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『朔間先輩…、朔間先輩…!!』

何度名前を呼んでも起きないこの物体。
朔間先輩の部屋の中で俺は途方に暮れていた。

昨日の深夜に「明日朝起こして。あと出かけるから予定空けておくように♪」とメールが入っていたため、来てみればこの有様だった。

起こすのはいいが、起きないのがこの人の厄介なところだ。昔から寝起きの機嫌がすこぶる悪くてあまり起こしたくないのが本音だ。

朔間先輩を起こして良いことなんてあった記憶がない。以前も起こせと頼まれていて、起きるまでしつこく起こした日には機嫌が悪い朔間先輩に思いっきり蹴られて青あざ作ったこともあるし、かといって起こさずに放っておくとそれはそれでキレられたこともあった。その後1週間は執拗ないじり(俺にとってはいじめ)があったことも忘れていない。

そんなことがあったために、この人を起こす作業は慎重にいかないといけないのだ。

『起きてくださいよー…、朝ですよー…』

うん、全く起きる気配がない。
肩に手をやり、軽くゆすってみる。

『朔間先輩ー?もう20分はたってるんですけど…いい加減起きてください…』

もう起きなければ帰ろうかな、と朔間先輩のベットのそばで突っ立っていると下からぐんっと引っ張られて朔間先輩に覆いかぶさる形になった。

『うおっ、起きました?!』

朔間先輩に手を引っ張られ、倒れ込んだ俺は重いだろうと思って朔間先輩の頭の横に手をつきなんとかこらえた。

寝ぼけているのか起きているのか分からないが、そのまま俺はぐりんと横に持っていかれ、朔間先輩に向き合う形で横たわった。

『ちょっ、もー、起きました?かなり時間かかったし…「…うるせぇ、黙れ。」

向き合った朔間先輩は眠そうな眼で眉間にシワを寄せながら、かなり不機嫌そうな声だ。

あからさまに不機嫌そうな顔をする朔間先輩は普段はなかなか見ることはない。うわー、やべー、これ大人しくしてないとやばいパターンじゃね。と危険察知した俺はすぐに口を噤む。

俺が喋らないことをよしとしたのか、また目を閉じて動かなくなった。

(寝たのか…?)

はぁ、とため息をついて朔間先輩の横で起き上がる。寝たいなら存分に寝てください、と俺は起こすことを諦めた。

家に帰って課題でもやるか。
せっかくの休日の朝という貴重な時間を取られてしまった。起こされずに満足そうに二度寝する朔間先輩を横目に静かに扉を閉めた。

***

カリカリとシャーペンを動かすたびに出る音を耳にしながら、問題集を広げた机に向かう。

集中して課題である問題集を解いていると部屋の扉が開いて髪を後ろで1つにまとめた朔間先輩が入ってきた。

何も言わずに入ってくることはいつものことなので一瞥して、また問題集に視線を落とした。

入ってくるなり、俺のベットにポスンと座ったらしい。

起こさなかったから怒ってるんだろうかと少しドキドキした。手を動かしながら部屋に入ってきた先ほどの朔間先輩を思い出す。

寝起きなのだろう、気崩したラフな格好に普通の男子よりは長く伸ばした髪を1つに結んで気だるげにしていた。俺がやったら母さんから「何その格好、だらしないわね」なんて小言を言われるのが目に見えている。

それでも朔間先輩がやると様になっているから本当に神様が恨めしい。この格差は幼い頃から幾度となく見せつけられているため慣れているが、良いものではない。

で、朔間先輩は何しにきたんだろうか。まさかまた寝るのか…?まあ、関わらずに早く課題終わらせよう。

ひと言も声をかけずに黙々と机に向かっていると、肩をトンと叩かれた。

はいはいお呼びでしょうか、と振り向けば朔間先輩の人差し指が俺の頬に突き刺さった。

小学生か、あんたは…!

『……。』

ものすごくイラッとしたがここで怒りに身を任せては朔間先輩の思うツボなので、グッとこらえて、そっと顔を正面に戻した。

何がしたいんだ…とイライラしながらまたシャーペンを動かしはじめたが…

『っ、、うぁっ!!』

いきなり脇腹をぐわし!と掴まれ、上ずったような声が出てしまった。

全人類の急所、脇腹を狙うなんてせこいぞ。
しかも、掴んだまま離さないから脇腹を掴んでいる朔間先輩の手がいつ動くか分からない。

次なる余波が来ないうちに一刻も早く脇腹から手をどけてもらわねば。

『な、ん、な、ん、で、す、か!』

強めに言いながら脇腹にある手を両手で掴み俺の体から離そうとするが離れない。

くっ、力つよ…。

ぐぬぬ、と力を加えていると朔間先輩の手が脇腹を揉んできて、あらぬ声をあげてしまう。

『ふっ、や、やめ、あっ!くすぐ、たぃ!』

まじで脇腹は弱いから!やめてくれと涙目になるのも仕方ない。生理現象だ。

「起こせと言ったはずじゃが…。」

手をどけてくれると同時に不機嫌そうな声がふってきた。

『はぁ…起きないんだから仕方ないじゃないですか…』

乱れた息を整えながら、俺の言い分を伝える。

「予定が狂った。ほら、行くぞい。」

『はい?まだ課題やってるんですけど…』

「誰のせいで予定が狂ったと思っとるんじゃ。」

あなたのせいですよ、あなたの!!声を大にして言いたい。

やりかけの課題なんてそっちのけで、早くしろと急かされ渋々着替える。

こうして、休日でも関係なく俺の日常は朔間先輩によって振り回されるのである。

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