02
午後からは体育の授業があるから、体操服に着替えてグラウンドに向かった。

今日は珍しく凛月も出るということで真緒と俺は本当に出るのかと疑いながら準備していたがどうやら本当みたいだ。

『まさか凛月が出るとは…今日は何か良くないことが起きそうだ…』

「いや〜凛月がちゃんと出てくれてほっとしたというか…」

「2人とも言いすぎじゃない?俺だって真面目に授業を受けることあるんだけど〜」

『まじでびっくりだわ。朔間先輩あたり窓に張り付いて見てそうだな』

「なまえ、物騒なこと言わないでよ。兄者を見かけたら即帰る。」

「あ…あそこ、凛月の兄貴じゃないか?」

『えっ?』

まさか俺が言ったことが本当だったのかと凛月と2人で視線を上げると、手を振っている朔間先輩が見えた。

「うわあ…最悪。一気にやる気なくした。」

『まじかよ…お前のお兄ちゃん本当やばいぞ…。ここまでとは…いや、もう元からやばいけどさ…』

ここまで弟愛が強いとは、と首を横に振りながら体育の準備を始める。

『最近さらにひどいからな…毎日パシられるし、やたら体触ってきて遊んでるし…、まじでどうにかしてくれよお前の兄ちゃんだろ…』

割と本気でどうにかしてほしいと伝えたはずなのに凛月も真緒も同情の色すら見せてくれない。

「今になったわけじゃないしなあ、もう昔からだろ。なまえも大変だな。」

「うーん、なまえ、いいこと思いついた。」

『いいこと…?凛月のいいことって怖いんだけど…』

グイッと引っ張られて凛月の胸の中に閉じ込められた。

凛月の顔が沈み、首元にこぼれた髪がこそばゆい。

『ちょっ、どうした、ひゃっ!!』

耳元でフッと息をかけられて、ゾワゾワする。おまけに凛月の両手があろうことか俺の尻を揉んでいる。

いやいやいや、お前何してるんだ!!

びっくりしすぎて何が何だか理解できてないけど恥ずかしいことだけはわかって、顔が熱くなる。

多分、いや、絶対真っ赤になっている。

『ばかっ!何してんだよ…!』

真っ赤になりながら凛月を押すとニヤリと笑って離れてくれた。

今の醜態を見られたのは、かろうじて真緒と凛月と…あとは朔間先輩だけだろうか。

チラリと朔間先輩のほうを見るとさっきまでにこにこと手を降っていたはずなのに、今は無表情でどことなく怖い。

『最悪だ…絶対、朔間先輩にからかわれる…』

「いいもの見れた♪あの兄者の顔!ふふふ」

「凛月も分かっててやるとか、ったく…なまえもご愁傷さま…思いやられるぜ…」

『本当お前ら兄弟どうなってんだよ…』

顔の赤みを隠すために頬に手をやり、憎らしく凛月を見るが全く効果がなく。
この兄弟にはいつも振り回されるなあとため息をつきながら授業の開始を待った。


***


授業が終われば凛月は疲れたといってふらっといなくなった。

俺も制服に着替えて動かした体に糖分を与えるために甘い飲み物でも買おうと自販機へ行きパックのジュースを買った。

飲みながら歩いていると足に何かが引っかかった。

いや、引っ掛けられた。俺の踏み出す場所に横からニュッと足が出てきたのを俺は見たぞ。

ただ気づくのが遅かったせいですでに体は傾きかけている。

このままだと地面とこんにちはしてしまう。手を出さなければ、と咄嗟に判断してジュースを手放し、受け身の体勢に入ろうとすれば横から俺の体を支える手が入った。ご丁寧に手放したパックのジュースまでナイスキャッチをして。

こんなことするのは、一人しかいない。顔を見なくてもわかる。

『先輩…、最悪です』

「鈍いのう。手を出す前に足をもう一歩出せば立ち直れたものを」

『そもそも、足を引っ掛けなければ何も問題ないんですけど…!』

「大丈夫かえ?ひ弱じゃのう。」

自分で仕掛けといて助けたふりをするなんて本当にこの人は何がしたいんだと呆れる。

しかし、最後の一言が いつも大人しく言う事を聞く俺に対して、凛月に遊ばれている俺をさして言っているのかと思うと先ほどの凛月の行為を思い出して恥ずかしくなってくる。

何を思い出して赤くなってんだ、必死で冷静を保とうとするがそうすればするほど意識してしまう。

『ちょっと…もう俺戻るんで…』

いきなり顔を赤くした俺はきっと不審がられるだろうから目を合わさず顔を下に向けて教室に戻ろうとした。

が、掴まれた腕によって阻まれた。

いきなり歩くものだから ガクンッと引っ張られるかたちになって腕が痛い。

近くの空き教室に連れてこられ、朔間先輩はドアを閉めたあとに俺を壁に押し付けた。

無表情だし、何を考えているのか分からない。少し恐怖心が出てきて、俺は何か悪いことでもしたかと考える。

『あの…朔間先輩?』

「名前で呼べ。」

ひいいい、目が完全に冷めてるというか…。なぜこんなに不機嫌なのか?!

とにかくこんな状態の朔間先輩には歯向かわないほうがいいと心得ているので大人しく言う事を聞く。

『れ、零くん…。』

「我輩のものでありながら、勝手に触れさせるとは…。どういうことかのうなまえくん。」

ああ、ほらこうやって俺をくん付けで呼ぶのも機嫌が悪い証拠だ。いつもなら呼び捨てなのに。

『ど、どういうことですかね…よく分かりませんけど…』

ガンッと大きな音がしたかと思えば朔間先輩の足が俺の足のすぐ側の壁を蹴ったようで、肝っ玉が冷える。

本当になんなんだ、俺はなにもしていないじゃないか!

「とぼける気かえ?凛月に触られて顔を赤らめて…いつから男から触られて喜ぶようになったんじゃ 」

『なっ!、んなわけな、んん…!』

朔間先輩から出た言葉を理解して、一気に顔に熱が集中した。やっぱりからかわれてる。

否定しようと口を開けば、綺麗な朔間先輩の顔が至近距離にあり、開いた口を塞がれた。

びっくりして、何で朔間先輩はこんなことをするんだ、とか、気持ち悪くはないけど、とか色んな思いが頭の中をぐるぐる回るがとにかく抵抗しないと行けない、と思い掴まれた腕に力を入れるとさらに強く握られた。

目を見ると抵抗するな、と言わんばかりにその綺麗に整った瞳に俺が映りこんでいた。

角度を変えて口内に入り込んでくる感触、初めてあじわう感覚に頭がぼーっとしてくる。

抵抗を諦めたとはいえ、いつまでこんなことをするんだろうか。がっつくように貪られ酸素が足りず崩れ落ちそうだ。

やっと解放された頃には、立っていることもできずその場にへたりこんだ。

『っはあ、は…。な、何して…』

座り込んだ俺に目線を合わせるように屈んだ朔間先輩は俺の額に ちう、と口付ける。

「なまえは我輩のもの。何をするのも我輩の勝手じゃ。しかし他のものに触らせるのは許さん。我輩だけじゃ。そうすれば我輩もたんまりと愛を与えるぞい。」

『…い、いりませんよ…!』

「やれやれ…世話がやけるやつじゃ。いりませんも何も幼き頃から我輩が愛を与えてやってきたじゃろう。なまえに拒否権はないんじゃよ。これからたっぷり愛を返してもらわんといけんからのう。」

諭すような目でにこりと笑い、俺の熱い頬を撫でる。

「ほら、手始めにまずは我輩に忠誠のキスを。」

目を閉じて、自分の唇を指さす朔間先輩に本気で言ってるのかこの人は、と考えたが本気でも冗談でも従わないといけない。

俺はこの暴君、朔間先輩には逆らえないのだ。

ああ、勿体ない。そんな顔、ファンの子が見れば卒倒するほど良い顔しているのに。

未だにこの状況を把握していないけど意を決して、恐る恐る朔間先輩に近づく。

触れるだけ、少し触れたらすぐに離れよう。
僅かに震える唇を近づけて、触れた、感触を把握した瞬間、後頭部に手を回され、一気に口付けが深くなる。

すぐ離れようとしていたのにがっちりと固定された頭では逃れることもできそうにない。

ああ、またこの人は何を考えてるんだろうか…。
いつものおふざけの延長として、犬に噛みつかれた程度だと思うしか…。

狭い視界の中で見える朔間先輩の瞳は俺を見下ろしていて、まるで俺だけを求めているかのようなその視線に到底犬に噛み付かれた程度とは言えない気がした。

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