33
「なまえ〜誕生日おめでとう〜」

「俺らからプレゼントっ!りっちゃんと一緒に作ったんだ〜♪」

『わぁぁっ!凛月、真緒ありがとっ!』

ずっと小さい頃の誕生日。

真緒と凛月が差し出した誕生日プレゼントにきゃっきゃと喜びながら粘土で出来た飛行機を受け取った。

「この羽はねぇ、りっちゃんが作ったんだよ〜。でね、ここはねぇま〜くんが作ったの。」

凛月が作った飛行機の羽の部分はすこし歪な形をしていて、真緒が作った胴体の部分は綺麗な形をしていた。

2人の特徴が出ているその飛行機は何よりも嬉しくてありがとうとお礼を言った。

3人でわいわいしていると、後ろから「なまえ。」と声をかけられて振り向いた。

『零くん!』

「誕生日プレゼント、俺からもあげる。こっち来て。」

何だろうっ!零くんは何をくれるんだろう!

とわくわくして手を引かれるまま、ついていく。零くんの家の大きな庭の隅っこに連れてこられた。

ここには俺と零くんの2人しかいない。薔薇の茂みに囲まれたここは背の低い小さな子供達だけだと誰も気づかない。

「目、閉じて。」

わくわくして、すぐに目を閉じた。

何だろう、何だろう、真緒と凛月が飛行機だったから零くんは車かなっ、何だろう、と頭の中でプレゼントを想像した。

待っていると唇のすぐ横に柔らかい感触があって、あれ?と思い目を開けた。目の前には零くんの顔が近距離であった。

「ばか、目開けていいって言ってね〜だろ。」

零くんは俺と2人の時だけ少し口が悪い。真緒と凛月といる時は優しいお兄ちゃんって感じで俺はその零くんのほうが優しいから大好きだ。

『…れいくん、ちゅーした?』

「してねーよ。」

『でも…』

「…チッ、これは俺からのおめでとうって意味だからな。いいか、誰にも言うなよ。俺となまえの内緒だからな。 」

誰にも言うなという零くんの凄みが怖くて幼いながら誰にも言っちゃいけないんだと肝に銘じてこくこくと頷いた。

『わかった…。』

「じゃあ、もう1回目閉じて。プレゼントやるから手出して」

やった!ついにプレゼントだっ!

目を閉じたまま、右の手のひらを出した。

何かな、何かな…っ!

手のひらに何かがそっと置かれた。

『っ!零くん零くん!目、開けていいっ?』

早く零くんからのプレゼントが見たい。

「ああ、いいぞ。」

わくわくしながら目を開けた。

『……うゎぁぁぁっ!!!』

自分の手のひらを見ると、ぷっくり太った黄緑色のいもむしがもぞもぞ動いていた。

『い、いもっ、ひぇっ、うわぁぁぁん!!』

投げ捨てることもどうすることも出来ず、俺は右手を差し出したまま泣き出した。

「くくくっ!!あはははっ!おもしれ〜!」

零くんはというと、目の前でお腹を抱えて笑っている。

『ぅうう〜っ!もぞもぞっ…してるっ!ぅわぁぁ〜っ!』

泣きじゃくる俺を助けようともせず笑う零くんに、俺はさっきまで期待していた自分を裏切られたようでショックだった。

俺の泣き声が聞こえたのか薔薇の茂みから真緒と凛月が飛び出してきた。

「なまえっ?!」

右手を差し出したまま泣きじゃくる俺と、笑い転げる零くんを見て真緒と凛月はびっくりした顔をしていた。

『助けてぇ〜っ!イモ、イモムシ!取ってぇぇ〜っ!』

そのまま体を動かして真緒に右手を向けた。

真緒は苦笑いしながら俺の手の上からイモムシを取って、そっと自然に帰してあげた。

『ぅうっ、れ、零くんひどい…っ』

「あ〜笑った。」

「おにいちゃんなまえが可哀想!」

「凛月〜♪お兄ちゃんは悪くないんだよ〜。なまえがこの間イモムシがほしいって言うからさ」

『言ってないもん!!零くんのいじわる…っ!』

「言った言った〜。ほら、イモムシ〜〜」

自然に帰したはずのイモムシをどこからか拾ってきて、それを持ったまま俺を追いかけてきた。

『うわぁぁぁっ!助けてぇぇぇっ!』

せっかくの誕生日なのに泣きながら零くんから逃げる俺はもう金輪際零くんのプレゼントなんかに期待しないと心に決めたのだった。



****



何とも思い出したくない昔の夢を見てしまった。
俺の黒歴史の一部だ。あの後誕生日が少し怖くなったのは朔間先輩のせいだと思う。

ベッドから這い出て顔を洗いに行く。朝ごはんを食べたあとは部屋に戻ってダラダラ出る時間まで過ごす。

時計を見てそろそろ家を出る支度をしようと制服に着替えてカバンの中に携帯やペンケース、借りていた漫画を入れた。

よし、これで出れるぞ。とカバンを持った時、机の上に置いている黒い箱に目が止まった。

『………。』

パカリ、と開けると今までいつも身につけていた細身のブレスレットが入っていた。

朔間先輩からもらった誕生日プレゼント。

イモムシなんかじゃない、初めてのまともなプレゼント。

貰ってすごく嬉しかったのを思い出してそっと箱を閉じた。



貰って嬉しくて、浮かれて…。

朔間先輩のプレゼントに期待なんかするもんじゃない。
昔からそんなこと分かってたはずなのに。


ハッとして、時計を見た俺は急いで部屋を出た。

← →

back