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とりあえず朔間先輩に見つからないように逃げようと階段を1段飛ばしに駆け上がる。
登り切ったところで前をよく見ていなくて、誰かにぶつかりかけた。
『ああっ!すみませ、げっ!!』
「おい、げ、とは何だ。校内は走るな、と校則で」
うわぁぁ最悪だ。まさかの蓮巳先輩だった。
『い、今朔間先輩から逃げてるんですよ!』
「朔間さんから…?」
『だ、だからご勘弁を…っ!』
その場から離れようとしたのに俺の手首をしっかり掴む蓮巳先輩。力強すぎる。
「それとこれとは話が別だ。」
ええええっ、そんな。
早くしないと朔間先輩に見つかる…っ。
「追いかけっこは終わりじゃのう。」
ひょこりと廊下の壁から顔を見せた朔間先輩はにやりと笑っている。
「校内は追いかけっこをするところではないんだが。」
眼鏡をくい、と上げながら鋭い視線で見られて俺は縮んだ。
『う…さ、朔間先輩が悪くて、「はて?逃げたのはなまえじゃけどのう。」
「…みょうじは何をそんなに逃げているんだ。」
『ぇっ?!』
逃げる理由を聞かれるとは思っていなくて声が裏返る。
「なまえがのう、我輩に愛してると素直に言えないから逃げておるんじゃよ。」
「……はあ?」
ほらほら、朔間先輩がわけわかんないこと言うから蓮巳先輩も顔を顰めてるじゃないですか!
『ゲ、ゲームですよ!?あ、愛してるゲーム…』
「なんだそれは。」
『あ、愛してる〜ってふざけるゲーム…です…』
すみません、ほんとなんかすみません。言ってるこっちが恥ずかしくて今すぐ消えたい。蓮巳先輩の目が痛いから今すぐ消えたいんですが…。
「はぁ…そういうことはこんなところじゃなくて別のところでやってくれ。」
肩を竦めてため息を吐いた蓮巳先輩は今回は見逃してやる、と去っていった。ああ、よかった、これで俺の名誉は守られた…。ホッと息を吐き出したけど俺の問題はまだ終わっていなかった。
「ほら、早く言うんじゃ。」
むにりと頬を掴まれた。ほんと諦めが悪い人だ…。
毎度のことながらこれ地味に、ていうかほんと痛いんだぞ…。
『いひゃい…』
「言うなら離してやろうぞ。」
『………、いひゃい…』
「ほう…我慢比べか?」
ダメだ、頬がじんじんしてきた。まじで痛い。
『い、いいまひゅ…』
観念してそう言えば朔間先輩の指は簡単に俺の頬から離された。
じんじんする頬を撫でながら朔間先輩をちらりと見る。目を細めて、早く言えというように待つ朔間先輩に腹を括った。
『っ……ぁ、愛して、るぅ〜………〜〜っ』
すう、と息を吸って、ごにょごにょと口の中で丸め込んだ言葉は小さく口から漏れた。語尾は消えるように途切れて、俺は朔間先輩の目が見れなくて下を向いた。
「くっくっく、うぶ、じゃのう。許してやろうぞ♪」
ああ、くそ。頬が熱いし、心臓が早く動きすぎてつらい。
俺に愛してると言わせた朔間先輩は満足したのかコツコツと歩いて離れていった。
そこで初めて、やっと顔を上げることができて離れていく朔間先輩の背中を見た。
たった、5文字。
その言葉を言っただけなのに、廊下の窓ガラスに反射する俺の顔は真っ赤だった。
なんで、赤いのか。なんで、こんなに心臓がうるさいのか。
その言葉の意味を、考えると頭がくらくらとしそうだった。
ああ、こんな言葉遊びで気づいてしまうなんて馬鹿だ。
皆簡単に言える「愛してる。」
「愛してる」この言葉を朔間先輩から言われた時、どきりとしたのはなんだったのか。
気づきたくない、気づいちゃいけない。ダメなんだ、ダメなんだって。希望も何もないそんな想い、存在しちゃダメなんだって…!
頭の中で分かってるのに、気づいてしまったらもう…。
ふざけた遊びで自分の気持ちに気づくなんて、本当にバカすぎる。
片手で顔を覆った。
『っ…はぁ…』
体の熱を吐き出すように息を吐いた。
一生のお願いだから、10分前に時間を戻してほしい、と心の底から願った。
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