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「おはよぉなまえちゃん」

『嵐おはよ。』

「あらぁ?今日もつけてないのねぇ、ブレスレット」

『あー、うん』

俺の手首を見ていつもつけていたブレスレットをつけてないと気づく嵐はさすがだと思う。

「なくしちゃったとか?」

『…いや、やっぱ似合わないと思って』

「えぇ〜なまえちゃんに似合ってたわよぉ?」

『そう?…あ、俺ちょっとA組行ってくる』


似合わないと自分の口から言うと少し胸のあたりがきりきりした。まるで嵐の会話から逃げるように席を立つ。

別にA組に用事はないんだけど…。ふらりと教室の外に出た。浮かない心で適当に時間を潰してHRギリギリ前に教室に戻った。

授業中、今まで付けていたブレスレットを見る度に朔間先輩のことを思い出していたけど外してもそれはなくならなかった。

つけていなくったって、考えてしまう俺は重症だ。

ノートを取りながらも今、朔間先輩は棺桶の中かな…なんて考えてしまう。

そんなことを考えていると授業はあっという間に終わって昼休みになってしまった。

全然話聞いてなかったやべぇ…となるのはいつものことで後で弓弦にポイントの所だけでも教えてもらおうと教科書とノートを机の中にいれこんだ。

同時にポケットの中に入れている携帯が震えて取り出した。


【エビカツサンド トマトジュース】

朔間先輩からだ。いつものこれ買ってこいっていうメール。

購買に残ってるかなぁ…あれ朝から置いてるから昼にはないかもしれないし…。

【分かりました。なかったらカツサンドでいいですか?】

返信を送ると朔間先輩にしては珍しくすぐ返ってきた。

【なかったら、なまえを潰す】

怖ぇぇええ!
何でエビカツサンドがなかったら俺潰されんの?!

俺のせいじゃないはずなのに…とりあえずダッシュで購買に向かうことにした。


***


『はぁ…よかった…残り1個…っ』

危ない、潰されるところだった…。と胸を撫で下ろした。

死守したエビカツサンドとトマトジュース、それから俺の昼ご飯であるおにぎり弁当とお茶を手にして軽音部の部室に急いだ。

まぁ今日はまだましかな…。

いつだったか斎宮先輩が絶賛しているクロワッサンを我輩も食べたいから買ってこいとか言い出してクロワッサン買うのに苦労したことがあった。

あの時はもうどうやっても人気で買えなかったから斎宮先輩から分けてもらったんだよなぁ…。

本当に朔間先輩のわがままに俺はこき使われてる。

でもその時も食べかけのクロワッサンを半分俺にくれたのはちょっと嬉しかった。俺もそんな美味いと言われてるなら食べてみたいなぁとか思ってたから。

ああいう優しいところがほんと…。

ああ〜〜考えるな。考えるな。

また好きとか何とかそういうこと考えてしまう…。

頭を振ってシャットアウトしてからたどり着いた部室の扉を開けた。

『エビカツサンドありましたよー』

「ほう、ご苦労じゃった。」

『はい、どうぞ』

ガサリと袋を渡して窓の近くにある椅子に座った。

「今日は深海くんがエビカツサンドを食べておってのう。我輩も食べたくなったんじゃ」

『へぇ…』

「…何じゃ、その興味がないような返事は。」

むすっとした朔間先輩にむぎゅと頬をつねられた。

『いはい!』

「くくく、ひどい顔じゃ。頬が伸びてハムスターみたいじゃ」

俺の顔を見て1人で笑う朔間先輩に、はぁと呆れそうになった。

『もう…食べるんだから離してくださいよ』

そう言うとやっと解放されておにぎり弁当にありつけた。

お〜今日も美味しそう。
おにぎりが3個も入ってるおにぎり弁当は成長盛りの高校生には充分なボリュームだ。

『朔間先輩もこのおにぎり1個食べます?美味いですよ』

「ふぅん、後でおにぎり3個、1口ずつ食べるわい。」

『え゛っ…』

何その全部食べたいけどお腹いっぱいになるから少量だけ食べるわ、みたいな…。しかも朔間先輩のことだから真ん中の具の部分をしっかり1口持ってかれそう…。

くそ…、俺としたことが…。食べますか、なんて聞くんじゃなかった。いや、でもそもそも食べてる最中に横取りされて食べられてたかもしれない。

具の部分を頬張るおにぎりの楽しみが消えたところで朔間先輩が名前を呼んできた。


「…なまえは我輩に喧嘩を売っておるのか?」

『……え、…はいっ?!』

ん…?何ですって?いきなり睨まれて俺は固まった。


「チッ、てめ〜は何度言わせたらわかるんだよ」

えっ、なに?俺何かした?

唐突な朔間先輩の変貌ぶりに俺は目を見開いた。

『な、何がですか…?』

恐る恐る聞いてみる。
朔間先輩が目を細めて俺を見ていて、正直蛇に睨まれたカエルみたいに怖い。

「なんでつけてね〜んだよ。」

ガシッと手首を朔間先輩に掴まれて強く握られた。

ブレスレットのことだ。

『…いやぁ…』

「忘れたとは言わせねーぞ?」

付けていると自分の都合のいいように考えてしまうから外したんです、なんてとても言えない。

『…えーと…、外に出かけたりとか…そういう時に使おうと思って…』

「…肌身離さずつけるって言ったくせに」

うっ…痛いところを突いてきた。何か理由になるようなことを考えないといけない。

咄嗟に頭に浮かんだことを理由にした。

『…お、俺にはどうせ似合わないんで…。朔間先輩だって俺に似合うと思ってないでしょう?』

「は?」

凄んだ朔間先輩の目を見れずに逸らしながら続けた。

『だ、だってプレゼントなんてイモムシしかくれたことなかった朔間先輩がいきなり…あんな良いものをプレゼントしてくるなんて…俺のことからかってるとしか…』

そうだ…。俺の記憶にある限り、朔間先輩からはイモムシとか枝にまきつけた蜘蛛の巣とか、そんな変なものをいつもプレゼントと称して押し付けられていた。

本当は…すごく嬉しかったけど、これも朔間先輩が面白がってやってるんじゃないかっていう可能性はないわけだ。過去のことを見る限り。

「…食う気失せた。」

食べかけのエビカツサンドを机の上に置いて朔間先輩は立った。

見下ろされた視線は凍てつくように冷たい。かなり怒っているのがわかった。

別に…ブレスレットつけてないぐらいでそんなの怒らなくてもいいじゃないですか…。

何てことは言えないけど内心俺はそう思った。

朔間先輩は見下ろしたまま何も言わず、棺桶に向かっていった。

それからバタンッと強い音がして棺桶の中に閉じこもってしまった。


…かなり空気が悪い。

でも最初に喧嘩売ってんのかって吹っかけてきたのは朔間先輩だし…。

俺は小さくため息を吐いて弁当を片付けた。



俺は本当は嬉しかったんですよ。
大神は朔間先輩からギター貰ってるし、そんな大神もすごく嬉しそうで…。

俺なんかそんな良いものもらったことないのに、それなのに朔間先輩が俺がずっと欲しかったブレスレットをくれちゃったりするもんだから柄にもなくめちゃくちゃ嬉しかったんですよ。


でも、そのおかげで浮かれて朔間先輩の特別なんじゃないかとか馬鹿なこと考えちゃうんだから付けておくわけにはいかないんです。

仕方ないじゃないですか…。

静まり返った部屋の中で自業自得だなと自嘲した。

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