俺のことを好きだ、なんて言ってキスしてきた薫くんを俺は信じられない思いで見つめた。
「………。」
「…本気で好「お、お帰りください…っ」」
「は?」
「か、帰って…。」
訳分からないことを言い出した薫くんに俺の頭では処理しきれなくて、とにかく家から追い出すことが優先だと思った。
「無理。帰らない。」
「か、帰ってよ…っ!」
「何で?今ここで帰ったらなまえ絶対俺のこと避けるよね?」
「さ、避けない、避けないないから…っ、と、とりあえず今日は…」
「無理。今日は泊まる。」
「か、薫くん!怒るよ?!」
「怒ってんのはこっちだって。」
薫くんはまるで開き直ったみたいに、ふんと鼻でも鳴らしそうな勢いで部屋に上がろうとしている。
「も、ちょ、ほ、ほんとに!今日だけは…!」
「…何で?」
「な、何でって…。ちょっとテンパっててよくわかんないって言うか…。今どうなってんのか…よく理解できてないから…」
「簡単なことじゃん。俺がなまえのこと好きって言ったの。それだけ。でなまえの返事は?言っとくけど断るとかそういうのはいらないから。」
「そ、そんなの…。」
立ち尽くす俺を放って薫くんは上着を脱いだ。
「……もしなまえが本気で俺の告白に考えて、前向きに考えるって言うなら帰ってあげなくもないけどさ?」
少し頬を膨らますようにジト目で俺を見る薫くんにそんな無茶苦茶な条件あるもんか、と思ったけど薫くんには通じなさそうだった。
薫くんがうちに泊まるか、前向きに考えるから帰ってもらうか…。
俺としては一人の空間で頭を整理したいし、とにかく落ち着きたかった。
いつもの空間、いつもの静けさに戻りたかった。
「…ま、前向きとか分かんないけど…、考えるためにも…今日は一人にしてほしい…」
「……そ。わかった。前向きに。考えてくれるんだよね?」
納得したように薫くんは頷いて脱いだ上着を持って玄関に来た。
「俺、本気だから。」
ドアに手をかけて俺を見た薫くん。
いつになく真面目にしっかりと俺を見ていて俺は目を逸らしたかったのに逸らせなかった。
「じゃあ、ね」
パタンと薫くんが出ていった時、少しだけ薫くんの香りがした。
薫くんがここにいたという証。
「…はぁ…。」
ずるずると壁伝いに床に座り込んだ。
二十何年生きてきて、誰からも向けられることのなかった好意。
はじめてのキス。唇の柔らかさ。
恋、愛という感情が本当であって、それが俺に向けられてるとしたら…。
「はぁ…。」
不安そうな顔になってるかもしれない。
それほどに、俺と薫くんなんて有り得ないのだ。
俺を好きになる人なんて1人もいないと自覚して生きてきたんだから。
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