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俺の視界にうつるのは、空き教室の机に腰掛けた朔間先輩と傍に立っている転校生だった。

なんで2人がこんなところで?なにしてるんだ?という疑問が頭を駆け巡るが、転校生の髪に触れている朔間先輩の手を見る限り俺はもしかしなくてもここにいちゃいけないんじゃないかと考えた。

『あ〜…なんか…お邪魔しました。』

もう今日はさっきからげんなりすることばかりだ。
自分のツイてなさすぎる状態に呆れながらドアを閉めようとしていると、みょうじくん、と転校生に名前を呼ばれた。

こちらへ駆けてきた転校生は俺に ちょうどいいところに来てよかった、と言う。
ちょうどいいところってなんだ、ちょうどいいところって。明らかに俺の登場タイミング悪かったよな、と心の中で問いかけてしまう。

転校生は俺が聞いてもいないのに、朔間先輩と2人でいるのは静かなところで打ち合わせがしたかったからだと話してきた。

へえ、そうなんだ。でも俺には関係ないからとりあえずUターンします。とにかく今は朔間先輩の顔を見たくありません。という気分なので適当に相槌を打っていた。

転校生の話によると、今から他の場所へ打ち合わせに行かないといけないから俺に連絡係になって欲しいという。そして、その連絡内容については朔間先輩から聞いてほしい、と。

朔間先輩の名前が出たため、ちらりと机に腰掛けている朔間先輩を見ると、視線がばっちりと合った。

出来るなら断りたい気分だ。適当な理由でもつけて断ってしまおうかと迷っていると、うんともすんとも言わない俺に半ば無理やり押し付けた形で転校生は朔間先輩に声をかけたあと、教室を出ていってしまった。


『…はぁ』

今だけは本当に朔間先輩とは接したくないのになあ、と心の底で呟きながらも、足は朔間先輩の方へ向かった。

第一声はなんて言えばいい?しばらく話してなかったせいで何を話せばいいかも分からなくなっている。

『…仲がよろしいところ、お邪魔してすみませんでしたね』

とっさに出てきた言葉は自分の意に反して少し棘のあるような言葉になってしまった。

自分がどんな顔をしているかわからないが、朔間先輩はこちらを見て首をかしげた。

「…はて?何をそんなに怒っておるのじゃ?」

『別に…怒ってなんかいませんよ。』

起こってないさ、これっぽっちも。別に朔間先輩に急に連絡されなくなったこととか、朔間先輩のせいで周りにパシリ扱いされてることとか、そのくせその原因の朔間先輩はこうして悠々と転校生の髪を触ったりして、素知らぬ顔でいることとかに怒ってるなんて、そんな。

ただなぜかイライラするだけだ。それだけ。

「怒ってないと言っておるが、その顔では全く説得力がないぞい?」

『…朔間先輩には関係ありません。早く連絡内容教えてください。』

もうここまで来ると、俺も何に対してそんなにイライラしているのか分からなくなってきた。

俺はただ朔間先輩と話すことがあったらいつも通りにしようと思ってただけなのに。転校生といる朔間先輩を見たらそんな気持ちも吹っ飛んで、代わりに腹の奥に煮えたぎるものがあった。

「ふう、そう急かすでない。ええー、と。ん〜、どこにあったかのう」

ペラペラと紙をめくる朔間先輩にさえ、遅いといらいらしてしまう始末だ。早くここから出たい。一刻も早く。

「それにしても反抗期かえ?機嫌が悪いせいで転校生も話しにくそうだったぞい。」

誰のせいだと思ってるんだとムカッときてしまい、口に出た言葉は止まらなかった。

『何なんですか…、オモチャみたいに俺で遊んで、そうかと思えばいきなり避けだして…』

「避ける?…我輩はいつも通りじゃがのう。」

どこがいつも通りなんだ。それがいつも通りなら今まではなんだったんだ。自由奔放、俺様何様零様を地で行く朔間先輩のせいでこっちはパシリ認定されてるんだぞ。

「ほほう、わかったぞい♪最近かまってやれなくて寂しいんじゃな?今は転校生の嬢ちゃんと過ごしておるからのう」

むかっときた。

『はいい?全然寂しくないですし…。ずっと転校生とよろしくしてればいいんじゃないですか…!』

声を荒げはせずとも感情に身を任せて強く言うと、朔間先輩は紙を捲っていた手をピタリと止めた。

ゆっくりと、紙から視線を外し、俺を見上げる。

真っ赤な瞳が俺を捉えて、強くその瞳に映し出される。少しビクリと体が揺れた。

しまった、言いすぎたか、と思ったがもう遅い。ここまで言ってしまったものは取り返しがつかない。俺の頭には一瞬謝るという選択肢が過ぎったが、謝りたくなくて口を閉じる。

カタン、と机から離れ俺の目の前へ来て、ずいっと見下ろされた。

「…人の気も知りもせず、よく言えたものじゃ。」

少し怒ったような表情と低い声に、また肩が揺れた。

『知るわけないじゃないですか…。』

知ってたらこんなに頭を悩ますことなんてない。

『避けるほど俺が嫌いなら、そうだと言ってください…。』

俺で遊んで、飽きたのならそう言ってくれれば俺はこんなにもやもやすることもないのに。

そう考えて、イライラしていた感情がだんだん急降下しはじめて、思わず俯く。

「は?」

ますます気に障ったのかイライラした口調で聞き返してきた朔間先輩は、舌打ちをした後、急にため息をついてぼそり、と口にした。

「はあ…。なまえ如きに我輩が気を遣うのがそもそも違ったわい。」

朔間先輩が呟いた言葉の意味が分からず、頭の中にはてなマークが残る。

しばらく腕を組んで ふむ… と、考え事をしていた朔間先輩はパッと顔をあげた。

「やめじゃ、やめ。少々ネガティブになりすぎたわい。せっかく手放しておったのに、自ら戻ってくるとはのう…。やはり我輩が必要だったのじゃな♪」

『はい…?』

先ほどの剣幕はどこに行ったのか、朔間先輩は笑みさえ見せている。

「つーわけで、これ持って戻れ。」

俺に用紙を持たせて回れ右させたあと、俺のお尻を足で押してきた。

『ちょ、いた、』

「ったく、意味分かんね〜考えすんな。おかげでイライラさせられただろ」

『は、はあ…?俺は真面目に考えて…!』

腕を引っ張られたかと思い振り返ると、朔間先輩の綺麗に整った顔が至近距離にあった。

唇と唇が触れたかと思えば噛み付くようなキスが降ってきた。

久しぶりに感じる感触に慣れなくて硬直する。すぐに終わるかと思っていたそれは、随分と長く息も絶え絶えになってきた頃に解放された。

『っ、はぁ、』

肩で息をする俺に対し、朔間先輩は濡れた唇をぺろりと舐めニヤリと笑った。

「溜まってた分な。嫌いだったら、こうやって触ってね〜よ、転校生のは髪にごみがついてただけだっつの」

わかったら、さっさといけと蹴られるように教室の外に押し出された。

廊下で一人、俺様な先輩を思い出しながら、いつもの朔間先輩であったことに少しほっと安堵していた。

ただ最後の言葉の意味が分からなくて、唇を触りながらまた頭を悩ませるしかなかった。


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