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『いいよな〜、大神は。』
「あ?何言ってんだよ、いきなり。」
『だって、大神は朔間先輩から可愛がられてんじゃん。あ、可愛がられてるのが羨ましいってわけじゃなくて、なんつーか…まあ酷い扱いはされてないよな…』
「…みょうじは別だと思うけどな」
『え?別?別って?』
「…知らねぇ。」
『はあ〜?おい、大神待てって〜。俺を置いてくなよー』
移動教室のためにさっさっと行ってしまう大神の後ろを追いかけていると、ポケットの中で携帯が振動した。
携帯を取り出して何の通知が来たのか確かめると、画面には「炭酸」と二文字の漢字のみ写っていた。
「炭酸…。はいはい、今日は炭酸系ですかねえ」
送り主は誰なのかもちろん分かっている。慣れというものは恐ろしい。パシリ同然なのにすんなり受け入れてしまうからだ。
昼ごはんは炭酸を買うことを忘れずに頭に入れて、教室に向かった。
***
『炭酸系、昼飯、おっけー…。これでいいよな。』
自分が買ったものを間違ってないか確認して購買を出ようとしているとトントンと肩に刺激があった。
振り返ると同時に視界いっぱいに紙吹雪やらその他諸々で何が起きたのか一瞬わからなかった。
『う…これは…、日々樹先輩…』
「フッフッフッ、みょうじくん!いい所に来ました!これは偶然、いや必然!!」
『いや…この紙吹雪どうするんですか…』
「おや?おやおや?そんな心配をするようではまだまだですね!そんなみょうじくんにはこれを差し上げましょう!」
通常運転な日々樹先輩から手渡されたのは袋に詰められた色とりどりのクッキーだった。
『クッキー?にしては、カラフルですね…』
「フッフッフッ、これは食べてからのお楽しみです!ぜひともみょうじくんに食べて頂きたい!」
『え〜…』
これまたかなり怪しい。形も完璧でお店で売られているようなクッキーだけど色とりどりなのがとても怪しい。
できれば断りたかったが先輩からということもあるし、早く行かないとまた朔間先輩に怒られてしまう。
『…じゃあ有難く?頂きます』
「また食べた感想を聞かせてくださいね!あ、そうそう、零によろしくお伝えください♪」
『はーい。』
日々樹先輩と別れて部室に向かうと朔間先輩は窓際で外を眺めていた。
『朔間先輩、買ってきましたよ』
ガサッと机の上に買ったものを置いていると朔間先輩も窓際から動いて机の近くへ来た。
「我輩、今日はシュワシュワしたものが飲みたい気分だったんじゃ」
『まあ今日は暑いですからね』
「ん?何じゃこれは?」
朔間先輩が手に取ったのは、さっき日々樹先輩から貰ったクッキーだ。
『さっき日々樹先輩からもらったんですよ。何でかわかりませんけど…』
「ふうん、午前中の授業で調理実習があったからかのう…」
『そうだったんですか?へー、俺じゃなくて別の人にあげればよかったのに…例えば…転校生とか。』
「それこそ嬢ちゃんは山ほど貰っとるじゃろう」
『ああ、確かに。何だかんだ言って皆、転校生のこと好きだからなあ』
別のクラスだが、いつも見かけるたび周りに人がいる転校生を思い出して笑みがこぼれる。
日々樹先輩のクッキーを持っている朔間先輩からクッキーを受け取ろうと手を伸ばした。
手を伸ばしている意味は伝わっているはずなのに、朔間先輩は無反応だ。
『ん?朔間先輩?』
「…これは我輩が貰おう。」
『え?そんなに食べたいんですか?もちろん、いいですけど…』
「代わりにこれをやろう。」
伸ばした手の上に乗せられたのは、日々樹先輩のクッキーとは違う、綺麗に焼けたクッキーだった。
『…え、これ。まさか朔間先輩が作ったんですか?!』
そういえば日々樹先輩が調理実習があった、ということは同じクラスである朔間先輩も同じなわけで…。
ただ朔間先輩が調理実習に参加するなんて想像もできなくて驚いた俺は口を開けて朔間先輩を見た。
『朔間先輩…寝てるだけじゃなかったんですね…』
いつも寝てばかりの学校生活かと思っていたけどどうやら参加するときはちゃんとするようで、後輩だけれども少し安心した。
「なまえくん、言いたいことはそれだけかのう?」
『あ、やべ。すみません、何でもないです。はい。』
危ない、冷や汗をかくところだった。
朔間先輩は俺の手にある袋を取り、袋をピリピリと開けて1枚のクッキーを取り出した。
「我輩のお手製クッキー、たんとお食べ。」
軽く微笑んでグイグイと俺の口に押し付けてきた。
『う…、ちょ、食べます食べます。自分で食べますから!』
またこの人はこんな無理矢理な。顔を仰け反らせて朔間先輩からクッキーを受け取ろうと手を伸ばせど、片手で顔をむんずと掴まれてしまった。
ああ、これは自分で食べさせたいってことなのか…。
「はい、あーんじゃよ♪」
朔間先輩に顔を固定され、グイグイとクッキーが迫ってきた。
俺より背が高くて、容姿完璧な男にあーんされるこの状況って…と思いながら少し口を開けばクッキーを押し込まれ咀嚼するしかなかった。
「お味はどうじゃ?」
『ん…まあ、普通に美味しいです。』
「日々樹くんより我輩の方が美味しいぞい♪」
『日々樹先輩の食べてないなら分かんないですけど…』
「なまえは我輩のだけ食べれば良い。これはなまえのために作ったんじゃから。」
『え…』
予想もしなかった言葉に少しドキッとした。
「自分の所有物(もの)に餌を上げるのは当たり前じゃろう?」
最初の1枚を飲み込んだ俺にまたもう1枚口へ近づけながら、俺の顔をのぞき込む朔間先輩に ものって何だ、ものって。とか、俺はペットか?! とかそんな思いは薄れてしまった。
あの朔間先輩が俺のために、とか、大神が言っていた 俺は別、という意味が 自分は朔間先輩にとって特別な存在なのか、特別に扱ってくれる程の存在なのかと自惚れてしまいそうになる。
そんなこと言われたら勘違いしてしまいそうだ。
俺のため…。朔間先輩は俺のことどう思ってるんだろう。
この人の気持ちが知りたい…。
そう思うのは変なことだろうか。
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