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左手首にかかっているブレスレットを見て、ため息がこぼれそうになった。

朔間先輩からもらった誕生日プレゼント。

嬉しくて毎日つけているけど、最近これが視界に入る度に俺の心は複雑化する。

「あらあらぁ、なまえちゃんなにそれ!」

俺の机に近づいてきた嵐が、左手首についているそれを指さした。

『あー…誕生日プレゼントでもらったやつ』

「すごくオシャレじゃない♪かっこいいけど繊細で、珍しいわね」

『でしょ?俺もずっとネットとかで見てて欲しかったやつなんだよなー。俺にはもったいない感じするけどな』

ははと苦笑いしたら嵐はそんなことないわよぉと言ってのけた。

「なまえちゃんによく似合ってるわぁ♪」

『そうかー?何かこれに見合うまでの人間になれてないような気がする…』

「そう?でもそういう身につけるものくれる人ってなまえちゃんのこと好きなんじゃないのぉ?!」

『え?いやいや、それはない。』

「え〜だって毎日つけてほしいって思ってプレゼントするものでしょ?そうしたら、その人のこと思い出すじゃない?だからそれを見て思い出して欲しいってことじゃ…きゃー!もう!照れる!」

一人で顔を赤らめてテンションを上がっている嵐においおいそんなんじゃないからなーとツッコミを入れながら俺はもう一度ブレスレットをみた。

たしかに、目に入るたびに思い出す朔間先輩のこと。

『これは…多分ただの気まぐれでくれただけだから。』

「気まぐれ?」

『ん、普段そんなことするような人じゃないから』

「へえ、誰?」

『え、それは内緒。』

「もぉー!そこが肝心なとこじゃない!」

笑いながら嵐の批難を受け流して、そろそろ授業のチャイムなるから戻れよーと嵐を自席に戻した。

どうせ自習だから席につく必要はないけれど、真面目に勉強しようと思ってノートを広げた。

イヤホンを耳につけて少量の音量で音楽をかけた。

ノートに問題を解いていく度に視界に入るブレスレット。耳に入ってくる歌詞は愛に飢えた曲だった。

ああ…重いなぁ…。

何が重いのかわからないけど自分の気分なのか、気持ちなのか、このブレスレットなのか…。

歌詞ばかりが耳に入ってきてノートは半分も埋まらなかった。


****



昼休みになり、いつものように朔間先輩と二人で昼ご飯を囲んだ。

「今日はコロッケ弁当か…。んん、我輩そんな気分じゃないからのう…これを食べるわい。」

『はっ?ちょっ、最初、朔間先輩がコロッケ弁当食べたいって言ったんじゃないですか!』

「気分が変わった。」

『はぁぁぁ…?!俺の焼き鮭弁当…。』

むうとしながら仕方なしに朔間先輩の方にあるコロッケ弁当を取った。
まあ、これも日常茶飯事だから仕方ないっちゃ仕方ない。

購買で売ってる弁当はどれも美味しいから文句はないけど…。何だか損した気分だ。

もぐもぐと白ご飯とコロッケを口にかきいれて上下に動かしているとまた、左手首のブレスレットが目に入った。


「気に入ったか?」

朔間先輩をちらと見ると、朔間先輩も俺の手首にあるブレスレットを見ていた。

コロッケと白ご飯を飲み込んで、息を吐いた。

『っ、はい。何かまだ慣れないです。』

「ふふん、なまえにはまだ早かったかのう?」

『そんなことないですよ!ずっとつけてたら似合ってきます…多分…』

「そうするが良い。ずっと肌身離さずつけておけ。」

言われなくてもそうしますし!と心の中で返してまたもぐもぐと咀嚼を始める。

左手首についているブレスレットは、細身でさり気ない装飾なのにオシャレなデザインで前から欲しかったものだった。

これを朔間先輩が俺にプレゼントしてくれるなんて思わなくて、貰った時はすごく嬉しかった。

あの朔間先輩が俺にプレゼントくれたんだ、って。嬉しくて寝る時も高揚した気持ちがおさまらなかった。

でも、最近つけている度に朔間先輩のことを思い出して、心がもやもやする。

プレゼントしてくれた嬉しさと、朔間先輩に可愛がられているんじゃないかという思い。

俺にだけ当たりが強いけど、それは俺だけが特別…なんじゃないか、俺だけは特に可愛がられるんじゃないか、っていう思い。朔間先輩が素を出すほど、俺の前ではありのままでいてくれてるんじゃないか、って。

でも、ライブや普段の朔間先輩を見るとやっぱりそれは俺の勘違いであって思い上がりなんじゃないかと思わされる。朔間先輩にはたくさんの後輩がいて、懐いていて、同志とするメンバーがいる。歌って、踊って、一緒に汗を流して、歓声の中を共にするメンバーがいて、それはかけがえのないもので、そんな中に俺なんていない。

俺はただの後輩。

えっ、じゃあ俺は朔間先輩の何になりたいんだ……?

気づいたら箸が止まっていた。

ぼーっと白ご飯を眺める俺に朔間先輩の声が急に聞こえた。

「おい、シカトしてんじゃねーよ。」

眉をひそめて自分の焼き鮭を俺の口に押し当ててきた朔間先輩に慌てて現実に戻った。


『ふ、ふがっ!!』

「わざとか?あ?」

『ち、違…っ、考え事してただけで…!』

げほ、とむせそうになりながら焼き鮭を飲み込んだ。

俺様零様の降臨に慌ててすみませんと謝る。

「シケたツラしてんじゃね〜よ」

『してませんよ…。』

「見てるだけで反吐が出る。」

むぎゅ、と俺の鼻を掴んだ朔間先輩に生理的に涙目になった。

『いたい!』

「俺の前でそんな面すんな。わかったか??」

『いたい!はい!っ、わかり、ました!』

頷けば痛みから解放されてヒリヒリする鼻をさすった。

「………。」

『………。』

「おい、さっき言ったこともう忘れたのかよ」

『え…あ、はい。』

げし、と足を蹴られてまた自分が辛気臭い顔してるんだと気づいた。

ああ、辛いかも。
こうして朔間先輩と触れれば触れるほどさっき考えたことがもっともやもやしてくる。

朔間先輩が近ければ近いほど遠く感じるのは辛いかも。

「何かあったのか?」

食べ終わった朔間先輩は頬杖をついて俺を見た。

『…や、何でもないっす。』

「………。」

『…俺も、早く食べよっと。』

止まっていた手を動かして口の中に最後のコロッケを入れ込んだ。

黙って俺を見る朔間先輩の視線が痛い。
そんなに見ないでほしい。
何だか心が辛いから。


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