18
朔間先輩の向かう方向へついていくとだんだんと賑やかな繁華街に近づいてきた。
『どこに行くか教えてくれてもいいじゃないですか』
行先も教えてもらっていない俺は、歩く朔間先輩の斜め後ろでどこへ連れていかれるのか思案している。
そんな俺のことなど気にせず朔間先輩は鼻歌を歌いながら歩き進んでいく。
やけに上機嫌だ。そもそもこの時間帯に出かけるのも珍しい。
何か企んでいるのではと身構えてしまうのは、日々朔間先輩に遊ばれているため仕方ないと思う。
ふと立ち止まった朔間先輩に、俺も足を止め目の前の建物を見上げる。
『…映画館?』
「到着じゃ♪」
『映画、見るんですか?』
俺の問いかけに朔間先輩は映画の前売り券を取り出した。
「知り合いのマスターからもらってのう。」
『へえ〜…で、何の映画なんですか?』
アクション映画だといいなあと朔間先輩の手元を覗き込んでみると、少女マンガが原作のラブコメ映画だった。
『えええ、まさかのラブコメ…これ、俺と見るような内容じゃないですよ…?!』
こういう映画は誰か他の、女の子とかと見るような内容じゃないか?男子高校生が二人揃って見るような内容なのかと考える。
「最初は転校生の嬢ちゃんにあげようかと思ったんじゃが…暇そうにしてるなまえに優しい我輩が気を利かせてやったのじゃよ」
『いやいやいや、俺全然暇じゃないっす。今日友達との約束あるっていっt「ちゃんと我輩に感謝するんじゃよ」 ええー…?』
俺の話など全く聞いてない朔間先輩にずるずると引きずられ映画館の中へ入った。
久しぶりの映画じゃのう…♪なんて言う朔間先輩は結構楽しそうで本当は映画を見たかったんじゃないかとおもう。
そんなところは高校生そのものだなと微笑ましく思うし、俺も実際久しぶりの映画館だ。
しかも朔間先輩と来るのは初めてだ。観る映画がラブコメ映画じゃなければまだマシだったのかもしれないが…。
『朔間先輩、楽しそうですね。この映画見たかったんですか?まあ…朔間先輩が一緒に見てほしいっていうなら、朔間先輩のお願い聞いてあげないことも…』
最後まで言い切る前に俺の顔横をブォン!と風を切って朔間先輩の腕が通り過ぎた。
『…っぶねー…!!』
「おお、すまんのう。手がすべった♪」
手をプラプラしながら、にこりと笑う朔間先輩は絶対に確信犯だ。この人、今本気で俺のこと殴ろうとしてなかったか?
恐怖で心臓をバクバクさせた俺は調子に乗るのはやめとこうと心に決めた。
そろそろ映画が始まる時間が近づいてきたため、買ったポップコーンを片手にシアタールームに向かう。
指定した席に隣同士に座ると、完全に照明が落とされ映画が始まった。
映画の内容は想像以上に甘酸っぱくてうるっときてしまいそうな場面もあった。
涙がこぼれないように視線を上に向けて天井をガン見する。
あ〜、こんな映画で泣くなんて朔間先輩に見られたら終わりだ。早く目よ、乾けと言わんばかりに瞬きをして目をパシパシさせた。
手が横からにゅっと伸びてきて、俺の膝の上に置いているポップコーンを掴んでいく。
ああ、俺のポップコーン。人のものを勝手に取るなんて、恨めしくて睨みたいのは山々だが、そんなことすると俺が痛い目に会うので、ちょっとビビりながら俺のポップコーンを啄む隣人を見る。
「くくく、なまえ泣いておるのか?」
しまった、まだ目が潤んでいる最中だったか。
いつだったか、朔間先輩が自慢げに「吾輩は夜目が聞くからのう♪灯りがなくても昼間と同じくらい見えるわい」とどうでもいいようなことを言っていたのを思い出した。
その時は、どうでもいいですね、なんて言いかけて生き埋めにされそうになったので二度と言わないが。
『泣いてません。眠いだけです。』
反対するためにそれなりの理由を伝えれば、朔間先輩はため息をついてまたポップコーンを食べた。
「そうは言っても…、さっきから鼻水すする音がうるさいんじゃけど。」
ぎくり。これでも控えめにすすってたつもりなんですけどー…。そりゃ、あんな切ない状態の主人公見て平気なわけあるか、って開き直りかけたところで、朔間先輩の手が頬に当てられ親指で目尻を擦られた。
『ちょ…』
グイッと目元に溜まった涙を拭き取り、朔間先輩は俺から視線を外さずそれをぺろりと舐めた。
俺を見ながら、舌を出して舐める朔間先輩はそれはそれはファンの子がいたらぶっ倒れるんじゃないかってぐらい色気が半端なかった。
まあ、俺は軽く引いて、ほっぺた引き攣ったけど。
「うーん、ポップコーンにちょうどいい味付けかのう…」
『ダメだこの人、解せぬ…。』
ボソリと呟いた俺の頬が熱を持ちはじめたため、早くその手を離してほしいなあと思いながら全く頭に入ってこなくなった映画に視線を戻した。
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