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「…熱でもあるのかえ?」

朔間先輩は俺の顔を見て少し驚いたように、ピタリと俺の首筋を触った。ひんやりとした手が気持ちいい。

別に、熱なんかない。
ただ、朔間先輩がいると熱くて、それで朔間先輩を見るとまた今日の真っ黒な自分を思い出して苦しくなる。

『…別に、大丈夫です。』
「何か言いたそうな顔しておるのう。」
『…早く帰ったらいいなって思ってるだけです。』
「…可愛くないことを言う。」

目を逸らして本音を言えば、朔間先輩は呆れたように俺の手を解放した。

自由になった両手で毛布を取り返してまたくるまった。

「何が不満なんじゃ。」
『…』
「ほれ、言わぬのか。」
『…』
「言わぬなら…、くすぐりの刑まであと、ごー、よーん、さーん、にー、」
『っ…!っから!』
「お?何じゃ?」
『…何か、今汚い自分がいるから…』
「…汚い?どこがじゃ?」

少し軟らかくなった朔間先輩の声が頭の上から降ってきた。

『…嫉妬してる自分がいる、んです…。』
「嫉妬?」
『…ぁ、朔間先輩たちが今日ライブ成功させて輝いてたから…』
「…ほう。まぁ仕方ないのう。我輩たちもここまで汗水流したからこそ、今日のライブを成功できたからのう」

嘘だ。嫉妬したのは朔間先輩たちに、じゃない。俺がそんな真っ黒な感情を持ってしまったのは、あの観客で、女の子たちで、朔間先輩の近くにいる皆で、俺はただただ朔間先輩が遠いことに苦しくて、悲しくて、虚しくて。

だけどそんなことは言えない。だから咄嗟に俺は嘘をついた。

『…それは、分かってます。』
「それに今日のライブもなまえの協力があったから成功できたんじゃよ。」
『…何にもしてないですよ、俺…』

苦しい。何でこんなに苦しいんだろう。
近くにいるのに、遠い。
朔間先輩の隣に俺はいない。そこには転校生がいて、羽風先輩がいて、大神がいて、朔間先輩は色んな人に囲まれている。
俺はただの使いっ走りで、ただの近所の後輩。

今までは朔間先輩の近くで、キラキラ輝く朔間先輩を見れるだけでいいと思っていたのに。

今はこんなにも、遠くにいるのは嫌で、近づきたくて、朔間先輩に見てほしい、なんて我儘が溢れている。

ライブ中に、輝いてる朔間先輩を見てその笑顔が自分にだけ向けられればいいのに、と思ってしまったことは誰にも知られてはいけない。
叶えられないと分かってる願いを抱く馬鹿な自分は捨てなければいけないのに。

「なまえ、ありがとう。」

頭を撫でられながらかけられた優しいその声は残酷で、俺の心に痛く、深く、染み込んでいった。

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