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「なまえ、」
『はい…?』
もぐもぐと昼食を食べている俺に1枚の紙をぴらりと見せてきた朔間先輩。
見せられたものをマジマジと見る。
『UNDEADの外部ライブ…?』
「ってわけで、スタッフ兼プロデューサー補佐な。」
『はい?』
「もう転校生の嬢ちゃんには話しておるから。」
『いやいや、え?何も聞いてないっすよ。』
「?なまえはバカか?今我輩が言ったんじゃから当然じゃろう?」
あ、なまえはバカだった。とか言って自己解決してる朔間先輩に俺は反撃をする。
『俺だって予定とかあるし…』
「なまえに何の予定もないこと、すでに把握済み。」
『ぐ…。何かムカつく。』
「あ?我輩の言うことが聞けぬとでも?」
ぐいっと襟を掴まれ、顔を寄せられる。
端正なお顔が近づくだけでこっちは劣等感でため息が出そうになるくらいだ。
というよりそのお顔で凄まれる、というか笑ってない目で見られると俺の肝っ玉が縮みそうだ。
『…て、手伝わないとは言ってないじゃないですか…。』
「ふん、素直になるのは大切なことじゃよ?」
無理やり手伝わせるように仕組んだのはあなたでしょうよ!少しイラッときた。
『こういう大事なことはもっと前から言ってくださいよ!ほんっとに俺のこと全然考えてない…。』
皮肉しか言えない俺はブツブツ言うことしかできない。
「むしろ四六時中考えてるっつーの。」
ぼそりと何か言ったようだが俺は憤り真っ最中で全く聞こえなかった。
「じゃ、今日の放課後からよろしく頼むぞい」
そう言って朔間先輩からの手伝いを引き受けて2週間。
順調に準備も進んで、UNDEADメンバーの練習も調子が上がってきているみたいで良い流れだと転校生は言っていた。
俺は準備の手伝いでろくに朔間先輩と会ったり、話したりできていないが転校生から聞く話では上手くいっているみたいでこちらも手伝いがいがあるというものだ。
それに…俺としては朔間先輩と会う機会が減る方が助かっていた。
今まではこうして朔間先輩に無理やり手伝わされることに仕方がないと付き合ってきただけだったが、最近は嬉しいというような感情が少し生まれているのが自分でも不思議だった。
そうなったのは本当にここ最近だ。
何でこんな気持ちになるんだろう。少しだけ、朔間先輩に頼られてる、任されてるのが嬉しい、と優越感にも似た感情が見え隠れする。
『変な感じ…』
どうしたんだ俺。はぁ、と謎のため息をついたところで後ろから声がかかった。
「あのー…すみません。UNDEADのライブってここであってますかぁ?」
振り返るとオシャレをして着飾った4人の女の子が今回のライブのチラシを持って立っていた。
ああ、この子達も今日のライブを見に来たのか。
『あ、はい。ここですよ。これ、サイリウムです。』
「ありがとうございますぅ!」
「楽しみだね!!」
「どうしよう!生で見たら倒れるかも…!!」
「私、今日朔間くん目当てだもん!本当にかっこよくて…もう始まる前から倒れそう!」
きゃあきゃあとはしゃぎながら入っていく女の子たちの会話を聞いて、どこか重りを乗せられたように体の中心が重たくなった。
朔間くん…か。
あの子すごく可愛かった。そんな可愛い女の子たち大勢がUNDEADのメンバーを見るために来てる。
アイドル活動なんてしてればそんなの当たり前のことだけど、今の俺にはその女の子が発した言葉が頭の中でぐるぐる渦巻いている。
あれ、何で俺こんな気持ちになってんだろう。今日はUNDEADのライブで皆楽しみにしてるのに。スタッフも準備する皆が今日の成功を楽しみにしてるのに…。
何で俺、こんなに真っ黒なんだろう。
配布するサイリウムを強く握ってしまい、真っ白になった手を開いた。
最近の俺は本当に可笑しい。
こんな気持ちになったことなんてなかったのに。
いきなり湧き出た感情に困惑している俺に一緒にサイリウムを配っていた子が「もう人もだいぶ入ってきたからみょうじくんも中に入りなよ」と引き受けてくれた。
上手くお礼も言えずに促されるままライブハウスに入ってぼーっと後ろ側で突っ立っている。
暗くなった室内の中でステージだけが明かりを浴びて、黄色い歓声とともにUNDEADが登場した。
もちろん朔間先輩もいる。
レッスンやリハーサルの時よりも一際輝いて眩しい。
流れ出した曲に観客の皆がUNDEADに酔いしれて、恍惚とした表情を浮かべているのが分かる。
だって俺もその一員だから。
やっぱり朔間先輩ってすごい。そんな簡単な言葉しか出てこなかったけど、目の前で歌って踊る朔間先輩は俺が今まで見たなかで1番かっこよかった。
さっきまで暗かった心も溶かされるように朔間先輩の魅力にあてられていて、自然と体が熱くなるのがわかった。
自分も観客の一人として一体になりたい。この熱気に飲み込まれて歌に酔いしれたい。そんな思いにさせるほどの魅力があるUNDEAD、朔間先輩にただただすごいとしか思えなかった。
もちろんスタッフとしてそんなことするわけには行かないので後ろで突っ立っているだけだけど。
それでも目を逸らせずに、朔間先輩を見ていると朔間先輩もこちらを見ていた。
熱気で少し額に張り付いた前髪をかきあげた朔間先輩にまた一際大きい歓声が上がる。
向こうは目線を外すわけでもなく、ずっと俺の方を見ている。
まさか俺を見てるわけじゃないよな?ドキドキとする心を抑えるように俺の方から目線をそらした。
「今ずっとこっち見てたよね!?」
「見てた、見てた!!やばい!」
「私たちの方見てくれてたのかな!」
「ファンサとか!優しすぎる!」
ああ、そっか。俺なわけないよな。こんな可愛い子たちがいっぱいいるのに、どこにでもいるような俺に気づくわけないよな。
さっきまで自分を見てるのかと思った俺を殴りたい。何考えてんだ、頭おかしいだろ俺。
恥ずかしさに居心地が悪くなって、朔間先輩を見れずにいる俺はライブハウスの中を見渡した。
前側には俺がサイリウムを配った4人の女の子たちがいて、彼女たちの顔はどれもキラキラ輝いていて笑顔でステージの上で輝いているUNDEADしか見てなかった。
そんな女の子たちの顔を見た瞬間、俺にはまたあの黒い感情が湧き出てきた。
ライトアップされたステージの上で輝く朔間先輩と、それを恍惚と見上げる女の子たち、その世界に俺はいなくて、ただ後ろでぽつんと見てるだけ。
朔間先輩がひどく遠くにいるみたいで。俺と朔間先輩との間に分厚くて高くて重たい大きな壁があるように感じる。
その瞬間、俺の心の中で真っ黒なものが破裂してそこから淡くてすぐにでもかき消せそうな、でももやもやしたものが生まれた。
(あの笑顔は、誰のものなんだろう…。)
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