夏祭りver
夏休み。満喫した一日(だらけた一日)を過ごしていると携帯が鳴った。

画面に表示されてい名前を見てすぐに出た。

「はい、もしもし」

「明日の夜、夏祭りに行くからのう。支度しておくんじゃよ。」

「……はい?」

「あ、もちろん浴衣でのう。それじゃ。」

「えっ?いや、ちょっ、」

プツッと切れた携帯片手に俺は「はぁぁぁ?」と声をあげた。



***


結局仕方なく浴衣を引っ張り出して、訳分からなくなりながら着付けたところで母親から呼ばれた。

朔間先輩がきたみたいだ。
財布と携帯と…、とりあえず最低限必要なものだけ持って玄関を出た。

「お、またせしました…」

「遅いのう。なまえは女子か?ん?」

「す、すんません…ていうか元々行く予定とかなかったのに朔間先輩がいきなり…」

朔間先輩のせいだと言おうとしたら睨まれたのでやめた。

「優しい我輩が夏休みで家でだらけたなまえを外に連れ出そうと配慮してやったんじゃ。感謝してほしいのう。」

「ええ…俺は涼しい部屋でゲームを「御託はいいから行くぞ。」…はぁい」

いつも急すぎるんですよあなたは…。

と内心でぶつくさ呟きながら朔間先輩の隣を歩いた。

正直、玄関から朔間先輩を見た瞬間、ちょっとびっくりした。

俺は青緑のような浴衣だけど、朔間先輩はやっぱり黒だった。それも上質な素材だろうなとわかるような黒。長い髪は1つにまとめて、お団子?みたいになっている。

男らしい背中と上げられた髪、白いうなじ、真っ直ぐにすらりと降りた浴衣姿。
色気が半端なかった。

ああ…さすが魔王様ですねぇ、と思いながら朔間先輩を見ていると朔間先輩が俺を見た。

「……なんですか。似合ってないとか?」

「浴衣に似合うも何もないじゃろう。」

「そうですか?朔間先輩、それめっちゃ似合ってますよ。俺は鏡の前でこの姿を見て今日はやっぱりやめようかな、って思ってましたもん」

「そこでやめておったら今頃我輩から絞められておったのう。」

「う…」

クツクツと笑う朔間先輩は楽しそうなので何よりだ。とりあえず機嫌を損ねなければヨシ、オーケーだ。

なれない下駄で歩いていると人がだんだんと多くなってきた。

並び立つ屋台。夏祭り独特の賑わいに少し俺はテンションが上がった。

「人多いですねー」

「まぁ夏祭りじゃからのう。」

道行く人が朔間先輩をチラ見してるのがわかる。わかる、そりゃこんな色気カンストしてるような浴衣姿の人が歩いてりゃ目惹かれるよなぁ。

「俺、りんご飴食べたいです。あとかき氷も。ふわふわしたやつ。」

ここまで来ればもう楽しんでやろうと思ってとにかく食べたいものを上げていく。

「そう急ぐでない。人が多いからのう、そうじゃ手を繋いでやろう。」

ん、と当たり前ように出された朔間先輩の左手。

………え?

俺は目を丸くしてその手を見つめた。

「…え?いやいや、そんな子供じゃないんですから。手なんて繋がなくても」

ははは、と笑いながら朔間先輩を見たけど俺は途中で声が止まった。

「あ?」

……やばい。キレてる。

「あ、ありがたく御手を頂戴いたします……。」

左手を差し出したまま、眉間に皺を寄せる朔間先輩にへこへこと頭を下げなから、恐る恐る俺は右手を出した。

出した途端、すっと握られてああ…こりゃ、逃げれないな…と思った。

「じゃあまずはりんご飴から行こうかのう。」

さっきとは打って変わって楽しそうに歩き始めた朔間先輩に、この人は自分の思い通りにならないと機嫌が悪くなるの自分でわかってるのかなぁ、と俺は首を傾げた。

りんご飴を買って、焼きそばも買って、食べたあとに最後にかき氷を買った。

歩き疲れて屋台から少し離れた人が少ないところに行って、適当に近くに腰掛けた。

「はぁ…暑かった…」

熱気と動いたせいで汗がじわりと出て首を伝う感覚がむず痒かった。

それがまたつめたいかき氷を美味しくさせて、俺はパクパクと口に運んでいた。

「冷てえー。おいしいー。」

朔間先輩は横で扇子を仰ぎながら目を細めている。さすが、扇子とかどこまでオシャレなのか。

「あ、花火。」

川が近くにあるから涼しい風がくる。涼んでいると体に響くような音がして、空には綺麗な大輪が咲いていた。

「おおー、綺麗…。」

ドン、ドン、ドン、と何発も上がる打ち上げ花火。視界いっぱいに広がる花火に来てよかったなと思った。朔間先輩も上を見上げている。

「夏、じゃのう。」

ぽそりと呟いた朔間先輩に、俺は何も返せなかった。

「俺、あのいっぱい連続してバチバチなる花火が好きです。」

「くっくっ、」

何が可笑しいのかわからないけど朔間先輩は喉を鳴らして笑った。多分、大方俺が子供っぽいとかで笑ってるんだろう。

いつものことなので気にせず花火を見ながらかき氷を食べた。

最後に大きな大きな花火が上がって打ち上げ花火は終わった。

綺麗だったなあ。かき氷も美味かったし。

かき氷と言えば…

「朔間先輩、俺のべろ。色、すごいことになってます?かき氷で。」

かき氷と言えばその色が舌に移って小さい頃、鏡の前で色が変わったのを見ては面白がってた。それを思い出して俺は朔間先輩にんべ、と舌を見せた。

「………。」

朔間先輩がじっと俺を見た。え、面白いかなと思って見せたけど笑う要素なかった?

恥ずかしいな、と舌を引っ込めようとしたのになぜか朔間先輩の顔が目の前にあって舌を吸われた。

「…っ?!?!」

びっくりして離れようも、頭を固定されて濃厚な、キスをお見舞いされたわけだ。

俺のかき氷で冷たくなった舌に朔間先輩の舌の温度が伝わってきた。散々弄んで満足したのか唇を離した朔間先輩は、月明かりの下で艶めかしい目をしていた。

「真っ赤。いちご味。」

低い声がずくりと背中をなぞった。

「な、な、何してるんですか…っ」

「べろ、見せてくるんじゃもの。」

ケロッ、としたような顔で俺を見下す朔間先輩。

「こ、こういうことはですね…っ、」

こんなところでやるものじゃ…っ、ていうか俺とやるものじゃ…っ、と言いたかったけど朔間先輩が遮った。

「あ?剥がされてーのか?」

「ち、ちがっ!」

「昔みたいに丸裸にしてやってもいいんだぜ?」


ああ、思い出しただけで頭が痛い過去が浮かんだ。夏祭り。小さかった俺たちは浴衣を来て下駄で駆けながら、きゃっきゃと花火を見たり楽しんでいた。

真緒も凛月も朔間先輩も俺も浴衣で、4人で遊んでいたのに、いつの間にやら朔間先輩が俺を引きずって2人に。俺は動き回ってたから、浴衣がよれていて…。
「零くん、離してよ…。浴衣が…おかーさんに直してもらってくる…」
「あ?関係ねぇだろ。いいんだよ浴衣なんて」
「や、やだよ。ぐちゃぐちゃになったらかっこ悪いもん…。」
「…うるせー。脱がしてやろうか?ははっ」
やだやだ、やめてよ、と抵抗する俺に笑いながら浴衣を引っ張る朔間先輩は本当に悪い顔をしていた。今でも思い出せる。ほんと悪魔みたいだった。
半べそかく俺の浴衣を引っ張ってはだけさせて、挙げ句の果てには浴衣脱がされて、俺は肌着とパンツ一丁に。泣き喚いてると真緒と凛月が来て、びっくりした顔で俺を見た。
「うわぁぁ、零くんが、零くんがいじめるぅぅぅっ…!」泣きながら伝えると当の本人はケラケラと笑っていた。

「ちげえよ。なまえが遊ぼ、っていうから遊んであげてただけ。な?なまえ楽しいよな〜?」

泣いてる俺の横で楽しそうに笑う朔間先輩を忘れたことはない…。ほんと、どこのガキ大将だよっていう…。




そういう過去があるために、俺は朔間先輩に抵抗はできなかった。

「…はぁ嫌な過去を思い出してしまった…」

「ほれ、帰るぞい。」

なんでもないように朔間先輩は立ち上がって俺に手を出した。

「……もう人は少ないですけど…。」

人が多いわけでもなく、少ないのだから手を繋ぐ必要はないと思うんですよ、俺は。ジト目で朔間先輩を見ると「だから剥がされたいのかっつってんだよ。」と返された。

そんなこと言われたらその手を握るしかないだろう?

はぁ、とため息をつきながら手を出したら、朔間先輩の手が重なった。

夏祭り、いちご味、べろ。思い出しただけで真っ赤になった。

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