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青葉つむぎに引っ張られて、校舎の中へ入っていく。

イベントがあったりした時しか入ったことはないけど、初めてのように未知の場所に思えた。

「ここで履き替えます。えーと、みょうじくんの下駄箱はここですね。」

自分の下駄箱があって、本当に本当に俺がこんなところに入るのかと、未だに信用できない。

そもそも、これは何かの間違いじゃないのか。

「あ、それと俺と同じクラスですよ。よろしくね。とりあえず…職員室に行きましょう」

何なんだこの展開は。職員室って、本気か?嘘でした、からかってました、なんてことなら想像できるし、納得もできる。今ならまだ許せるから早く暴露してくれればいいのに。

それなのに青葉は迷うことなく俺を誘導してあっという間に職員室に来た。

「ここが職員室ですよ。」

「え…や、あの…」

「ちょっと待っててくださいね。」

青葉が離れてしまって何もすることもできず突っ立っていると先生らしき人と一緒にやってきた。

少し話をしようと言われて、個室に入る。説明され担任の教師だと言われた。
俺が普通科で不登校のことを知っていて、今回移動するのも詳しくはしらないが受理されたから君はもうアイドル科だよ、と。

さすがに教師を巻き込んでのドッキリなんてのはないだろうから本当なのかと目眩がした。

「あ、の…でも親には…」

そうだ、俺は親になんの一言も言ってないんだぞ。それなのにアイドル科なんて聞いたらびっくりするだろう。なのに…

親御さんの了承も得ているみたいだよ、と押印された薄っぺらい一枚の紙を見せられた。たったこんな紙切れで俺の学校生活が変わってしまうなんて馬鹿みたいだ。

いや、事実アイツのたった一言で俺の人生は変えられた。俺の人生なんてそんなもんか。

そう考えると一気に脱力感が襲ってきた。

それからはぼーっと説明を聞いていたが一切耳に入ってこなかった。

一通り説明されたのか、また青葉がやってきた。考えることもできず放心状態で青葉の後ろ姿を見ながらついていく。

「じゃあ、教室に行きましょうか。」
「え…」
「3年は3階になるんですよ〜。」
「ま、待って…。教室とか…無理…」
「…大丈夫ですよ!皆みょうじくんのこと知らないから、これからまた新しく「無理!無理に決まってるだろ…」」

「みょうじくん…」

青葉の視線に耐えられず俯いた。無理に決まってるだろ。他人となんて関わりたくない、話したくもない。だから引きこもっていたのに…。

「あの、みょうじくん以外にも不登校の子、いたりとか学校に来てるけど授業に出てなかったりとか、もちろん仕事が入って来れない子もいたりとか、色んな人がいてアイドル科って結構自由奔放な人が多いんです…だから、皆深く気にしないと思いますよ?」

「無理…。俺には無理…。アイドル科なんて無理…。ア、アイツは…?アイツはどこにいるんだ…?」

「零くんのことですか?」

名前を言うのも嫌だから、コクリと頷けば伝わった。アイツに一言物申したくて仕方がない。俺は腹の奥底で怒りを抱えているのだ。俺の人生かき回しやがって、挙げ句の果てにはこんなことにまで。

「うーん、多分教室にはいないと思います。」

「何で…。」

「零くんあんまり授業出ることないですからねぇ」

「…クズだ…。」

青葉に聞こえないよう気をつけながら、吐き捨てるようにこぼした。

お前のせいで俺は外にも出れなくて引きこもってたというのに、授業にも出ず奔放に過ごしてるなんてクズだと言いたい。

「みょうじくん、これ勇気が出るおまじないです。」

俺の手のひらに載せてきたのは小さく折られた赤いハート型の紙だった。

折り紙か?俺の手に乗せたあと少し耳を赤くして慌てふためいたように青葉は手を振った。

「あ、ご、ごめんなさい!気持ち悪いですよね…。俺、おまじないとか占いが趣味で、ちょっとでも楽になるかなって、」

手に乗せられた赤いハートの折り紙を見て、潰れないように握りしめた。

こんな紙切れにそんな力があったら俺は今頃普通に学校生活をおくれているはずだ、と思うのに青葉のその気持ちを無下には出来なくて何も言わなかった。

「…1歩踏み出してみませんか?俺も一緒に行きたすから。」

どうしてここまでしてくれるんだろうか。

ちらりと青葉を見上げると、微笑みかけられたから目を逸らした。
こっちだよ、という声にしたがって足を踏み出す。

もう俺に失うものなんてない。
なら、この未知の世界に身を投げるのもいいのかもしれない。