「薫くん…。」

俺に覆いかぶさっていた薫くんは少し顔を上げて俺を見た。

「……ここまで来たらもうYES以外受け付けないから。絶対。こんな顔してさ…、もう無理。もう待てない。」

変なところで薫くんは頑固なんだ。昔からそう。
譲らない所は譲らない。

それが薫くん。

薫くんに俺の気持ちを話すしかないと思った。

「俺、薫くんみたいに彼女いたことないし、友達もいないし、いつも一人だから人付き合い下手だし、そんな俺を薫くんが好きって可笑しいと思うんだよ俺は…。俺…っ、こんな、こんな俺なのに好きっておかしいじゃん普通…っ。」

薫くんに好きと言われて不安になっていた心が押せ押せと言わんばかりに前に出てきてしまった。

「皆…っ、俺を見て指さして笑うか、からかって遊ぶかだったのに…っ、薫くんは笑っていつも一緒にいてくれたし…っ、今だって…、絶対つまらないはずなのに会おうって連絡してくれたり…っ、薫くんのその優しさが怖いんだよ…っ、」

じわりと目尻から零れた涙がソファに染み込んだ。

「いつか、いつか、薫くんから縁切られるんじゃないかって見放されて、本当に別世界の遠い存在になるんじゃないか、って考えたら…、あんまり近くにいると…、後から悲しくなるから…っ」

「薫くんが好きって言ってくれるのは…、嬉しいけど…っ、俺は、薫くんに好かれるような人間じゃないんだよ…。」

「それでも好き。」

ふるふると首を降ったのに薫くんは納得してない顔でいる。

「薫くんの周りにはもっといい人いると思う。俺だと、薫くんのしたいこと一緒にしてあげられない。フェスも…ショッピングも…サーフィンも…全部俺は苦手だし…。薫くんと合うところなんて、ないって思ったんだよ…。」

「…なんでそう決めつけんの?」

「…薫くんみたいに俺はリア充じゃない。」

「…どんななまえだって関係ない。好きなんだって。皆から雪だるまってからかわれてた頃から俺はなまえが好きなの!」

薫くんの少し怒ったような顔にも慣れてきた。薫くんがいつもムッとした表情を見せるからかもしれない。

アイドルの時はあんまり見ない表情。

「…薫くん、同情してくれてただけでしょ…。」

「…最初は皆からいじられてるから、幼なじみだし守ってあげようって思ってたけど、すぐに違うって分かった。なまえが俺のところに来ないと苛立ったし、俺から離れようとするなまえが許せなかった。…正直、色んな女の子と遊んできたよ。可愛い子もたくさんいた。笑顔が皆素敵で、俺は求められてるって、嬉しかった。」

薫くんの言葉に胸が痛くなった。やっぱり俺なんかと比べ物にならないほどの恋愛対象が薫くんの周りにはごまんといる。

「でも…、皆なまえには適わなかったよ。どんな可愛い子たちと遊んでも、なまえに会いたくなったし、なまえの喜んだ顔がみたいって思ってた。」

それは初めて聞く話で俺は耳を疑った。

「確かに、俺は周りから見て軽く思われてるから、俺の好きは信じれないかもしれない。なら、なまえに信じてもらえるまでどんなことだってする。なまえに俺が本当に好きなんだって分かってもらうために毎日好きって言うよ。」

至極真面目な顔でとんでもないことを言い出した薫くんに俺は目を白黒させた。

「それでもまだ信じられない?!俺が、ぽっちゃりしててダサくて陰湿で、友達もいないなまえが好きだってこと信じられない?!」

言いようがひどいような気がするよ薫くん…。と思ったけど何一つ間違ってない正しいことなので否定はできない。

「…信じられない…。」

「どんな子よりもなまえが好き、本当に好き、愛してる。」

「……う、そだ「もう黙って。」」

押し問答の末に薫くんは短く言い放ってかぶりつくようなキスをしてきた。

息も絶え絶えな俺を殺す気かというほどに深く、攻撃的なキス。

苦しくて、生理的に涙が出た。

「…っは、もう好き以外聞かない。」

薫くんがぎゅううと俺を抱きしめた。
肉厚な俺は自分の肉に押し潰されそうな感覚になった。

薫くんの苦しそうな声を聞いて、初めて本当に、本当に薫くんは俺のことが好きなんだと信じた。

「好き…。なまえが好き…。」

俺の耳元で小さく聞こえるその声は縋るようなか細い声。

「………。」

俺は薫くんちの天上を見上げながらどうしたもんか、と思った。

正直に言うとここまで言われて、恋愛経験ゼロの俺はかなり崖っぷち。

もう背中を押されたら、あとは薫くんという奈落の底に吸い込まれてしまいそうな状況だ。

「なまえの全部が好き。」

あ、…背中をトンと押された。崖っぷちから足を踏み外してガクンと下がる体。

かろうじて、落ちる瞬間片手を崖に手をかけることができた。でも、俺の体は重すぎて手に痛みが走る。

ちぎれそうなほど。今この状態で俺の命を救う片手を踏まれたりでもしたら、俺はさよならだ。

歯を食いしばりながら必死に崖の岩を掴むしかない。

「…俺にはなまえしかいらない。」

あ、ああ…。俺がぶら下がる崖っぷちの上に薫くんが笑顔で立っているのが見える。

にこりと笑って、しゃがんだ。俺を見下ろしている。
そっとかろうじて踏ん張っている俺の手にそっと手をかけた。

ダメだ、ダメだ、俺の手を…

「ずっと昔から、小さい頃から、なまえが泣きそうになりながら俺の隣にひっついてた時から…ずっとずっと好き。」

俺の手は薫くんによって、崖から外された。

薫くんという奈落の底にどんどん落ちていく俺を薫くんは幸せそうに見ている。

ああ、もう落ちた。

全身の力が抜けた。

「……なまえも好き?」

「…………う、ん……」

初めて、人に愛されて、淡いピンク色の心が生まれた瞬間でした。



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