13
気持ちのいい夢を見ていたはずなのに、息苦しさに無理やり意識が現実に戻ってきた。
(…今日は何曜日だっけ、ああそうだ、今日は休みだから学校は行かなくてよかった。)
起きる時間を気にする必要がないことに安堵しながら、この息苦しさの原因は何なのか、探るために目を開けた。
見飽きるほど見てきた自分の部屋の天井と、視界にうつるかたまり。
視線を右側にいるかたまりにうつして、よくよく見ると、どうやら人だった。
道理で重いわけだ。
なぜ人が俺の部屋、しかも、俺のベッドに入り、俺の上に覆いかぶさっているのか…。押しつぶされそうな俺は今すぐにでもこの下から抜け出したい。
仰向け状態の俺は右側にいる人に抱き枕にされるような形でご丁寧に腕もかけられている。身長が高いのか頭は俺の頭より上にあって、顔を動かさないと見れない。
一刻も早くこの状況をどうにかせねば、とそっと顔を右へ動かして、正体不明の人物の顔を見た。
(……、朔間先輩じゃねえか!!!!!)
人が勝手にベッドにいるという状況にただでさえ、心拍が上がっていたのに相手があの朔間先輩であると分かると心拍はさらに跳ね上がった。
叫びそうになる衝動を必死にこらえて、深呼吸する。漫画のような展開ならここで叫んで相手が起きて何でいるんですか!とかそんな展開になるだろうが、俺は違う。
そんな無謀なことはせず、静かに、ゆっくりと、ベッドから降り、朔間先輩に気づかれずここから去って、顔を合わさずに出るというミッションを完遂させる。
まだ朔間先輩と話したい気分ではないのだ。
絶対にこれは完遂させなければ。
まずは俺に覆いかぶさってるこの重たい体をどけなければ話にならない。
(寝返りをうつふりをして、この下から這い出るしないな…)
これで起こしてしまわないか不安ではあるけれど、こちらも寝たふりをしておけば問題ないだろう。
(よし、やるぞ。)
目を閉じて、寝たふりをしつつ、寝返りをしようと体を起こす。
(…あれ。…おかしいな、寝起きで力が入ってないのか。もう1回…、あれ…)
体を動かそうとするも、びくともしない。
まるでベッドに押さえつけられてるみたいだ。
こころなしか、俺の体にかけられている朔間先輩の右腕の押さえつけが強くなった気がした。
(そんな馬鹿な…。これじゃ普段の寝返りじゃ通用しない…)
こうなれば、全身の力を使ってどうにかしてここから出るしかない。
あくまで寝たふりをしながら寝返りをうつ作戦であるため、目を瞑り寝言のような声を出しながら全力で寝返りをうった。
『ん〜…』
どうだ、あくまで寝ているように見せかけて、俺に乗っかっている腕をはがし朔間先輩の体を強く押して朔間先輩の下から脱出する。
力を入れたおかげで、やっと朔間先輩から逃れられて、無事朔間先輩とは反対方向に寝返りをうつことができた。
(あとはベッドから出て、着替えて部屋を出るだけだな。あ〜…よかった…、っ!えっ!?)
心の底からほっとして、ベッドから出ようとそっと布団に手をかけた瞬間、後ろから異様な力で引っ張られなぜか体は反転して朔間先輩の方へ向いていた。
(ちょ、寝返りした意味がない!)
細心の注意を払って寝返りしたのに、一気にこの男の怪力で振り出しに戻ってしまった。
多少のことでは起きないだろうと踏んだ俺は、またもや朔間先輩の体を押して逃れようとする。
(どんだけ怪力なんだよこの人は!)
ぐいぐいと押していると、朔間先輩の右腕が首にかかり、逆にぐいぐいと引っ張られる。
(ちょちょちょちょ、待て待て!!これは絞め技!!俺しめられちゃうから!この人本気か?!)
苦しさに朔間先輩の腕を叩けど、全く反応がない。
(俺が反対に向こうとすると苦しくなるわけだから、逆に俺が朔間先輩の方へ近づけばいいのか…?)
この際、朔間先輩が起きる起きないはどうでもよくなってとりあえず自分の身を助けることにした。
朔間先輩の方へ向いて、もぞもぞと少し近づく。
「ぴとっ」という表現が正しいかもしれない。朔間先輩に近づけば、腕は緩んで俺の背中に回された。
『なんだ、この状況…』
どう考えてもこの状況はおかしい。そもそも朔間先輩が来ても寝てるから部屋に上げるなって言っておいたはずなのに…。
あまりにも着信を無視するからキレて乗り込んできたとか…?
起きた朔間先輩に何て言えばいいか考えることを優先したほうが良さそうだ。
(でも、この体勢じゃ考えるのもままならない…)
ため息をついていると、背中に回されていた手が俺の頭を包み込んで、ぐいっと引き寄せられた。
さらに朔間先輩に近づいて、体温が急上昇する。
『ちょ、近い…!』
この状況から脱したくて我慢できずに声を大きくした。
「……電話。」
ぼそりと上から降ってきたのは朔間先輩の唇から漏れた小さな声だった。
『…え?…起きてるんですか?!とりあえずベッドから出ましょうよ…!』
とにかくこの距離感は一線を超えていると判断した俺は出ようと試みるも、朔間先輩はピクリとも動かない。
「何回も電話してただろーが…」
少し苛立ったような声にビクリと肩が揺れた。これは、多分怒ってる。抵抗するのをやめて大人しく聞くことにした。
『…すみませんでした。頭痛くて…。』
頭が痛いと言えば、朔間先輩は俺の頭を撫で始めた。
「…ったく、心配させんな。」
『え…いや、俺の運が悪かっただけというか…。』
心配してくれていたのか…。素直に少し嬉しいと思ってしまった。
「頭、痛くねえか?」
『あー…はい。もう大丈夫です。』
「……悪かったな」
何に対して謝っているのか分らないが、朔間先輩が悪いところなんて1つもない。
ただ運が悪くて、頭を打ったという話なだけだ。
申し訳なさそうに謝る朔間先輩なんて本当に珍しい。むしろ、朔間先輩はいつも謝るどころか俺に全て擦り付けてくる。
そんな朔間先輩がぽつりと弱々しく言うものだから、反対せずにはいられなかった。
『朔間先輩は別に何も悪くないじゃないですか…。転校生は朔間先輩に助けてもらったから何もなかったし、俺も凛月に助けてもらったから頭打っただけで済んだし…』
そうだ、朔間先輩は逆に良いことをしたんだと伝えたくて話せば凛月の名前が出た瞬間、腕の力が強くなってぎゅっと抱きしめられた。
『…朔間先輩?』
呼びかけても朔間先輩は無言のままだった。
腕の力はゆるまることがなく、顔を上げることもできないまま朔間先輩の腕の中でこの沈黙が何を意味するのか考えるしかなかった。
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