「どうする?何か買いに行く?それか、どっか食べに行く?」

「え…や、どっちもいい…かな…」

薫くんと出かけるなんて公開処刑以外の何物でもない。

「どっちでもいい?んーどうしよっかな」

「あ、ちが…」

肯定の意味のいいじゃなくて、遠慮したいという意味でいいと言ったのに完全に勘違いされてしまった。

「とりあえず外出て考えようよ。ほら、着替えて」

ええ、何かもう外行くことになっちゃってる。
外に出たくないなあ、と思うのに薫くんが急かすからしぶしぶ立ち上がろうとした。

途端、ぱっと薫くんの腕がのびてきて俺の手首を掴んだ。

「この丸々した手…変わってないね」

はははっ、と目を細めて笑った薫くんは世間に出ている薫くんの笑顔と同じでかっこいい。
でも、言ってることはひどくて、俺はため息を吐いた。

「うん…着替えるから…」

手を離されてクローゼットを開ける。すかすかのクローゼットの中に服はあまりない。

どれを着よう。まあどれ着たってスタイル悪いし…

Tシャツとパーカー、ゆったりしたズボンを選んだ。

「え、服これだけしかないの?最悪カットソーとかデニムも…、え、アウターすくな!」

気づいたら隣に薫くんが立っていて俺のクローゼットを覗いていた。

「もう、いいよ…」

そんな薫くんを遮るようにクローゼットを閉じて薫くんの見えないところで着替えた。

「じゃ、行こっか。」

外に出る時はサングラスをするのか薫くんは帽子、いや、おしゃれなハットとサングラスをかけた。服も鎖骨が見えるほどのシャツに薄目のコート、黒いスキニーでサングラスをしていても放たれているイケメンオーラがやばい。

まず綺麗な色をしている髪が首にそってはねているのがもはや俺と次元が違う。

染めたこともない少し長い髪、丸々ぽっちゃりした肉がついた体。ダサい服。

完全に次元が違う2人が揃いも揃って歩くなんておかしすぎる。

「少し距離あるけど、美味しいところ食べに行く?いいところあるんだよね♪」

「…どこでもいいよ。」

もうどこでもいいから早く人目のつかないところに行きたい。

さっきから道を歩いている人の視線が1度は必ず薫くんを見ているんだ。それから俺をみて、もう一度薫くんを見る。

俺が不釣り合いなのは充分わかってる。公開処刑も覚悟してた。それでもやっぱり心地のいいものじゃなかった。

着いたお店は入口から緑の植物が溢れて、庭園って感じでオシャレすぎた。

個室に連れていかれてやっと薫くんはサングラスを外した。

「ここね、個室だし美味しいし♪俺のおすすめ」

なぜか嬉しそうに話す薫くんにふぅんと頷いた。

俺みたいなダサ男が来ていいところじゃないのはわかった。さっき店員の視線が痛かったからな。こんな格好でくる場所じゃない…。


「なまえ、何にする?」

渡されたメニューを見て手が止まった。

うわ、高い…。

何かそこら辺の飲食店とは少し高い値段にびっくりしつつ、1番安いものにしようと目を動かす。

「俺は…このスープとたまごサンドに…」

「えっ!?少ないじゃん!何で?ダイエット?」

「や、そういうわけじゃないけど」

「もっと食べなよ。俺のおすすめはこのコース。美味しいよ?ね?これにしよ?」

薫くんの指す料理はたしかに美味しそうで量もあるし俺のお腹は満足になれそうだった。

でもお高いしなぁ…お金に困ってるわけじゃないけど初めて料理にこんな値段を出すからドキドキする。

「じゃ、じゃあこれにしようかな…」

「そうしよ♪俺はこれで」

店員に注文してからすぐに料理は運ばれてきた。

高いだけあって創作料理って感じで一つ一つが丁寧だった。口に入れると美味しくてびっくりした。

「美味しい…。」

「でしょ?なまえを連れてきたかったんだよね」

まあ、高いけど美味しいし許せる。ぱくぱくと食べていると薫くんが話しかけてきた。

「ねぇ、彼女できた?」

食べ物が喉に詰まりそうになった。何でそんなわかりきったことをいきなり…。

「できるわけないよ…」

「そ?わかった。」

わかった、って何だ。わかったって。

「最近さぁ、声かけても付き合い悪いから彼女でも出来たのかなぁって思った」

「違うよ」

「俺を避けるための口実?」

「い、いや…」

「昔はあんなに隣にいたのにさぁ…。薫くん、薫くんって煩いくらい一緒にいたのに…」

そんなの昔のことじゃないか。

「ははっ、あの時のなまえ、マシュマロみたいで女の子みたいだったよね」

薫くんの目にどう写っていたのか知らないけど、俺はあの時も色白で丸々してて雪だるまと言われてからかわれてたよ。

「昔の話だよ…」

「薫くん、かっこいいからずっと隣にいたい…とか言ってたよね」

薫くんのその言葉に恥ずかしくなった。そう、昔は薫くんがかっこよくて、いつも隣に居座っていた。皆は鈍臭い俺に近寄らないし煙たがるけど薫くんだけは俺に優しくて、薫くん、薫くんと後ろをついていっては笑いかけてもらって喜んでた。たしかにその時は薫くんの隣にいたくて、今の俺からしたら忘れたいほど、このぽっちゃりした体でとことこ歩いて薫くんに付きまとっていた。

昔のことだけど。

「…そんなこと言ってたっけ」

「言ってた言ってた!まさか…忘れたの?!」

「…覚えてない」

「はぁ、ずっとあの言葉本気にしてたのに。」

拗ねたように薫くんは下を向いた。

「それなのに、なまえは俺が声かけても隣に来なくなってくるし…。こうやって俺が動かないとなまえ全然会わないし。」

「…薫くん忙しいじゃん。」

「なまえに会う時間くらいつくれるよ!」

「…薫くんはあんまり俺と会わない方がいいよ。世間体もあるし。」

「世間体って何?気にしないよ。何を気にするの?」

「何か…色々と…。こんなやつと会ってたらネタにされるよ…」

「俺はそんなの気にしないし、なまえと会いたいんだからそれでいいじゃん。なまえは俺と会うのが嫌なんだ?」

「嫌ではないけど…」

「そ、よかった。じゃあ問題ないね♪」

美味しいでしょ、これ。なんて場の空気を戻す薫くんに俺はそれ以上言えなかった。

「あー俺、もうなまえの近くに住んじゃおうかな」

「え、」

「そしたら平日とかも会いやすいじゃん?」

「いや、わざわざそこまで…」

「そういう変なところ気にして自分にコンプレックス感じてるなまえ、女の子みたいで何か守ってあげたくなる。」

薫くんの言うことがイマイチ理解できない。

「…俺、女の子じゃないよ」

「女の子じゃなくてもなまえだからそう思うだけ。」

「…そう…」

薫くんのその気持ちは弱者の俺を救ってあげたいという気持ちなんだろう。

「本気にしてないでしょ?あれだけ他で遊んだのに忘れられないからこうして…」

あーぁ、本気って難しいね、なんてぼそりと呟いた薫くんはなまえの話聞かせてよ、と話を変えてきた。

「…特に話すことは…」

「えー?そんなことないでしょ?この会えなかった期間、色々あったこととか日常のこととか教えてよ。」

にこにこと話すコミュ力の高い薫くんに、俺は必死で最近のこととかを思い出そうとした。

「…この前、女子社員に話しかけられて」

「はっ?」

「え?」

「いや、何でもない。それでそれで?」

「飲みか何かに誘われそうな感じだったけど他の女子社員が、俺だけはないから誘うなって話をしてて…何か、まあいつもそんな感じかな。」

「……」

「薫くん?」

「なにその自虐ネタ〜、なまえはほんとーに…あー、もう色々とぶっ飛ばして抱きしめたいなぁ…」

「ど、どしたの」

「んーん、こっちの話。で、なまえはますます家に引きこもったってわけ?」

「いや…家の中にいるのが好きなだけ…」

「はいはい、俺もそっちの方が安心。でもそろそろ色々出かけたりしたいよね。俺も次に進めたいし。うんうん。」

ん?薫くんは何の話をしているんだろうか。よく分からないけどとりあえず相槌をうつ。

「まぁ、今度からは大丈夫。俺がいるし」

「ん…?」

「じゃあ俺の話ね、この間サマーライブで海に行った時さぁ――」

それからは話の上手な薫くんのおかげで話すネタがない俺でも会話が途切れることなく時間が過ぎた。

「美味しかった。」

「でしょ?また来よーね。」

「……う、ん…」

「あれれ、何その間」

くすくす笑う薫くんの後ろについて歩く。

お会計、何円になるんだろうと財布を取り出そうとしたら薫くんの手が視界に入ってきた。

「もう済んでるからいいよ。」

「え?あ、じゃあ店の外で。何円だったのかな…?」

「俺がエスコートしてるんだからなまえは何もしなくていいのいいの。」

「エ、エスコートって…そんなわけには」

「じゃあまた次断らないで、会ってよ♪」

う…と固まる。

「それでおあいこね。」

結局有無を言わさない薫くんに奢ってもらってしまい、その後も色々と公開処刑を受けながら服屋を巡ったりと俺にとってはスーパーハードな1日だった。

これでしばらくは薫くんと会うこともないだろう。

今日のことは忘れて、また明日から日常生活に戻るだけだ。

寝る前にふと薫くんのツイートを見てみた。

今日のこと、書かれてたら…とか、今日は全然面白くなかった日だったー、とか書かれてたら…なんて不安になりながら薫くんのアカウントに飛んでページを開く。

最新の投稿が一番上にあった。

そこには《デート。》という4文字の言葉と俺の後ろ姿が写った写真が乗っていた。

「…っ?!?!?!」

お風呂から上がったばかりなのに、ぶわりと汗が吹き出る。

「こ、これ…」

いつの間に撮っていたのか、たしかに俺の後ろ姿だった。薫くんの目線から撮られた俺は随分下にいて、丸みを帯びた肩に肉々しい背中。

後ろから見てもダサそうな格好。

「う、わぁ…」

後ろ姿だから誰も俺だとは分からないと思うけどそんな問題じゃない。

とんでもない数のコメントがその投稿に来ている。

薫くんは《誰?!彼氏?!》《どこ?!》《私の薫くんが…》とか色々んなコメントに対して《内緒だよ♪》なんて謎めかしている。

頭が痛くなった。

でも俺が薫くんのツイートを見てるなんて言ってないし言えるわけないからこれについて追求することはできない。

「うーー…はぁ…」

それに薫くんは割と強引なところがあるからどうせ言っても変わらないだろう。

誰このデブ、とか、ダサwなんてコメントもあるかもしれない、あぁもう薫くんの馬鹿野郎。

ますます俺の人生、ハードモードだ。

寝て全部頭の中から消しさろうとすぐにパソコンを切って眠りについた。

しばらく汗が張り付いて寝れなかったけど、無理やり目を閉じた。



数日後、通勤しようとする俺の前に薫くんが現れた。いつも通りサングラスをかけている。

「え…か、薫くん?」

「おはよ、途中まで一緒に行こうよー」

「え、は?え?」

「あ、俺近くに引っ越したんだよね。もう我慢できなくてさ♪」

「え、」

ほら、行こ♪と俺の丸々とした手を引く薫くんはやっぱり少し強引で、俺はこれから毎日薫くんが会いに来るのをこの時はまだ知らなかった。



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