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『ちょっとー…やめてくださいよー…』
いつものように今日も部室で朔間先輩にちょっかいをかけられている。
『俺の髪をぐしゃぐしゃにして何が楽しいんですか…』
一応毎朝、家を出る時に髪の毛とか気にして出てるのに朔間先輩はそんな俺の努力をガン無視して現在進行形で俺の髪の毛をかき回している。
「元からぐしゃぐしゃじゃろう♪変わらんぞい♪」
鼻歌歌いながら人の髪を崩す、っていじめだろ、もうこれ。
全くもって理解できない…。
飽きたのかやっと解放された俺はぐっしゃぐしゃにされた頭を手で梳いて直した。
触れられる度に飛び跳ねる心臓。
今までなら最悪だ、いじめだ、使いパシリだと嘆いていたのに、一度朔間先輩が好きなんだと気づいてしまえば、全部が都合のいいように考えてしまいそうになる脳みそ。
必死で平常心を保つのは精神をすり減らすのと同じだった。
崩れた髪を軽く頭を撫でるように直していれば、急に朔間先輩に腕を掴まれた。
びっくりして朔間先輩を見ると目を細めていた。
「…我輩があげたやつは?」
『え…?』
「つけてないんじゃのう…」
朔間先輩の視線は俺の手首を見ていた。
きっと、朔間先輩がくれたブレスレットのことだ。
『あー…忘れちゃって…』
いつもつけていたブレスレットはもう手首にはない。
「おっちょこちょいか?忘れんなよ。」
『あはは…気をつけまーす…』
忘れたわけじゃない。自ら外したんだ。
馬鹿な自分の気持ちを消すために。
ブレスレットを付けていない手首は少し寂しさを感じた。
****
「は?てめ〜今日もつけてね〜のかよ。」
『いや…忘れちゃって…』
「なまえの脳みそは空っぽか?あ? 」
ぐりぐりこめかみに攻撃をうけて『いだだだ!』と声をあげるのに弱まる気はない。
ここ数日ずっとつけていないことを朔間先輩から指摘されては忘れたと言っているがさすがにこう毎日指摘されると忘れたというのは言い訳苦しい気もする。
『暴力反対…っ!あっ、転校生!』
「おお、嬢ちゃんや。」
視界に入ってきた転校生を見かけて声をかけると暴君朔間先輩はスン、と収まって柔らかい笑顔を見せた。
この変わりよう…!
「なまえくんをいじめるのは可哀想だからやめてください、と?くくく、違うんじゃよ嬢ちゃん。ただ戯れておっただけじゃ。のう?なまえ。」
『いや、俺は殺されかけて「のう?なまえ」はい…』
白目を剥きそうになりながら、NOという答えを全力でYESに変えた。
仲良いんですね、と笑う転校生はどこをどう見たら仲良いなんて言えるか問い詰めたい。
「そうじゃろう?我輩となまえはずぅっと昔から一緒におるからのう。もはや我輩の一部じゃよ」
その言葉に今までの俺だったら、『何言ってるんですか。一部じゃなくて下僕の間違いでしょう…』ってツッコミを入れるはずだ。
それなのに、その言葉に柄でもなく内心ドキ、としたのはやっぱりまだ奥底に残る気持ちが消えてないからだ。
『…っ、何言ってるんですか下僕の間違いでしょう…』
いつも通りの言葉を口から出した。
「あ、そうじゃった♪」
そんな俺の言葉を否定せず笑いながら肯定する朔間先輩もいつもの朔間先輩だ。
これでいい。これで
いつも通り、今までと変わりなく。
何事もなかったように。
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