重アゴが出来ただけ。
そんな俺を見ても薫くんは何ともない顔で目を閉じて容赦なく近づいてくるものだから、俺は目をぱちくりと開けたまま固まった。
至近距離で薫くんの顔があって、唇に柔らかい感触。
それから割り入るように唇をはむはむとされて、くすぐったいその感覚につい口元が緩んだ。
その隙に薫くんの舌と思われるものが入ってきて、何がなんだかわからなかった。
「か、ぉ、っ、ふ、ん、ぅ…っは、」
こんなキス…?はじめてで、だってこんなの映画でしか見たことない。こんな深いキス。まさかこの俺が人生の中で誰かとキスするなんて思ってもみなくて、ただただその蠢く何かに翻弄されているだけだった。
分かるのは、苦味。コーヒーの苦味を感じて、さっき薫くんが飲んだやつだと思った。
正直、こんなキスしたことなくて、キスってこんなにきもちいーものなのかと思った。
世の中のリア充はこんなのをいつもちゅっちゅ、ちゅっちゅとやってたのか、と。
何か俺もリア充の気分を味わったみたいに。
「……、これ以上だって余裕でできるよ。」
火照って、少し汗ばんだ額の俺を見下ろす薫くんはすごく色っぽかった。
これが薫くんの色気なのか、と女子にモテるのも頷けた。
「ねぇ、気持ち悪かった?俺とのキス嫌だった?」
「…ぅ、はっ…はぁっ、…」
気持ち悪く……はなかった。
きもちよかった。
でも、きもちよかったなんて言えるわけない。ただの変態じゃないか。男にキスされてきもちいいなんて。
「……よ、くわかん、ない…。」
苦し紛れな言い訳に聞こえただろうか。
薫くんが少し目を細め、眉を強めて俺を見た。
「はぁ?こんなに感じてるのによくわかんないってどういうこと?気持ちよかったでしょ?」
薫くんの手がTシャツの中に入ってきて、俺のたるんだお腹をさわりと撫でた。
体温が上がったせいで湿っているその肌を薫くんがつつつ、と撫でるから俺は身をよじった。
「かお、くん、やめ…っ、や、」
「はあ、えろ。こんなの…、やめらんないよね。ねぇ、好きって言ってよ。俺も好きって。付き合うって。ねぇ、言ってよ。」
「ぅう…ゃ、め」
お腹を撫でたかと思っていたら今度は太ももをさわさわと触る薫くんに俺はもう思考停止に陥っていた。
俺の太ももなんて、薫くんがいつも遊ぶ女の子に比べたら、ひどいもんだ。女の子がマシュマロなら、俺の太ももはゴムボールだ。無機質なやつ。
そんなの触ったってさわり心地も良くないのに。
「付き合えないとか、そういうのほんといらない。好きだけ。それだけでいいから。ねぇなまえ。聞かせてよ。」
俺に覆いかぶさって耳元で喋る薫くんは本当にもう色気がカンストしてる。
俺でさえこんなになってるんだから、女の子だったらイチコロだろうな…。
でも俺は女の子じゃないから、違うから。薫くんにちゃんと言わないといけない…。
薫くんの手で翻弄されてかろうじて残っている理性を呼び出した。
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