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※羽風視点

「あっれ〜?朔間さん、何か今日機嫌悪いね?」

ユニット活動日のため、転校生ちゃんに引っ張られてやってきたレッスン室。

部屋に着くと俺を引っ張っていた手が離れていって残念な気持ちで部屋に入ると俺以外のメンバーはすでに揃っていた。

その中でも朔間先輩は来ているものの、気分が優れないのか顔色…というかにじみ出ている雰囲気が悪い。

こんな朔間さんを見るのは稀で少し興味が出た。

「薫くん、相変わらず遅いぞい。」

「え〜?俺が遅いから機嫌悪いってわけじゃなさそうだね」

「…早く始めようかのう」

ううーん、あくまでしらを切るつもりか。
レッスン終わったら聞いてみよっと。


***


転校生ちゃんによるレッスンが終わったあと、部屋には俺と朔間さんだけになった。

多分朔間さんは帰るのも遅いだろうから、まだまだ時間はたっぷりあるはずだ。

「俺、女の子には興味あるけど、男子には全く興味ないんだよね〜。朔間さんはよく知ってると思うけど。」

「でも、朔間さんがそんなに機嫌悪くするほどのことが起きたっていうのはちょっと気になるんだよね。」

俺は椅子に腰掛けて、朔間さんを見るが、朔間さんは俺を見ずに手持ち無沙汰に楽器を触っている。

「多分なんだけど、いやもしかしなくてもみょうじくんのこと?」

俺の言葉に朔間さんの手は少しとまり、また動き出した。

あらら、これ結構重症じゃない?

「さっき廊下でみょうじくん見かけたんだよね〜。何か寂しそうだったよ?」

「朔間さんがいなかったからかな?」

まあ廊下で見かけたのは本当だけど寂しそうだった、っていうのは嘘。俺から見たらいつも通りのみょうじくんだった。友達と話して普通に過ごしていた。

朔間さんに食いついてもらうためには多少のスパイスも必要だ。

軽く笑って言ってみると、朔間さんは「あの子は我輩がいても、いなくても変わらんよ。」と言った。

少し伏せられた目に悲しみの色が見えるかと思いきや、そうではなかった。むしろ怒りや苛立ちのようなものが強い気がする。

「喧嘩?」

ううーん、でもみょうじくんを見るかぎり朔間さんに喧嘩を売るような性格ではなさそうだし、むしろそんなことは絶対避けたい派だろう。

俺も朔間さんと喧嘩なんて考えただけで面倒くさくて、したくない。

「我輩はもうこの歳じゃ。感情の波も大きくなく穏やかに流れているんじゃがのう…。最近たまに内に住む悪魔が暴れたがる時があってのう…」


「自分の思い通りにならないことも多々あり、それも面白いと感じるのが人生じゃ。そうやって物事は回っていくのも重々理解しているつもりなんじゃが… 1つだけ、たった1つだけ自分の思い通りにしたくて堪らず、譲れないものがあるとしたら、薫くんはどうする?」

うん、朔間さんの言うそれって絶対みょうじくんのことだよね?

「譲れないものねぇ。俺には今のところそういうのはないから考えたことないかな〜。で、朔間さんはあるんでしょ?その譲れないもの。」

「…くくく、我輩は執着などはせぬよ。輪廻に身を任せるのも抗うのも個人の自由じゃが。」

「じゃあ何でイライラしてるの?思い通りに行かないことがあるからでしょ?」

珍しい。朔間さんが反対するなんて。だけど俺の言ってることは正論なはず。
そしてそれを朔間さんもわかってるはず。頭で理解してるけど、認めたくない朔間さんがいるのかもしれない。

「…はぁ、薫くんってばひどいのう。爺をいじめて楽しいかや?」

肩をすくめ、ため息をついて朔間先輩は恨めしげに俺を見る。まるで自分の非を認めて降参しました、とでも言うように。

「はは、俺さ、朔間さんのこと全部知ってるわけじゃないけどさ。これでも応援してるんだよ。」

机に頬杖をついて朔間さんに伝えたいことを言う。

「完全無敵な朔間さんは自分の思い通りにしたいことがあれば、絶対に自分の手で手に入れる。そんな男じゃなかったっけ?」

「俺、そんな朔間さんかっこいいと思ってたんだけどなぁ。」

「…薫くんは我輩を買いかぶりすぎじゃよ。人の汚い部分も真っ黒な部分も見てきた我輩じゃ。」

「それ言うなら俺もだよ。真っ黒な部分なんて今更の話じゃん。でもその譲れないものはそんな黒いところも真っ白にしてくれるくらい綺麗で、あったかくて、離したくないものなんでしょ?」

「はぁ、薫くん。分かったから。もうやめて。」

朔間さんはこれ以上聞きたくないと言わんばかりに机に突っ伏した。

賢い朔間さんのことだから俺の言いたいことはわかってるし、充分理解してるんだろう。だからこそ考えたくないのかもしれない。

「朔間さん、俺は朔間さんに出来ないことはないって思ってるよ。だからついてきたんだよ。」

朔間さんにもこんなところがあるんだなあ、と苦笑いしながら、朔間さんをここまでにさせるみょうじくんを思い浮かべた。

特にこれといって秀でたところはないけれど、朔間さんを動かす何かがあるんだろう。

「じゃ、言いたいこと言ったし俺もう帰るね〜。」

ひらひらと手を振り、席を立つ。

相変わらず朔間さんは机に伏せたままだけど、気にせず荷物を取って扉へ進んだ。

「あー、薫くん。」

「ん?」

「ありがとう。」

「…!」

朔間さんに呼び止められ、かけられた言葉に驚いた。

目が合った朔間さんは、もう先ほどの表情ではない。どことなくすっきりしたような顔だった。

うん、朔間さんなら大丈夫だろう。

何か良いことをしたような気になって、俺は少し嬉しく思いながら帰った。

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